みかみ(みみかき) さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
マルモのおきてなんぞとは比較にならん。(追記)
近年、子育て話がにわかに脚光を浴びている…といっていいだろう。この『うさぎドロップ』しかり、芦田愛菜ちゃん大活躍の『マルモのおきて』しかり。(まあ、映画版の『うさぎドロップ』はやっぱり、芦田愛菜ちゃんなんだけどね…)
この正月にたまたま『マルモのおきて』を延々とやっていたので、いくらか観てしまったけれども、『マルモのおきて』が昔ながらのメジャー路線狙いのベタなテレビドラマなのに対して、『うさぎドロップ』はも少しマイナー向け。
*
で、本題。
大吉というキャラクターは一貫して責任感の強い人だな、と思う。不器用な人のようにもみえるけれども、なかなかバランスのとれた人だ。
これだけきちんとした人でありつつ、一方で子供に「大吉」と呼ばせることを許し、無骨さが愛嬌として同居する。この人格描写は、なかなかに複雑なのだけれども、きちんと筋が通っていて、たぶんこれは現実にモデルがいるんだろうという気がする。
*
全編、自分だったらりんちゃん引き取れるだろうか、などということを考えながら見ていたのだけれども、あー、自分はむりだなと思いつつ、同時にグッときたのは、部署異動をお願いするところだろう。
素直にすごいな、と思う。
仕事に賭けていた人が、仕事の水準おとすっていうのはすごいよ、ほんと。わたしには絶対できない。人生観が違うから。そもそもわたしは、りんちゃんも引き取れない。ひどいかもしれないけど、わたしは、それができない。
やっぱり大吉みたいな世界観の人の場合、それまで仕事の賭けていたいうわけではないんだろうな。「りんを引き取る」のも「仕事を頑張る」のも責任感の表出のバリエーションなのかな、と思う。わたしは、大吉みたいな人と一緒に仕事するとお互いに息苦しくなるタイプなんだけど、大吉みたいな人はほんとに偉いな、と思いつつ延々と見てしまった。
*吉井正子(りんちゃんの母親、漫画家)について
全編を通じて、一番「いいかげん」キャラとして描かれるのが彼女なわけだけれども、こういう人をきちんと描けているというのはすごいことだと思います。いいかげんさと、真剣さがどういうバランスで同居しているか、ということのサジ加減すばらしいですね。
これは、もしかしたら、作者自身か、あるいはかなり近しい知人がモデルなのかなという気がする。クリエイティヴの人間にありがちな、バランスの悪い人間なんだけど、こういう人物を大吉を描くいっぽうで、ちゃんと描けてるってのはすごいことだよね。大吉のような責任感全開のひとしか登場しなかったら、ただのちょっと説教臭いほのぼのストーリーでしかないしね。
大吉が、実家かえってから正子のことについて、お母さんが「それは、アレよ!ダメな人よ!」ってお母さんがしゃべるけど、あそこで、あのお母さんの台詞に、苦笑するかどうかで、この話の楽しみ方ってかわるよね。
*前田春子(麗奈ちゃんのお母さん、いとこ)
嫁ぎ先から逃げ出してくるって話は、あー、これはいい話だよねえ。だんなが敵にしか見えなくなるって話。これはそーだわなー。そうだろうなー、と思うよ。
じゅうぶんに、想像可能なはなしなんだけど、この尺だけで描くと、春子が家を飛び出すにいたった孤独さみたいなものが共感をもって読者/視聴者に伝わるかどうかはちょっと不安な感じは残るな、とは思った。あれ、かなり辛いと思うんだけど、なんか、大吉が責任感のある常識人対応によって春子のことをいなした感じになってるから、あそこで春子の辛さがけっきょく、いまひとつ伝わらんのじゃないか、という気がするんだよね。ああいう辛さが、「嫁姑テンプレ」とかで処理されることこそが、ああいう人にとって、もっとも苦痛なはずなわけで。あそこもうちょっと丁寧にかけてたら、すごくいいんだけどなー。
*一番かきわりのキャラクター:コウキママ
コウキのママは、今ひとつリアルの人物としての存在感がよーわからん。この人だけアニメキャラっぽいわな。
*りんちゃんについて
大吉みたいのに育てられて幼い頃こんな感じだと、順当にそだつと、けっこうしっかりした子になるんだろうな…
なんか事件とかあって、ちょっと捻りが入るとまたちょっとかわった人格になりそうだけれども…
しかし、アニメの範囲内だと、すっげーいい娘だよね。6歳~7歳で、こんなにいい娘になってるっていうのは、状況的にちょっとアダルトチルドレン気味だという気がする。死んじゃったおじいちゃん(宋一)のもとでの生活では、リンちゃんにメンタル・ストレスを与えてたんだろうな。
まあ、フィクションだから、そこまで設定考え込んでるのかどうかは、よくわからんけれど。
正子からのストレスなのかな。
そこらへんの、アダルトチルドレン染みた状況から、どんどんと大吉のもとで、のびのびとしていく、っていうのがあるわけだけども。
