どらむろ さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
冨野監督の自信作な優しいロボットアニメ。親子関係がテーマ、何度観ても戸惑う
ガンダムで有名な富野由悠季監督による、ロボットアニメ全26話です。
WOWOW(ワウワウ、日本初の民放衛星放送)初の記念すべきオリジナルアニメ。
監督の前作「機動戦士V(ヴィクトリー)ガンダム」が「皆殺しの冨野」全開なのに打って変わり、残虐展開を抑えた優しい作風なのが特徴。
…ただし、不倫やダメ親などの生々しさや冨野節は健在です。
OPが「ひたすら女性の全裸」というトンデモないモノですが…本編はエロやグロ皆無です。
「親と子の関係」や「人類と、自然や地球の意思(オーガニック的?)との在り方」といったテーマで、冨野節全開でドラマが繰り広げられます。
…マイナーな放送局や、とっつき難い作風の為か、隠れた名作な感じ。
極めて人を選びそうなアニメではありますが、(冨野ファン特にダンバインファンとしては)絶対外せない思い入れがあります。
…声優面では朴璐美さんのデビュー作。例えばハガレンファンの方も一見の価値…あるのかなぁ?(微妙)
{netabare}『物語』
……本編開幕以前に、真っ先に「女性の全裸オンリーなOP」にまずビックリ。
でも、不思議とあまりエロくはないんですよねぇ…。
ロボットアニメなのに、主役と主役ロボが出てこない!
初見では(いや何度観返しても)戸惑いますが、実はちゃんと意図があるんですな。
ロボットアニメだけど、機械的なロボット操縦するよりも、ロボット生命体と相棒関係(ロボット喋れないけれど意思がある)になって、まるで母や姉が子供に諭しているみたいな関係性が面白いです。
本作においては「パイロットとブレンパワード(ロボ)との対話」も重要な鍵になっている。
…人類とは異なる生命体との対話という事で、後の「戦闘妖精雪風」にも通じる作風かも。
言語による会話ではなく、思考形態が異なっていても共生の可能性を描いている感じ。
初見では非常に戸惑いますが…最後まで観ていくと、他の生命へのいたわりや優しさが大事、なんですかね。
舞台は「オルファン」という謎の海底遺跡(実は宇宙から来た巨大生命体?)の浮上で地球人類が危機に瀕している近未来。
国連とか日本やアメリカなどの既存国家がちゃんとある世界観。
…序盤初っ端から謎用語連発する分かり辛さはあるも、冨野節の功罪で、何とな~く世界観に引き込まれていく…。
ここは冨野節なやりとりのお陰で、「プレート」やら「オルファン」などの謎用語や、両陣営の目的なども、追々分かってきますから。
とはいえ、やっぱり初見ではかなり難解かも。
難解ですが、冨野節で強引に見せてくれる!
その過程で世界観や、キャラ同士の関係性も浮き彫りに…
親と子、姉と弟、老いらくの恋をする老人たち、不倫もやっちゃうけれど、それも人間だもの。
勢力関係が込み入るのが冨野作品、でも本作は主人公の勇や比瑪(ひめ)たちノヴィス・ノア陣営は「海底遺跡オルファンが浮上したら人類滅亡なので阻止する」クインシィやジョナサン達グランチャー陣営は「オルファンを浮上させて選ばれし者だけ銀河旅行する」
…「Gのレコンギスタ」よりは、よっぽど分かり易い。
それでも国連やアメリカ等の外部勢力も出てくる後半は少し込み入ります。
人間同士の争いな一方で、地球外生命体同士のケンカに人類も巻き込まれているような…。
※海底遺跡、浮上したら人類滅亡?人類の中に浮上させようとする勢力…
クトゥルフ神話の海底都市ルルイエっぽい?
関連あるかは微妙ですけど。
両陣営や個々人それぞれのドラマあり、親子関係が拗れちゃっているキャラ多く、喧しく冨野節なやりとりをしつつ、そこにオルファンやブレン達との対話を通じて「自然との共生」とか「生命の在り方(主に親子関係)」のような「オーガニック的」(本作のキーワード。これが何度観てもよくわかんない…)
な世界観を構築しているのだ…!
