なる@c さんの感想・評価
3.1
物語 : 3.0
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 2.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
テロップで示せていないファンタジー演出
反抗期で、親にも弟にもキツく当たってしまう中学1年生の女の子、小野沢未来。
お台場のロボット展を楽しむ弟、悠貴のお守りとして連れ添う彼女は、イライラから「こんな世界、こわれちゃえばいいのに。」というネット投稿をする。その直後、都心を襲ったのはマグニチュード8.0の海溝型大地震。交通も遮断され、帰る手段も見つからない姉弟に、日下部真理という女性が手を貸してくれる。大人の力を借りて世田谷にある家に帰る道中、未来は姉として、そして中学生という思春期の心の迷いを振り切るための成長をする。明日を生き抜くために。
賛否両論というよりは、賛7:否3といったところだろうか。
否定派の言い分は、物語後半の演出についてがほとんど。リアルだからダメ、リアルでないからダメという話ではなく、ここまでリアルな話をやってきてここでファンタジーを盛り込むことは正当なのか、という話だ。
ボンズの南社長との対談で、橘監督は「アニメーションなりのファンタジーがある。弟の死が、お姉ちゃんの心の成長を丁寧に描くためのキーポイントになったんです」と述べている。確かに「未来ちゃんが心を入れ替えていいお姉ちゃんになろう、と決意したとたんに、急に悠貴くんが亡くなってしまった」というインタビュアーの言うとおり、悠貴の死が未来を成長させたのではなく、未来の成長を見届けた悠貴が成仏(?)するという内容になっていて、主人公の主体性が伺える。これは、ただのお涙頂戴としての身内の死ではないとある程度言える要素ではないだろうか。
さて、こうしてフォローしてみたところで、展開が唐突過ぎる感は否めない。作り手が思う以上に、このアニメがリアルに大地震を想定して作られた作品だと思われていたのだ。詳しくはフィルムコミックを参照のこと。被害経過や死者まで詳しく載っている。海上保安庁、陸上自衛隊に取材を行い、自らの足でロケハンを行っている。
もちろん、演出の都合上実際と異なる場合があることをテロップで告知しているという以上、上記の考えは視聴者の思い込み、勘違いではある。しかし、演出のフィクションとして東京タワーが倒れたり都心の住宅が半壊するのと、終盤で弟が死ぬのを一緒にしてはいけないだろう。フィクションの度合いは視聴者の理解できるところではなかったのが事実だ。
もう一つ、否定的な部分を。道中で出会う真理が強すぎる。主人公と弟が成長するまでもなく、大人の女性が力を貸してくれて課題をクリアしてしまう。そこに達成感もなにもない。また、真理にも娘がおり、早く帰りたいはずだ。子ども二人の面倒を見ながら帰るという行動は不自然ではないだろうか。結果として真理の存在は未来と悠貴の助けにはなったかもしれないが、彼女らの成長の描写をするにあたっては邪魔でしかなく、作品の感動を微妙なものにしてしまっている。
良い部分としては、思春期の少女のイライラする過程が丁寧に描かれていることが挙げられる。レビューや感想で「主人公にイライラした」と書かせたら勝ちだろう。中学生女子の理不尽な怒りは、見ているこちらも同じ気分にさせる。それがとてもリアルで素晴らしい。
また、今作は地震への対処の仕方だけではなく、その後の暮らし方(ストレスとのつきあい方や、自分の心との折り合いの付け方)までも描写されている。災害は人の心を乱すものなので、その荒んだ心をしっかりと描写しているところに好感が持てた。
結論としては、人間ドラマと災害を織り交ぜた良作といったところか。
賛否を分かつ表現はあるにしろ、それ以外の素晴らしい表現を否定していい理由にはならないだろう。あの花がヒットしてから、あの花以前のノイタミナ枠アニメがあまり語られなくなった気がしているので、筆者は少し悲しい。ぜひ一回視聴してみるのをおすすめする。
※今作をあたかも大地震の際に役立つ教科書のような作品として認識しているレビューが見受けられるが、OP前のテロップにもある通り、この作品はフィクションである。実際に建物内で地震が起きた時は、係員の指示に従って避難経路から外に出ること。間違っても一度出てから建物内に戻らないように。その他、実際に真似しない方がいいことが何個か見受けられた。今作は実際に災害を回避するためのマニュアルではなく、あくまで災害への意識を喚起するものであるということを、強く言いたい。