なる@c さんの感想・評価
3.3
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 2.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
緻密に作られたセカイ
2016/04/23
後に『秒速5センチメートル』、『言の葉の庭』、『ef』シリーズ(原作ゲーム)OPを手掛ける新海誠が自主制作作品として公開した作品。驚くべきことに、監督・脚本・演出・作画・美術・編集などの作業をほぼ一人(+Mac一台)で行った。音楽は後に新海作品、『ef』シリーズでお馴染みとなる天門。間延びしていると仰る方もいると思うが、この映画にはそれが必要なのだと思う。
主人公・昇とヒロイン・美加子は友人という間柄ではあるが、互いに恋心を感じ合っている未来の恋人だった。しかし、その未来が訪れることはなかった。高校に進学する昇と、国連宇宙軍の選抜メンバーとなって未確認の敵生物・タルシアンを調査する遠征に出ることになった美加子。二人の行く道は決定的に違えてしまったのだ。その間、昇と美加子はメールでやり取りをすることとなる。もちろん、相手は宇宙のどこにいるかわからない。電波の速度をもってしても送信してから届くのに数ヶ月の期間を要する。昇の学生生活は、いや、人生は、美加子からのメールを心待ちにすることのために消費されていくこととなる。美加子が地球から離れるにつれ、その期間は長くなっていき、彼女からのメールで次のメールにかかる期間が8年だということを知った時、昇は何も考えられなくなった。
彼女の帰りをいつまでも待ち続けるという昇の決意と、その決意を減退させる美加子のメール。僕らが昇側に感情移入できるのは、他のアニメ作品の1.5〜2倍、背景表現に時間が割かれているからだと思う。たしかに景色は素晴らしい。しかし、今僕らが見たいのはそれじゃない。この焦れったさこそが昇の気持ちだと思うのだ。美加子のことを思えば思うほど、頭のなかの美加子を意識していく。現実と乖離していく。そうして一歩引いて見た日常の風景はとても美しい。日本人から見て何も思わない富士山の景観に外人観光客が涙するように、スペイン人が見慣れるサグラダ・ファミリアに日本人観光客が圧倒されるように。自分から遠いセカイほど綺麗に見えるということが表現されているのではないかと感じる。
二人の距離を近いと思うか遠いと思うかは各々の判断による。二人以外に登場人物がいないセカイ系であるにも関わらず、実際の距離にするとまさに天文学的な距離のやり取りをしている。本来、狭いセカイの中での行われる二人だけの、世間に干渉されない物語であるにも関わらず、セカイが広い(長い?)のだ。相当な期間を要するが、なまじメールが届いてしまうからこそ、切なさは宇宙を超えて二人が共通に抱える。そうでなければ、8.7光年という数字で諦めてしまうだろう。メールが最後の枷になっている。
新海誠といえば徹底した色彩感覚による背景美術だ。作品を経て確実に精密さを増しているのがわかる。しかし、自主制作の『ほしのこえ』の時点で、既に他のアニメに劣らぬ素晴らしい個性のある背景となっているのだ。今も新海誠の背景に重要な逆光表現、水滴表現、赤と青をグラデーションさせた夕焼けから夜空への移行表現は今も引き継がれている。
個人による自主制作作品ということを差し引いても、一つの作品としてまとまり、かつ新海色も出せていると思う。