この時代、土を耕す農業が廃れている中で、勇や祖母の直子が実家でトマトを育てたり、ノヴィス・ノアで子供たちが土いじりしたり…
つまり人類は土から離れるべきではない、天空の城ラピュタ以来のメッセージがあるのだろうか。
オルファンの意思もまた花を活性化させる等のオーガニック的なモノは人類と同じ、そこに共に生きていく希望がある…っぽい?
生き生きとしている子供たちの在り方、そこにもきっと希望が込められている。
…冨野作品は幼い子供たち大活躍する話多く、無敵超人ザンボット3や機動戦士ガンダムなど、子供たちが値千金の活躍で仲間の危機を救うのも前例あり。
本作では特にタツノコアニメめいた活躍が微笑ましかった。
…初見では分かり難いのですが、冨野節のお陰て何とな~く?そんな意図を推測しつつ、話が進んでいく…。
肝心のロボットアニメとしては「聖戦士ダンバイン」寄りの空中戦、ワープ(厳密には超高速移動)駆使した独特の戦闘スタイル面白いです。
ロボットバトル的にはイマイチかも。キャラ同士の掛け合いがとにかく喧しい!
バトルだけでなく生体エネルギーが大事だったり、終盤ハイパー化(怨念に囚われたパイロットがロボごと巨大化)したり、本作はダンバインの系譜なんでしょうか。
ダンバインで描きたかったテーマを一歩進めて、親子関係や共生の在り方をリバイバル(やり直す)したのが、ブレンパワードなんでしょうか。
親子関係の葛藤がメインテーマな本作、最大の山場は9話「ジョナサンの刃」でした。
母親に対する屈折をぶつけるジョナサン、全26話中、正直ここが一番面白い山場でした。
「ジョナサン」八歳と九歳と十歳のときと、十二歳と十三歳のときも僕はずっと! 待ってた!
…11歳は!?と思わずツッコミたくなるw
拠点侵入される緊迫感、ジョナサンの歪んだ母への感情、幼い少年クマゾーの立派さ…
俗物と思われたモハメドの善意やジョナサンのクマゾーへの称賛など、人物描写が一面的ではない魅力は流石冨野監督です。
機動戦士Vガンダムのジン・ジャハナムとか。一見ダメそうな人でも魅力的に描かれるのが良いです。
「親と子で銃口を向け合う」ダンバインのリムルとルーザの悲劇を想起させつ…本作は随分と優しくなったなぁ。
13話以降は大規模な戦闘よりも勇などの個別エピソードでややスローテンポに。
勇とネリーの出逢いがドラマチック、遅れてきたメインヒロイン登場です。
雪に閉ざされた空間で少女が生きる意味、出逢いの意味を見つけた…
主役ロボ交代イベントとしては異色の展開でしたが、非常に良かったです。
終盤は敵の黒幕がまさかの意外な人…ええええ!?なんで!?
序盤前半すごい良い人だったのに、なんだか唐突に裏切られた気分。
国連とアメリカの関係など描写不足説明不足なので、ここら辺の勢力関係が何度観ても戸惑います。
前半でも勇の父の研作はグランチャー陣営の幹部なのに国連の会議に普通に出席してたり(え~?国連とも敵対してて人類滅亡させるオルファン浮上させようとしてる組織の幹部出てきたら拘束されるんじゃ?)
…ここら辺の勢力関係が非常に分かり難い上に説明不足なんですが、何度も観た上での理解だと、国連や人類国家も一枚岩ではなくてグランチャー側のシンパも多い、オルファン浮上阻止は必ずしも国際社会の総意ではないっぽい。
ここら辺は一応最後まで視聴すれば何となくわかる。
けど…初見だと戸惑うんですよ冨野さん!
…核兵器とブレンパワードの攻防は聖戦士ダンバイン35話「灼熱のゴラオン」を彷彿とする。
監督の次回作「∀(ターンエー)ガンダム」でも禁断の黒歴史の象徴だったり、冨野作品における核兵器には、象徴的な意味合いがありそう。
核兵器は人類の過ちの象徴、対するオーガニック的な力で防いで見せる!
