yoshia さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「君」に「届け」
「君に届け」
一見、抽象的なタイトルである。
少女マンガが原作ということなので、大方、視聴者のイメージするところは女性が男性に、この胸の内に秘める愛の気持ちが伝わってほしいというメッセージを想像することになるだろう。ただこのメッセージは抽象度が高く、単語からくる情報も少ないためか安直なイメージに結びつきやすい。そのためか、このタイトルについて考察される風潮が弱かったように感じられた。
ただ、2期を見終えた今だからこそこのタイトルに感じるものがある。それは安直でもなんでもなくて、作者が掲げたテーマがしっかりと織り込まれているのではないか?
「君」とはだれなのか。
風早なのか?
答えはない。
が、私は、黒沼爽子と風早翔太、二人を指していると思ってる。
互いに意識し合っているのに、こんなにもその気持ちが伝わらないのは、互いに言葉を重ねてこなかったからだ。相手に伝わっているはず、相手のことを理解しているはず、というその盲信が繋がっていた糸をいたずらにこじれさせた。盲目的になりすぎて一歩引いたところからものが見えていなかった。
自分の殻を抜け出して、心の底から君に届いてほしいと祈ったその時、彼らは彼氏彼女となった。
言葉を発したからこそ、分かりあえたのだ。
「君に届け」というこのタイトルは、あらかじめこの展開まで視野に入れて名付けられたのではないか勘ぐってしまうほど、爽子と翔太の清廉な願いが内包している気がしてならない。
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文化祭が無事閉式を迎え、生徒は校庭にてその余韻にまどろんでいた。
爽子たちもその一角の芝生の上に座り、遠目に生徒達を眺めていた。
あやねが爽子の名を呼ぶ。あやねが指した方向に振り向くとそこに風早がいた。
その場から立ち上がり、風早のそばへ寄った。
「違わないよ。同じ、でしょ。」
(・・・・・・・・。
・・・まさかと思いながら 打ち消せなかった 一つ見つけた可能性。 )
( 『―――――好きだよ!』 )
涙が、頬をつたう
「全部なんだよ…。
私、風早君…。全部欲しいんだよ…。」
「同じだよ…。」
風早が、爽子の両手をとり、
その手を合わせるようにやさしく包みこむ。
「 夢みたいだ―――――
やっと、『届いた』――――。 」
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思えば、最初から二人は両想いだったのだ。
それが紆余曲折もあって、結局付き合うのに3クールも掛かってしまっている。
風早の『やっと』という言葉に、心労が垣間見える。それを私たちはアニメという形で追想することで共有することができた。
長い旅路でした。おつかれさん。
そして、おめでとう。
追記
{netabare}
この作品が好きという人は、純粋なものに心惹かれるところがあるのだろう。
悪意がなく、やさしい世界。
現世に生きる私は、俗物たる、せいぜいモブキャラだろう。善意もあれば、悪意もあるし、見栄もあれば、謙虚でもある。まことに平凡だ。
そんな平凡な人間が、この世界のやさしさに、爽子に、風早に、あこがれている。そしてまた、他の視聴者も同じような気持ちを抱えているのだろう。
その繋がりを認識できただけ、よかったと思えた。
爽子は向日葵のような子だと思う。
いつも陽の照らす道を歩み、後ろめたいところがなかった。
風早は言う。
『黒沼はいつも風早くんのおかげっていってたけど、
いつも一人で頑張って、何とかしてしまう黒沼に憧れていたのはきっとおれの方だ。』
彼女のつよさ、たくましさ、そして飾り気のない無垢な心に惹かれていたのだろう。
晴天に向かって伸びてゆく、向日葵のような彼女の後姿に。
{/netabare}