kurosuke40 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 5.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
身内を守る:右翼的な思想
1期も含んでの感想。
原作未読
多少ドロドロとした部分があるのに関わらず、この作品がどこかさっぱりとしている風に感じるのは、どいつもこいつも「身内のために」行動しているからだと思う。
(逆に言えば、個人の欲が薄く人間味に欠けてるように感じるけどね)
『戦いの神は殺生を禁じない。その代わり動機は大事。』
この作中において
戦う理由は”身内を守る”ためであり、
正しさとは”外部には悪いが犠牲になってもらってでも身内を守る”ことだ。
外部には悪いことをしていると理解はしている。その上で身内を守ることを優先する。その覚悟で戦っている。
(ちなみに、歌詞の夢とは”どこかの犠牲なしに身内を守れること”で、君とは身内の象徴だろう。
亡命したシェリーが戦闘を見続けたのはこの夢は夢であるとしっかりと自分に言い聞かせるためだと思う)
伊丹は趣味に生きると断言しながら、人助けに東奔西走するのは、彼にとって、身内を助けることは仕事や趣味など個人事を超越した優先事項であるから。
また彼は最後まで責任を取れないなら手を差し伸べない、逆に言えば手を差し伸ばすなら、つまり身内になったなら最後までやるという責任感もある。
人というのは複数の身内に属する。伊丹なら日本という身内、自衛隊という身内、小隊という身内、テュカたちという身内などなど。
本来どこかの身内を優先すると他の身内が被害を被ることが多いものなんだけど、自衛隊の面々が「伊丹なら……」とこぼす伊丹の凄いところは、どの身内も犠牲にせずに目的を果たす覚悟と立ち回りの上手さだと思う。
そして、もし彼の身内になったなら、決して自分は見捨てられない安心感があって、テュカは呼び慣れたからなんて言い訳してるけど、やっぱり「お父さん」なんだよね。
伊丹の周辺からは、身内を守る覚悟と守られているときの安心感というのを感じるんです。
(蛇足だけど、伊丹は、作中で語られる、末端まで決して身内を見捨てない二ホンという国の身内観の象徴みたいな男なんだけど、その伊丹の身内観は有事の(男性的な)身内観で、元嫁さんに指摘されているように、平時の(女性的な)身内観から見ると身内に求めることが違うよねというのが、彼が国の身内観の象徴と考えるとちょっと面白い)
半面、この正しさが劇的な形で現れたのはヤオで、
ヤオは故郷を救うために、炎龍退治を自衛隊に依頼に来た。
しかしながら、政治的な理由から依頼は断られる。
代替案としてどうやら伊丹という男を炎龍退治に仕向けるのも良さそうだが、伊丹にも断られる。
他に依頼のあてのないヤオがすべきことは、伊丹が退治に行くしかない状況を作り上げることだった。
故郷のためにヤオは”自身の良心を捻じ曲げ”て、伊丹たちが”大事に扱ってきた”テュカの心の病を刺激します。
そしてもはやテュカを救うには炎龍退治に行くしかないと煽る。
ヤオの心は煽ってなければ泣き崩れるほどズタズタで、伊丹たちの大事なものをぶっ壊して、かつ自分の心を曲げてでも、身内を助ける。
正しさはやりきれない。OP2でこの歌詞とともに彼女の背中を見せられるのは、心中察してほんと心苦しくて困ります……。
身内というものは伊丹を見るなら祝福とも、ヤオや復讐に生きるテューレを見ると呪いとも見える。
私は夢に生きているんでしょうかね。
あと思ったのは、この作品にはこのテーマへのよくありそうなアンチテーゼ的な存在がいないのも確かで、(一応、国会の質疑応答のおば……お姉さんくらいか)
作中では内は内、外は外という右翼的な態度と貫いても、熱が分散していくように差がなくなることをほのめかしているが、
実際は現代でもどっかの福祉国家みたいに身内に優しく外に厳しくした結果、内と外での温度差が広がるばかりという問題があるし、
またこの作品には身内を嫌う人も出てこない。身内は婚約者を除いて自分の意志ではなく生まれやら運で決めるのが大半で、中には酷い身内に当たる人もいる。
身内を助けたいという思いは、身内は助けるべきみたいな社会圧もあるけど、身内に恩を感じないとそうそう強くはならない。
この作品には身内に恵まれた人か、もしくは身内のために生きるしか生き方を知らない人しかいないように思えた。
だから内容的に浅いとも言えるが、個人的には下手に突っ込んで泥沼化せずに懸命とも思う。
確かに上のような問題はあれども、身内を助けたいという感情自体は大抵の人には自然な感情なんじゃないかと思うし、
この作品はそんな感情を呼び戻すところに重きを置いているように感じるから。
下手にあれこれ問題点を指摘しても、本当に正しい答えなんてでないから、あまり突っ込んだことは話さない。
でも、身内を助けたいという思いはお前の中にあるだろ?ということ。
岸田さん、東方アレンジのときよりメジャーの方が良いね。
東方のコンテキストより、他のコンテキストの方が合っている気がします。
OP2でサビで戦闘シーンを持ってくるのは、サビの背景をよく補完できてると思う。
サビは戦っている場面の心境だから。自衛隊側にも帝国側にも寄らず戦う人を映しているのもgood。
音楽PVよりアニメOPの方が歌詞に寄り添えていると思う。
OP2は使いまわしが多かろうが、要所要所は抑える。仕事のできる人のOP編集ですな。
色々と指摘されている通り、リアリティはあんまり感じなかったけど
右翼的という言葉は仰々しいけど、
要は身内を守りたいという素直な気持ちの延長とそれを第一において貫く覚悟なんだろうね、と教えられた作品でした。
ご精読ありがとうございました。