漫画版ではけっこう成長するらしいので、こんどマンガ版よむわー。
*話の焦点について
いちおう、「ほのぼのハートフルコメディ★」的な体裁をある程度たもっているけれども、個人的な好みでいえば、あんまそこに焦点化させて、ベタなマーケットを狙いにいかないでほしかったな。個人的には、そこの話の焦点化のさせ方がいちばん退屈だったので。
いちばん、グッとくるのは、やっぱり緊急一時保育の制度を検索してたり、どうしても仕事ことわれなかったり、大吉が何かをグっとこらえてるシーンとかなんだよね。
あと、春子が姑に気を遣ってるシーンとかね。揚げ物してるときに電話かかってくることの煩わしさを描くあたりとか、すばらしいよね。「嫁ー姑関係」みたいなものを、ただの馬鹿げた嫁いびりとかとして描くんじゃなくて、全体的にはパターナリズムな問題とかになってくはずなんだよね。
大吉のお母さんとかが、りんちゃんに対して結果的には非常に好意的な態度をとるのだけれども、しょっぱなの時点ではけっこう渋るあたりの意思決定の仕方とか、あそこらへんも最高。親戚のおじいさんの言葉遣いとかね、そういう様々な人のありようをきちんと描きだす手際が、全体的にきわめてすばらしい。
*
しかし、りんちゃんが鬼かわいい。ずっと世話するキャパはないけど、数日だったら、うちにおいて、ご飯あたえたり、ゲームさせたりしたいわー。
■追記:原作漫画との違い
漫画読んでるなう。
ちょこちょこと違うところはあるけれど、大筋おなじだった。やはり、原作よりもアニメのほうが出来がいい印象。
1:
原作では、大吉が悪い女に付きまとわれるところが20ページぐらいあるけれど、そこがアニメ版ではカットされている様子。
そこのエピソードがもとで、大吉が「女子全般」に対してちょっと問題あり発言をするところがその後もちょいちょい伏線として張られていて、春子が家出してきたシーンでも、春子の行動に対する批評に「感情にまかせた行動が俺には理解できなくて(略)女が苦手」という内語を発したりする。
アニメはきほんてきに大吉くんが非常にすばらしい人として描かれるので、大吉くんのそこらへんの落ち度に類する部分が省略されている。
大吉描写に関してけっこう重要なポイントだと思うのだけれども、ここをカットしたことで、アニメは単純に大吉を完全にいい奴にしてしまっている感がある。
演出レベルだとアニメのほうがすばらしく、人格描写の全体像としては漫画のほうがよりよいといったところだろうか。
2:
あと、りんちゃんが熱出して倒れるシーンが、アニメのほうがしっかり時間をとって描いている。こういう演出上のだいじなところに割いている時間は、アニメはしっかりしてるね。
アニメだとクライマックスがここだからね、きちんと描いてるのだろうね。
3:
アニメは四巻までの内容をかなりきれいに作ったもので、5巻以後は、りんちゃんは女子高生、こうきはイケメンになっている。
やー、こういう話になったかーという感じ。
アニメの内容とはまた別の趣のはなしになっています。
■追記2:マルモのおきて、との比較
マルモのおきては、テレビドラマなので、日常エピソードも、クライマックスシーンも全部ベッタベタにできている。
具体的には、
A:クライマックス:「いいか、おれは、おまえらを愛してる。おまえらが大事だっておもってるからこそ・・・云々」みたいな、ストレートな説得シーンとか、
B:日常エピソード:「わーい、わーい」と子供がはしゃぐ姿。子供の
C:子供の人格:基本的にかわいさ全開。トラぶったときでも、少しすると、おとなの意図を全面的に理解してくれる子供たち…賢すぎである。
という構成。まあ、どんな人にでもわかりやすい、というメジャー路線のテレビドラマにはよくある構成
一方、うさぎドロップは
A:クライマックス:あんまりない。一応、子育てをしているときの日常のちょっとほんわかする瞬間とかが、軽く焦点をあてられている。
B:日常エピソード:かわいさ全開だけでなく、子供にありがちなネタをなるべく全方位的に搭載。学童保育とか、家庭訪問とか、子供の宿題の手伝いの大変さとか…。
C:子供の人格:かわいいのもあるけれども、自尊心の芽生えみたいなところとか、わがままの言い方とかに着眼しているあたりは、すばらしいね。「手はなしちゃあぶないんだよ!」とか「わたしも、ふぉうちょうほしい!」とかいい出すのとかね。
尺は、マルモのおきて、も決して短くないはずなのだけれども、日常エピソードとして入れ込むものがマルモはことごとく、ベタな「かわいい子供」幻想に支えられている、という印象がつよい。
いっぽうで、うさぎどろっぷはもうちょっとまとも。
■ぱっと思いついた関連図書
*漫画
育児漫画としては、
東村アキコ『ママはテンパリスト』
これは赤ちゃんの時オンリーだけど、
木尾士目『ぢごぷり』
あと、小学生男子のフリーダムすぐる日常としては
小田扉『団地ともお』
*書籍
フィリップ・アリエス『子供の誕生』