NANA さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
大切なものを忘れてしまった大人達へ
「心で見た時だけ本当のことがわかる。大切なものは目に見えないんだよ。」(『星の王子様』原作より)
児童文学が原作になっているので一見勘違いされそうですが、この作品は大人向けだと思います。小さい子にはお勧めしません。(映画館で観た時の予告のラインナップからも子供向けではないことは十分伝わりました。)せいぜい主人公と同年代かその上、思春期以降のお子さん向けだと思います。でも、大人の方が心に刺さるのではないでしょうか。
他所のレビューですが、こんな星の王子様は嫌だ!とか原作の冒涜だ!というような感想を見掛けたことがあります。ある意味、そう思う方は純粋なのかもしれません。
私は、{netabare}星の王子様に会いに行くシーンは少女の夢だと思いました。でも、それが夢かどうかは重要ではなく、{/netabare}見た人がそれをどう感じるかが大切なのだと理解しました。
でも、レビューなのでここでは個人の主観で書かせていただきます。
原作をちゃんと読んだことはないのですが、原作の持つ独特の世界観やメッセージ性に最初から惹き込まれました。
本当は星5つにしたいのですが、日本語版のEDが残念過ぎた…好きな方には申し訳ないですが、ユーミンの歌はイメージ台無しです。星の王子様、昭和の日本に降り立つ!みたいな?(苦笑)他のBGMは雰囲気に合っていてすごく良かったのですが。あと、滝川クリステル下手過ぎです。台詞が少なかったのが幸い。
というわけで、音楽、声優だけ星5つに出来なかったのでこの評価です。
とにかくメッセージ性の高い作品です。私自身そのメッセージを全て拾い切れているか自信がないです。
冒頭から現代社会を風刺したようなカットが続き、大人目線でもちょっとやり過ぎでは?と思ってしまいました。小さい子が見たら怖がりそう。
主人公の少女は名門校へ入るために勉強一筋で、遊ぶこともせず、母親が立てたスケジュール通りにカリキュラムをこなす毎日を送っていました。そして大人達もまた、分刻みで管理され機械のように働きます。(電子基盤さながらの街はぞっとしました。)少女はその生活に疑問を抱いたことがありませんでした。老人と出会うまでは。
{netabare}
老人は『星の王子様』の作者サン=テグジュペリだと言われています。
老人と出会い、『星の王子様』の物語に触れることで、少女は想像の世界に没頭します。そして、老人との絆を深めていきます。
老人は言います。「間に合った」と。
この映画では直接の描写はありませんが、人生の別れについても独自の語り口で描かれています。
少女が読んだ『星の王子様』のラストは別れで終わっています。その結末に納得出来ない彼女は老人を責め立てます。やがて訪れる老人との別れを直視出来なかったのだと思います。
老人が病院に運ばれた夜、少女は星の王子に会いに行く決心をします。王子に会って老人を救ってもらおうと。(※1)それと同時に『星の王子様』の結末が悲しい物語でないことを確かめたかったのだと思います。
少女はその夜部屋をこっそり抜け出し、老人の家の庭にあるプロペラ機に乗り込みます。いつしか隣にはぬいぐるみのキツネが座り、ボロボロだった機体が蘇ります。母親は空っぽになった少女の部屋のドアを叩こうとして思い留まります。
この夜のシーンは新たな物語への始まりを意味します。が、残念ながら自分は頭の固い大人なので全て少女の夢だと思うわけです。(※2)あんなボロボロの飛行機が飛べるわけはない、ぬいぐるみが動くわけはない。
でも、この物語には正解はありません。見る人によっていくらでも捉え方があっていい。何を感じるかは自由だと。おそらくサン=テグジュペリ自身もそう望んでいることでしょう。
そして、例えあれが少女の夢だったとしてもそんなことはどうでも良くて、少女にとっては真実なのだと思います。少女が逢った星の王子も、胸のすくような冒険も、王子の星で見た薔薇も全て真実であり、『星の王子様』の物語を老人と共有出来たことが大事なんだと思います。
