コアラ さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
『いのち』の実相に迫る旅路
アニメーションの一つの頂点を極めた作品です。
どなた様にも、ぜひご覧いただきたい作品です。
{netabare}
アニメを見ていて魂が抜け出そうな気分になったのは
初めてです。驚異の作品と言えましょう。(やまねむる){/netabare}
一話完結のショートストーリーがほとんどで、
一言でいうと怪異譚、奇譚と呼ばれる系統です。
{netabare}
原因不明の恐ろしい現象や存在についての昔話を
「蟲」という仮定の存在を切り口に再構築した
作品ともいえるでしょう。恐ろしいと言っても決して
怪談ではありません。なぜなら蟲には怨念はないからです。
むしろ人間同士の感情の軋轢から残酷譚が生み出される
構図となっています。かといって説話でもなく、視聴者に
わざと教訓を与えようとしていないふしが感じられますね。{/netabare}
・主人公ギンコについて
ほとんどの登場人物が着物なのに主人公は洋服を着ていますが、
明治初期だからという設定のようです。もっとも行商人の恰好も
武士の恰好もギンコには似合わないのですよね。
{netabare}
常に旅をしていますが、
一冬を一つの家で過ごしたこともあります。(春と嘯く)
蟲師ギンコは霊媒師やエクソシストではなく、
行商の薬売りに近い存在だと思います。
行く先々で蟲による害を取り除いたり、
村人の病を治癒したりしています。
蟲を退治するよりも、蟲を人里から引き離す手を打つことが多く、
人にも蟲にも優しい解決策を取ることが多いです。(篝野行)
人情は人一倍厚いのに、ムリに人間側に寄らないスタンスが
かっこいいです。(一夜橋){/netabare}
・蟲について
{netabare}
人の脳内に入れるほどの極小なものから山を覆う大蛇の姿あるいは
海底を這う巨鯨の姿、はるか上空を舞う竜の姿をとることもあります。
無数の蟲が集まり、光脈筋という川の流れのようなものになったりもします。
つまりどういうものなのかよくわからないものだということです。
般若心経にいう
「不生不滅 不垢不浄 不増不減」
のようなものかなと思ったりもします。
蟲は人を襲うためにいるわけではないですが、
人とかかわると害をなすこともあり、
ギンコのような蟲師が呼ばれることになるわけです。{/netabare}
・驚くべき皮膚感覚
目、耳、歯、脳内、体内、声、記憶を題材とした
ストーリーにこの作品の際立った特徴が見て取れます。
いやおうなく皮膚感覚を呼び覚まされることになります。
{netabare}
そして作品世界の中の深い森や竹林、里の土や草のにおい、
沼によどんだ水の温度を想像させるのはアニメの力と
言えましょう。人の体内に蟲が入っていく描写よりも
体内から蟲が出てくる描写の迫力がすごいですが、
それにより蟲というもののカタチやサイズ、
ダイナミズムというものが表現されていると思います。{/netabare}
・言葉少なな登場人物たち
早口でしゃべりまくる作品を見慣れていると
この作品ではセリフというものがひじょうに
重たく貴重なものだと思われてきます。
{netabare}
むしろセリフとセリフの『間』で感情が表現されており、
短いセリフに強い感情を押し殺した演技がすばらしかったと思います。
登場人物たちの暮らしや人生を想像させてくれます。
家族に対する愛情の深さは現代の人々以上のものを感じさせますね。
ギンコですら諦めたのに、一途に思い続けた結果として
思わぬ形で救いが訪れることもあります。
(虚繭取り)(籠のなか)(天辺の糸)
また、女性ならでは深い愛情が時に仇となり(綿胞子)、
思いやりが人の心を打つ物語となるのもこの作品の特徴です。
(山抱く衣)(暁の蛇){/netabare}
・作画について
作画は日本の海山を平凡ではあるが丁寧な絵を積み重ねていく
という手法でそれだけでも見ごたえがあります。
この背景描写により蟲の描写のインパクトが強いです。
海外の人から見ると見たこともない
ファンタジー世界に見えることでしょう。
蟲のデザインは恐ろしさより不思議さを
より感じさせるものとなっています。
アニメの表現力の偉大さを感じずにはいられません。
・音楽・音響
アコースティックでナチュラルな音楽が作品世界を演出していますね。
各ストーリーに沿ったエンディングテーマが用意され、深い余韻を
与えくれます。音響効果も控えめな演出に統一されていますが、
ひじょうに効果的でした。
・まとめとして
過去のどんなアニメとも似ていない、参考にされることはあっても
模倣することすら許さない高みに到達した作品だと思います。
外国のアニメファンも熱心に視聴しているようです。
蟲とギンコを通して、和の心、自然とは何か、生きるとは何か、
究極、いのちの実相とは何かを追及した名作であるといえます。
ぜひぜひご覧いただきたいと思います。
※( )書きは各話のタイトルです