九条 さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
若者と年配者の懸け橋となる囲碁旋風。
碁に対し全く無知であり、微々たる棋力も有しない主人公(ヒカル)が古来・最強棋士(佐為)との出会いを
機縁として、未知なる碁の世界に足を踏み入れ少しずつ碁の真髄を汲み取りながら研鑽を積む成長譚。
大多数の視聴者は、ヒカルと同程度の素人であると考えられる故、そういった意味では投影的に成功を
遂げているし、初心者のヒカルに佐為の棋力・大局観を宿すことによって凄味が増す役割も担っている。
この両者にヒカルと同年齢ながらプロ並みの棋力を有するアキラが切り込むという構図が実に興味深く
1話から実践されており、1話見たら止まらなくなる。終局まで高揚感を保った脚本・構成は秀逸の極み。
序章では佐為の碁を打ちたい願い故に不本意ながらも打つが、塔矢親子に触発され次第に碁に関心を
抱き始めるヒカル。そして、碁の本質的部分よりも、まずは行洋の研ぎ澄まされた碁の打ち方に憧れる。
この部分は妙にリアリティがあり、全体を通しても碁のディテールや奥深さなどよりも、対局の緊迫感を
効果的に演出するBGMや静寂を基盤として表面的な魅力における碁の捌き方や碁盤上に響く石音など
規則を網羅せずとも伝染する箇所に力が注がれており、それが功を奏し碁を知らぬ若者の心を鷲掴む。
それ故、若者による囲碁旋風の起因の1つはここに存在する。頻繁に囲碁用語が飛び交ったりもするが
飽くまでも、対局の雰囲気を醸成させる為のツールの一種であり、語義を理解しなくとも特に弊害はなく
深い意味も然程ない。碁という奥深い競技を掘り下げず敢えて大衆向けに仕立てた転換の勝利である。
また、バリエーションに富んだキャラも囲碁旋風に拍車を掛けた代表的な要素であるのは周知の事実。
新しいキャラが出る都度に見せ場が設けられているが、脇役の脇役的ポジションのキャラまで魅力的に
構想・構築されており、尚且つそれ以上にヒカル或は佐為を魅せるという至難の業もやってのけている。
代表的な例を挙げるとするならば、名人を父に持つアキラという囲碁界のサラブレッド・囲碁界の重宝を
手玉に取る佐為の鬼才振りであり、そこはかとなく序章の段階から上には上がいるという布石を投じる。
曲者の加賀や三谷でさえ海王に敵わず、その海王の大将(岸本)でさえ院生の1組に歯が立たないなど
碁の強さは個人の資質や先天的部分によるところが大きいという事実を曲げず、棋力のヒエラルキーを
壊さず貫かれており、努力の限界や才能の差が齎す挫折・葛藤などシビアな訴えが随所に感じ取れる。
しかし、筒井がミスに乗じて海王の副将に勝利したり、佐為がヒカルのミスを補えず、加賀に敗北したり
実力差はあれど、ミスを犯したり集中力を欠くと、番狂わせは起こり得ることから可能性も示唆している。
額に滴る汗や真剣な眼差し、伊角の凡ミスから招いた反則等からも一手一手の重圧を思い知らされる。
本作は碁のディテールが凝っているとは言い難いが、碁に対し取り組む姿勢・熱意といった根本部分を
老若男女を問わず、碁に対する飽くなき探求心や向上心に準えながら、明快かつ丁寧に描写されており
現に影響を受け棋士になられた方もいる。最早、碁の普及・浸透の思惑を凌駕。恐るべし、ヒカルの碁。