「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲(アニメ映画)」

総合得点
76.8
感想・評価
498
棚に入れた
3351
ランキング
671
★★★★☆ 3.9 (498)
物語
4.1
作画
3.7
声優
3.8
音楽
3.9
キャラ
3.9

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ネタバレ

なる@c さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

理性的なニャースに涙した

記念すべきポケモン映画第一弾。
通算何十回観たかわからない。一言一句セリフを覚えている。なのに、なぜこうも泣けるのか。

 この作品は、最初の20分をミュウツーが誕生してから人間へ憎悪するまでの過程を描くことに使う。アニメに登場するキャラクターはシゲルとサカキ(ともに数十秒の出演)のみである。少し異常ではないだろうか。昨今の中高生以上向けアニメ映画であればこの構成もわかる。後に続く物語の伏線が散りばめられていると思うだろう。しかし、この映画は小学生向け。小学生の頃の僕は、アイス・エイジの導入部分でさえ退屈で寝てしまったくらい堪え性がなかった。ここまでではないにしろ、自分が全く知らない研究者や子供の話が20分続くことに耐えられると思うだろうか。おそらく、アイツ―とミュウツーのくだりがなければムリだったと思う。まあ、脚本の首藤さんも初見の小学生に一回で全てわかれと思って作ったわけでもないと思うが。
 この時点で観る側はミュウツーに自己投影する。そして「もし自分がこうだったら?」を想像する。それが狙いだ。そもそも一番始めからマンキーが移動する木のツタ越しに遺跡探検隊を覗き見る画から始まる。テント内の探検隊を神の視点から見る画に加えて、作り出されたミュウツー目線で培養液越しに研究員を見る。徹底的にポケモン目線で人間を見るように計算されているのだ。そう見てみると、博士がアイツ―を作り出し、ゆくゆくはアイを蘇らせようと思っていることは、親の愛とは違う歪んだ固執に見える。クローンとはいえ、生命が亡くなるサマを見て「今回も失敗か」と溜息をつく研究員や、ミュウツーが意識を取り戻した際の「最強のポケモンの完成だ」という浮かれた研究員の声を聴くと、少し嫌な気分になる。そして、ミュウツーに対して同情とは少し違う、なにか親近感に近いものを感じる。
 20分の回想シーンが終わり、サトシと海賊風トレーナーとのポケモンバトルに合わせてオープニングがかかる。場面は変わって海岸沿いの船着場。ハリケーンで船が出ないため(ミュウツーの策略)、腕利きのトレーナーが自慢のポケモンに乗ってポケモン城へ向う。城に着いたのは三人。それぞれ、自分を連れて行ってくれたポケモンの労をねぎらっている。私利私欲のためにポケモンを研究する研究員、ロケット団らとの対比だ。
 回想シーンについてはここまで。残りは、個人的なミュウツーの逆襲の魅力について。


 僕はこの映画を観るまでゲームのポケモンしかプレイしたことがなく、俗にいうアニポケは観ていなかった。嫌いというわけではなく、外で遊ぶのが好きで、19時にはもう寝ていたからだ。なので、ポケモンを捕まえて戦わせるゲームという認識で、ポケモンに人間らしい感情があるとは思っていなかった(だって、実際ゲームのポケモンは喋ったりしませんし。。。)。そのきっかけとなったのが、今作品だ。
 後半、ポケモンが自分のクローンと戦う中でのニャースのセリフに、幼い僕は涙が出た。
「これ痛いだろうニャ〜……」ニャースはクローンのニャース相手に一度は構えたが、構えを解いてこう言った。相手の痛みを想像して戦闘をやめたのだ。これがアニメポケモン初体験だった幼い僕には衝撃的過ぎた。虫をバラバラにすることに何の抵抗もないガキとしては、初めて人間以外の命について考えた出来事かもしれない。その後、戦意をなくしてニャースとニャースツーは夜空を見上げ、月についてお喋りをし始める。前述の研究員に比べ、なんて理性的なのだろう。映画のスタッフだけでなく、ポケモンをここまで身近かつ奥深いキャラクターとして確立させたアニメスタッフに敬意しかない。

 アドバンスジェネレーション以降のポケモンから見始めた人も多いだろう。もしかしたら、そういう方にとっては半ば常識になっていて何を今さらと思うかもしれない。しかし、物事には始まりがある。ポケモン史上初の映画作品をリアルタイムで観た世代としては、この感動が消えることはない。ニャース、ミュウツーへの思い入れも異なれば、主題歌『風といっしょに』への印象も異なる。僕らの世代が『風といっしょに』を聴くとまるでスイッチを押されたかのように涙を流してしまうのには、そういう初めての思い出によるところがあるのだ。
 だから自分たちは他の世代よりラッキーだとか、そういうことではない。自分の世代にしかないものを探す楽しさを知ってほしいのだ。ガンダム世代、ボトムズ世代、エヴァ世代など、その世相を反映した代表作がある。おじさん達はそれに誇りを持っていると思う。しかし、僕らもまた誇りを持っている。けいおん!世代も大いに誇っていることだろう。アニメを語る上で、その『自分しか経験できないこと』を経験しているにも関わらずその作品同士を比較するなということだ。それは、もう配信されていないミュウを誇るようなものだ。ズルい。

 話がズレたかもしれない。閑話休題。
 音楽の話をしたい。まずは上記の『風といっしょに』。言わずと知れた名曲、いや、神曲と言って差し支えないかもしれない。曲調が物語終盤のミュウとミュウツーがクローンを連れて旅立つシーンのBGMとシンクロレベルで合っている。また「歩き続けてどこまで行くの?」という最初の歌詞は、そのタイミングでまさに歩いているサトシ一行に対してのものとも、どこかへ旅立っていったミュウ、ミュウツーに対してのものとも、はたまた、届かぬ願いのために研究を重ねる(物語序盤で死亡したと思われるが)博士に対してのアイのセリフとも思える。もちろん、この作品を観る現代人に対しても強烈なメッセージ性を秘めている。大団円を演出し、さらにその後どうするのかと問うその曲調は、ポケットモンスターという作品そのものの未来を見据える楽曲のようにも思える。
 また、オープニング曲のめざせポケモンマスター'98は素晴らしい。劇中ではフルでかからないが、ラスサビ前のホーンセクションが耳に心地いい。神保彰のドラムはスネアの音の抜けが非常によく、エリックのトランペットもキレがある。原曲に対してかなり陽気になっていて、一聴の価値有りだ。
ピカチュウがミュウツーのモンスターボールから逃げるBGMなど、劇伴曲も独自の色がある。

 今一度見てのレビュー執筆なので思い出補正ではない。しかし、仮に思い出補正だとしても構わないと思っている。自分の好きなものに高評価をつけて悪いことなどないと思う。そうじゃないですか?

投稿 : 2016/04/18
閲覧 : 552
サンキュー:

10

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