老人は一命を取り留めますが、別れはそう遠くはないようです。もしかしたらあれが最後の別れだったのかもしれません。
母親は娘と老人の深い絆を知り、老人に「ありがとう」と言います。少女は母親が知らないうちに大切なものを手に入れていた。そして少しだけ大人になった。序盤のシーンでは母親が典型的な教育ママで子供の気持ちを考えていないように見えたのですが、子供のためを思ってのことだったんですよね。最後はちゃんと子供の気持ちを理解してくれる優しい母親でした。あの夜少女の部屋のドアをノックしなかったから、少女も大切なものを失わずに済んだのです。
映画のラストは少女と母親が望遠鏡を覗きながら夜空を見上げるシーンで終わります。どこからか老人と星の王子の笑い声が聴こえてきます。
…これ、やっぱり老人は行ってしまったということですよね?まあ、そこも各自の想像に委ねられてますが。(※3)
遠い星で二人はまた出逢えた。少女は確信しています。だって、見てきたのだから。
この映画は死を悲劇としてではなく、美しく尊いものとして昇華させています。
少女の心の中では『星の王子様』は永遠に続き、そして老人も永遠に生き続けるんです。
少女が飛行機に乗って見てきた世界について
少女は従順で真面目な子です。理知的で年齢よりも少しだけ大人っぽく見えるかもしれません。最初はあまり感情を見せない子なのかなと思いましたが、可愛いし芯が強いしっかりした子でした。老人と出会ってからは表情も豊かになっていきます。
でも、名前がないんですよね。周りの登場人物含め固有名詞がない。これはキャラクターのイメージを固定せず、観た人が自由に膨らませられるように配慮されているのかもしれません。
少女が冒険した街は自分の部屋で見た"ガラス容器に閉じ込められた街"(※4)にそっくりでした。(父親が毎年誕生日に贈ってくれたもののようです。これもシュール過ぎます。)そして、"ビジネスマンが独り占めしていた星のドーム"は星のシールを吸い込んだ掃除機によく似ています。やはり、少女の心象風景なのだと思いました。そして、少女が見付けた王子は少女が思い描いた最悪のパターンでした。自分の星に帰らず、飛行士のことも薔薇のことも全て忘れて大人になっている。
少女は懸命に王子を説得します。瓦礫の山から飛行機で飛び立つシーンは鳥肌ものでした。星のドームを旋回しながらその時を待っていると、少女は躊躇わずドームに飛び移ります。本当に格好良かった。そして、星々と共に空へ帰るシーンへ。この辺りの演出は最高でした。夢と希望に溢れるシーンでした。
王子の星で見たものは決してハッピーエンドではありませんでした。王子の帰りを待っていた薔薇は既に枯れてしまっていたのです。それでも、少女は薔薇を見付けることが出来ました。空に輝く大きな薔薇を。
「いつもそばにいるってそういう意味なのね。」
すごく綺麗なシーンで少女の表情が印象的でした
「問題は大人になることじゃない。忘れることだ。」
{/netabare}
人は大人になると、忙しさのあまり大切なことを忘れてしまう。それは、夢を見たり想像したりすること、そして大切な人のこと。
それを忘れなければ素晴らしい大人になれるよ。
この映画は、それが一番言いたかったことなのかなと思いました。
追記 6/24
※1
{netabare}星の王子が老人を助けてくれると思ったのは、その前のシーンの老人の台詞(王子はいつも空から見ていて私を助けてくれる)から来ていたのですね。
※2
翌朝のシーンではパイプが倒れた後がありました。少女が老人の家の庭に落ちたシーンまでは現実のようです。
そこから先はやはり少女の心の中(夢)かなと。塀のこちら側が現実で向こう側が空想の世界とも取れます。不思議の国のアリスのような体験だったのかも。
本作の方が運命を自分で切り開いていく充足感がありますが。
※3
正確には、空を見上げて母子共に目を閉じる→老人と星の王子の笑い声が聞こえる、でした。母親も『星の王子様の物語』を読んで、心で見るを実践したのですね。
あと、直前に飛ぶ鳥の群れが一瞬、老人の魂を王子の星へ運ぶように見えました。
※4
全部で9個ありました。毎年誕生日に父親から贈られてくるとすると、父親は少女が生まれてすぐ出て行ったのでしょうか…{/netabare}