「クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険(アニメ映画)」

総合得点
74.7
感想・評価
263
棚に入れた
1631
ランキング
881
★★★★☆ 3.9 (263)
物語
4.0
作画
3.8
声優
3.9
音楽
3.7
キャラ
4.1

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ネタバレ

なる@c さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

外堀を埋めるホラー&怯えからの脱却(背動もあるよ)

2016/03/15
終盤の、オカマ魔女マカオ、ジョマとの追いかけっこシーンが感想の大部分を占める。
該当シーンは湯浅政明が絵コンテ・作画を担当している。一目瞭然。

地球を賭けた競争にもかかわらず(現状スゲーナ・スゴイデスの魔法以外に対抗手段がないので、野原一家の敗北はオカマ魔女による地球制服を意味する)、その中でユーモアが詰まっていて、観るものの頬を緩ませる。脚を引っ張ったり、名刺をジョーカーに見立ててわざと投げ捨てたり、タンスにマカオのサスペンダーを取り付けて妨害したり。子供向けアニメなので血も暴力シーンもない(後のオトナ帝国はかなりハードな内容となっている)。

また、背景動画をこれでもかと盛り込んでいる。最初の階段を駆け上るシーン、マカオが名刺を破ったあとみさえがしんのすけを連れて坂を上るシーン、しんのすけを先に行かせて別の塔に移るシーン、しんのすけが脱出口に向かって駆けるシーン。以上だろうか。疾走感とともに、人物が画面上で大きく動かないため、何をしているのかがわかりやすい。また、パースの変化で建物が歪むため、ただでさえ素晴らしく独創性の高いヘンダーランドの絵がより一層充実感の高い絵になる。気がつけば、映画に没入している。あ、そういえばマカオとジョマが互いの名を呼び合うシーンも背景動画だ。あのシーンも、この絵コンテでなかったらここまで没入できなかっただろう。初登場シーンでは視聴者の笑いを誘うキャラクターであったのに、消滅シーンではなぜか少し切ない。愛されるキャラである証だと思う。



では、残りの感想はどのようなものか。大きく二つある。
一つ目は、しんのすけが珍しく歳相応の怯えを見せるところ。もう一つは、劇場版クレしんで1、2を争うホラー演出の濃さだ。要素の大部分は、ス・ノーマン・パーという雪だるま風の悪役によるところである。この二つを解説する。

しんのすけがトッテマ・パペットの話を聞いて遠足から帰宅したあと、風呂でトッテマと再会し、魔法のトランプ スゲーナ・スゴイデスを託される。人形のトッテマより、人間のしんのすけが使った方が強力というのが理由だ。この能力を使い世界を救ってくれと言われるしんのすけ。しかし答えはノーだった。当然だ。幼稚園児がいきなり世界を救えと言われても、何が何だかわからない。

しかし、この後再びトッテマと会うと、しんのすけの答えは変わっていた。怯えについては一時中断して、ここからはホラー表現について。

遠足からしんのすけが帰ったあと、トランプを取り返すために春日部駅にス・ノーマン・パーが現れる。待ちゆく人に声をかけ、いじめられるマサオを助け、教育委員会の人間を騙って幼稚園に忍び込み、雪だるまギャグをかましながらみんなと遊ぶ。大らかで竹を割ったような性格の良い人だと周囲に認識される。
みんなと分かれて幼稚園のトイレで用を足すしんのすけ、するとス・ノーマン・パーが入ってきて、自分の正体を明かす。その日、周囲に「ス・ノーマン・パーは悪いやつだ」と説得するが、聞き入れてもらえない。ただ1人、最初に出会ったマサオは彼に対して不気味な怖さを感じているという。
帰ると、家にはス・ノーマンパーがいた。みさえは彼に対して警戒心をもっていない。一度は帰るが、帰宅途中のひろしと意気投合し、再び野原家へ。睡眠薬入りの酒を飲ませ、しんのすけとふたりきりになったところで、狂気を露わにする。「テメーのそのじゃがいも頭ブチ割って脳みそストローでチューチューすするぞガキ!」 と、子供向けアニメの域を逸脱した暴言で劇場の子供を震え上がらせた。古川登志夫の容赦無い名演である。
ス・ノーマン・パーの恐ろしさは暴言の恐ろしさと暴言シーンでの影がかかった作画にもあるが、なによりも「外堀を埋めていく怖さ」である。自分以外の誰も危険意識を持っていない恐怖。むしろ自分の頭がおかしいと言われてしまう恐怖。おそらく子供は、この映画で単に怖い画だけがホラーではないということを思い知るはずだ。現に、ス・ノーマン・パーがトラウマになった人も多い。

ス・ノーマン・パーからもらったチケットで、野原一家は再びヘンダーランドに行く。既にテーマパークの内情を知っているしんのすけの浮かない顔と、全力でアトラクションを楽しむ野原夫妻のギャップが恐怖を煽る。夫妻は帰り際にトイレで誘拐され、人形とすり替えられる。無表情の人形は家でしんのすけを襲う。遠足の時点でホラーは既に表面化していたが、トッテマとの決別で日常に戻ったとしんのすけは思っていた。しかしそれは突然しんのすけに牙を向いたのだ。現れたトッテマの機転によって、人形は機能停止した。そして、トッテマは再度、地球を救うため、そして何より誘拐されたしんのすけの両親を救うために力を貸して欲しいと懇願する。しんのすけは、勇気を振り絞ってイエスを答えた。

世界を救うなんて大それたことはわからないが、今そこにある両親の危機に黙っていられないという幼稚園児らしさはある。そして、そのために1人で電車とヒッチハイクでヘンダーランドに向うしんのすけの成長が、物語をポジティヴな方向にイメージさせるのだ。これ以降のしんのすけに怯えは見られず、マカオとジョマとのババ抜きでもジョマと談笑する余裕がある。

しんのすけの良さとして、外見と内面を切り離して考えられる点がある。褐色のお姉さん、チョキリーヌ・ベスタに最初は味方しそうになってしまうものの、その内面の悪性を認識すると頬の赤らみも消え、敵対心を示す。子供の特権、失敗と成長というものを考えると、クレしん映画は子供の教育上非常によろしいものだと思う。そう思いません?PTAの皆さん。

ババ抜きのシーンは笑いあり感動ありの名シーンだが、皆さんが語っている以上の感想はないので割愛する。
しかし、大塚芳忠さんと田中秀幸さん始め物語の最初から最後までベテラン声優が土台から支えているアニメだなと思った。
ぶりぶりざえもんは全く役に立たないが、塩沢兼人さんの声も久々に聴けてよかった。

このアニメは暗黒タマタマ大追跡、オトナ帝国の逆襲と並び、クレしん劇場版の御三家と呼ばれている。
……僕の中でだが。

※追記 2016/03/16
言い忘れた。
あっさりとした終わり方が素晴らしかった。
僕のような素人であれば、ラストに姫との別れを感動的に演出してしまっていたところであろう。しかし、いくらトッテマ・マペットに心が乗り移っていたとはいえ、姫の素顔を見たのはラストシーンが初。感動的にはしにくい。結果として、しんのすけの勇気に対して「ほっぺにキス」というごほうびはとてもバランスの良い、納得の終わり方だったと思う。安易な感動でしんのすけの成長の物語に水を差さなかった監督、脚本家に拍手である。

投稿 : 2016/04/16
閲覧 : 402
サンキュー:

2

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