それは若者たちとブレン(異星の生命体)の共に生きていこうという意思の力なんでしょう。
聖戦士ダンバインにおいてはただ嘆くのみだった核対オーラバリア、対する本作では積み重ねてきたブレンパワードとの交流や子供たちの成長した意思(やさしさ・思いやり)でよりポジティブなメッセージを感じるので、そこがこのアニメの好きなところです。
終盤は勇とクインシィ姉弟、ジョナサンと意外な人物との母子関係などが一気呵成に和解…かどうかはともかく、浮上しようとするオルファンの意思に 比瑪たちが対話していく過程で、「何となく」良い方向に分かり合えていく感じ。
ここら辺正直よく分からんのですが、まあハッピーエンドで良かったなぁ、と。
通してみると、序盤から一貫してオーガニック的な意思のやり取りや在り方を模索してきた積み重ねが結実したんだなって思える。
総じて、終始戸惑いつつも、最後まで観ると色々なテーマやメッセージを感じる力作でした。
終始戸惑っても、1話1話はグイグイ引き込まれる魅力はあり、多分、冨野節な雰囲気に呑まれている。
ただし冨野節に面白み感じられないならば、終始謎なだけのフシギアニメなのでは…。
バトルも萌えもあまり期待できないので、とにかく「オーガニック的」な電波を積極的に受信しなければ!
もう何度も観てますが、何度観ても微妙だけど何度観ても不思議な魅力を感じました。
…聖戦士ダンバインファンとしては、ダンバインの路線の正統後継作品だと見る。
それ故か、たまに無性に観返したくなるのです。
『作画』
真っ先にOPの全裸に驚くw 全然エロくないですけど。
冨野監督の注文通り目が大き過ぎない、今でも通用するキャラデザです。
勇はかなり美少年。比瑪はBLUESEED(ブルーシード)の藤宮紅葉ちゃんっぽい美少女で好みです。
女性陣が全般的にスレンダーで胸控え目なのも良い感じ。不自然な巨乳嫌いなので。
クインシィやヒギンズもスレンダー美女で可愛いです。
ロボットはオーラバトラー(聖戦士ダンバインのロボット)的な生体マシンな感じ、地味だけど独特の雰囲気あり。
エネルギーリングで飛ぶ描写は次々回作「OVERMAN(オーバーマン)キングゲイナー」にも受け継がれている。
互いに瞬間移動繰り返す独特の空中戦や射撃・剣劇戦は、迫力はイマイチかも。
オルファン浮上で壊滅しかかっているが豊かな自然の綺麗さ等の背景描写は魅力的でした。
『声優』
主要メンバーは本作の為に冨野監督が舞台俳優から起用した新人中心、本作で声優デビューした後の人気声優多し。
白鳥哲さん、村田秋乃さん、朴璐美(パク・ロミ)さん、青羽剛さん。
特に、後に鋼の錬金術師のエドワード・エルリックなど人気声優となる朴璐美さんのデビュー作です。
比瑪の村田秋乃さんもカナン・ギモスの朴璐美さんも声優としては上手くない気がしますが、演劇調な感じの冨野節が絶妙な演技でした。
МVPはジョナサン役の青羽剛さん、本作随一の狂キャラの本領発揮、冨野節のオンパレードの熱演良かったです。
次回作∀ガンダムでのイケメン紳士なグエン・サード・ラインフォードとはキャラのギャップが凄い。
この他冨野作品に関連の深いキャスティング、川村万梨阿さんは聖戦士ダンバインのお転婆妖精チャムとは違ってクールビューティー。
渡辺久美子さんは前作Vガンダムのカテジナさんを彷彿とするキツイ女性ハマってました。
何気にクマゾーも兼任、流石実力派。
ケロロ軍曹の人とは思えないw
磯辺万沙子さんは…キャスティングでネタバレしている事に初見では気付かなかった。
佐々木るんさんのショタ美少年、終盤登場の大谷育江さんの謎の幼女絶品です。
『音楽』
