sinnsi さんの感想・評価
4.0
物語 : 2.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
カタログアニメ
初代マクロスは、こんな具合のことを言われていたそうだ。
「美少女好きは美少女アニメとして、バトル好きはバトルアニメとして、ロボット好きはロボットアニメとして観ればいい。マクロスというアニメは、それらをカタログ的に取り揃えてある」
故に、初代マクロスは「カタログアニメ」と冠されている。
しかし、ガルパンにおいてもこの要素は強いと思う。
ここ数ヶ月の劇場化による熱気が伝播したのか、これまでにガルパンを観たことのなかった周囲の友人達がこぞって観始めたのだが、
出てくる感想は「女の子がかわいかった」「ヘッツァーにブヒった」「戦車の動きがよかった」と、三者三様なのだ。
だが私の感想は、上記のいずれにも該当していない。
実のところ、ガルパンは昨年BS11の再放送で観たことがあったのだが、
私の心中は、掴みどころのない退屈感で占められていたのだ。
一方で彼らは、犬の遠吠えのように連夜「秋山殿~」等と鳴き続ける。
いったいなぜ彼ら、いや、ガルパンファンはこんなにもガルパンに夢中になれるのだろうか。
更には、あたり構わず「ガルパンはいいぞ」と鳴き散らす次第だ。
鬱屈気味だった私は、「退屈だった」だけでは弱いと思ったのと、
Blu-rayを借りる機会をも得られたので、これを機に観ることとした。
―
さて、この手のオリジナルアニメ。
美少女キャラクター主体で作られていなければ、半数は観る動機を与えられていないだろう。
しかしパッと見、どれもモブキャラの集合体のようでインスピレーションを受けるキャラクターはそういないし、視聴を続けてキャラクターを掘り下げていっても、受ける印象の濃度は薄い。
序盤こそはメインキャラクターへの描写が割かれているが、徐々に自高校の他数十人への割合が増すどころか、他高校からも次から次へと湧き、もはや収拾がつかない。アイドルアニメ顔負けである。
更に、このアニメの肝とも言える戦車だが、
日常シーンに登場した際には特に問題はないものの、動きの激しいバトルシーンでは、CGが背景から浮いていて、違和感が拭い切れないのだ。
更には、戦車戦フィールドから、美少女動かす車内への場面切り替えが激しいため、臨場感・没頭感を台無しにさせてしまう演出となってしまっている。
美少女主体で話を進めたいのか、力及ばずなのかは不明である。
基本的な進行が、
「違和感CG(戦車)→美少女(車内)→違和感CG(戦車)→美少女(車内)→違和感CG(戦車)→美少女(車内)による砲撃描写」
でいて、間延び感があってテンポが悪く、鬱屈させられるのだ。
つまり、これらが「掴みどころのない退屈感」の正体である。
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しかし、そんなカタログの中に、キラリと輝く名脇役商品があった。
それが、音響だ。
Blu-rayは地上波よりもグッと高画質となることは言うまでもないが、
こだわり抜いたソフトの場合、音響までもがグッと高音質になるものの、アニメではまず画質が第一である。
しかしガルパンでは、音質も売りの一つだ。
http://girls-und-panzer.jp/pro_bddvd.html
> DTS-HD Master Audio(2.1ch)
> ■ガルパンBDの音声には
> センシャラウンド方式を採用!
> 迫力ある戦車のエンジン音や走行音を表現するために、「ガールズ&パンツァー」のBDでは音声に2.1chセンシャラウンド方式を採用!
> 通常のステレオ音声にサブウーファーの低音成分を加えて重低音を強調したもので、本作品ではこの音声システムを「センシャラウンド方式」と命名しました。
これが実に素晴らしい。
再放送以来、拙宅では周波数帯域24Hzから再生可能なフロア型スピーカーで2chシステムを組んでいるのだが、
それによって、ウーファーから重低音が部屋いっぱいに響き渡るのだ。
砲撃した瞬間の音、着弾の音、戦車・キャタピラが走り、震え、衝撃を受けた音、エンジンのうなる音の一つ一つが実にリアルだ。
架空のモビルスーツとは違い、実在する戦車がそこに走っているような実体感を覚える。
特に撃った瞬間、戦車と空気が巨大なエネルギーにジンジンビリビリと震え、また霧散した後に微かに生じる”間”がたまらない。
地面、戦車、着弾の衝撃音も、平地や雪原でニュアンスが絶妙に異なる上、戦車砲の口径の違いにも対応していて、強いこだわりを感じる。
更には、クリアかつハードなBGMの仕上がりも相まって、戦意高揚感を高めてくれるのだ。
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それを持ってしても、戦車戦のテンポの悪さが目に余るため、なんだか興味のない陸上自衛隊見学に付き合わされているような心持になってくる。
けれども、地上波放送時から完成に半年をかけた12話や、更にそこから1年以上をかけて制作されたOVA「これが本当のアンツィオ戦です!」は圧巻の仕上がりだ。
描写の軸は戦車戦フィールドへと置かれ、ひたすらに重厚感ある戦車のぶつかり合いが展開される。
CGへの違和感は和らいでおり、車内美少女への切り替えも、スッキリハッキリと一瞬で終わり、フィールドと一体になってテンポよく進行される上、
こだわり抜いた音響のかいあってか、私の意識は「第63回 戦車道全国高校生大会」にしかない。
やはり車内シーンで美少女を冗長に描いていたのは本意ではなく、時間をかけてでも描きたかったのは、こちらなのだろうと考える。
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少なくとも私の友人の中には、音響について言及していた人間は誰一人としていなかった。
故に、ガルパンは人によって楽しみ方が大きく異なる、カタログアニメに他ならないのであろう。
そして、私はこのカタログギフトの購入を決断していたのであった。