OP「IN MY DREAM」ED「愛の輪郭(フィールド)」共に名曲。
OPは映像で度肝抜かれますがw
菅野よう子さん担当の音楽面で素晴らしく、本作の独特の雰囲気に引き込まれます。
『キャラ』
かなりキャラ多い割には全員に見せ場と印象が残る辺り、流石は冨野監督。
セリフ多くて頻繁に互いの名前呼び合うのも、多いキャラ名覚えやすい。
主人公の勇が序盤はスネているけれど比較的常識人でした。
主人公らしく、一番健やかに成長していった。
冨野作品で、こんなに安定感のある主人公は彼くらいのものでは…。
宇都宮比瑪(うつみや・ひめ)ちゃんは天真爛漫で素直な元気娘、本作の屈折しがちな人間関係もなんのその、彼女の存在で本作全般が明るい雰囲気になっていた。
一番ブレンの心を理解できる優しい少女。
キャラデザも性格も非常に可愛いです。
終盤の勇との協力技は萌える。
勇のお姉ちゃん、クインシィ・イッサーはカテジナさんを彷彿…としながらも、単に強がっているだけの女の子な感じで、むしろ可愛いです。
狂人…と思わせて、実は根はやさしい子であった。終盤の可愛さは本作トップレベル。
…カテジナさんがいかに酷い狂人だったかわかる。セカイの優しさの差ですな。
ネリー・キムは出番こそ少ないが、勇にとって非常に大切な出逢いとなった女性でした。
出番少ない割にヒロイン度高い。
カナン・ギモスやヒギンズ・サスら他女性陣も恋愛面でキャラ立ってました。
アイリーンなど女性陣全員魅力高い。出番少ないけれどヤンチャな女性研究者さんかわいいw
一方の男性陣も病弱なイケメンのラッセ、有能な黒人(ラテン系)ナンガなど面白味あり。
ゲイブリッジ指令は良き上司にして人格者…たど思ったのに?
聖戦士ダンバインの黒騎士バーン・バニングスを彷彿とさせるバロン・マクシミリアン、その意外過ぎる正体は、何度観ても(えええええ…)と思うw
ハイパー化しちゃうのも黒騎士を受け継いでいる…
直子おばあちゃんや勇の両親など、子供から見てダメな大人たち…
でもこれも人間らしさ、妙に憎めない。
アラブ系の大富豪ミスターモハマドは俗物かと思いきや、実は信念のある好人物な辺り、一面的ではない人物描写巧いです。
大人たちがダメな一方、幼い子供組の逞しく健やかな姿が印象的でした。
特にクマゾーは大活躍。ジョナサンならずとも、なんて立派な子だと感心したくなる。
子供たちが立派だと、希望がありますね。
10歳の天才美少年カント君が大人びている…ようでいてやっぱり子供っぽい、絶妙なライン素晴らしい。
面白いキャラ多数な中で本作を象徴する名物キャラは、やっぱりジョナサン・グレーンでしょう。
野心むき出しの危険人物…な一方で、母の愛に飢えた哀しき男。
冨野節の名(迷)セリフの宝庫、セリフ回しがいちいち冨野節♪
「死ねよやぁ!」「勇!きさまは私の手を切った!勇が!」「潰れろってんだよぉ!」
「自分のプライドしか考えられない女のことなどで、だれが思い悩むか!」
「見えたぞ!あれはブレンパワードの自殺だぁ!」
…勇はじめ他のキャラが比較的大人しい分、ひたすら彼が吠えまくる。
「8歳と9歳と10歳の時と、12歳と13歳の時も、僕はずっと…待ってた!!」
これ好一番き。
他にも親に捨てられた勇を煽るセリフが最高に痛いところ突いた鬼畜セリフ、これも凄い。
お前の母ちゃんと姉ちゃんを親子丼してやったぞー!的なセリフ、これはヒドイ。
一方でクマゾーの勇気を称えたシーンで、彼も根は悪い奴じゃないと前半の時点で分かるのが良い。
ブレンパワードはジョナサンいたから面白かった。
…でも親子丼しちゃうのはダメだろ!?(小説版だとクインシィとはヤッてないっぽい){/netabare}