タケ坊 さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
思考力と想像力が問われる
2004年、今敏監督唯一のオリジナルTVアニメ。
この作品はかなり好き嫌いが別れるだろう、というか観る者を選ぶんじゃないだろうか。
視聴者が想像し考えて解釈しなければならないので、
必然的にある程度の大人向け、ということになるんだろうと思う。
このように言うと、非常に難解なアニメなのかというイメージを持たれるかもしれないが、
本筋のストーリー自体はそこまで難解なものではないと思う。
ただ、「ながら観」で理解できるような、薄っぺらい作品でないことは明らかで、
注意深く観なければ(注意して観ても)混乱することは間違いない。
自分はメモを取りながら2回観たけど、
作品をより理解したいと思って、今敏監督のオフィシャルページ「KON’S TONE」の中の、
妄想代理人の製作過程、秘話、解説を読ませてもらった。
そこでは、
<話や物語や人物を説明することほど、あるいは説明されることほどつまらない ことはない。
<そういうのがお好みなら「水戸黄門」とか「NHK朝の連続テレビ小説」でも見ていた方がよろしい。
と仰っているくらいなので、視聴者に読み取る能力や想像力がなければ、
(理解できなくても自分で考え解釈することが楽しいと思えなければ)サッパリ楽しめないだろうと思う。
こういう作品を説明不足とか視聴者置き去り、と言うのはお門違い。
☆物語☆
物語は「感染するサイコサスペンス」という謳い文句どおりだけど、
内容は現代の社会的な問題と絡めて、ブラックかつアイロニーに溢れている。
監督が「KON’S TONE」の中で仰るには、
<改めて断る必要もないだろうが、「妄想代理人」は犯人探しの話ではないし、謎解きでもない。
<だってそういう話の構図を使っているじゃないか、という反論 は子供じみている。
<定型のルー ルに従ってしか物を見られないのは想像力の貧困である。
<私は観客にも自分自身にも、少しでも知的活動を要請したいと思う方だ。
とあるように、物語の中で起こる事件や出来事から、一体この作品が何を言いたいのか考えないといけない。
これはとにかく観てもらうしかないのかな、と思うし、ネタバレは避けるべきかと。
まぁ後半の11話、13話辺りでハッキリ言いたいことを言っているとは思うけど。。
因みに「KON’S TONE」を読ませてもらうと、一つ一つのシーンやカットに込められている意味が、
非常に深いなぁと感心した。
ただ、部分部分の繋がりでちょっと都合良いな、と思えるのが少々気になるかな。
これが今監督のTVアニメ唯一の作品とのことだが、
この作品も話数削って映画くらいの尺にしたほうが、より濃密な作品になったかもしれないな、とは思う。
でも個人的に興味深かったのは、物語の本筋から逸れるサイドストーリーの10話。
アニメ制作の現場が舞台になっているものだが、かなりブラックな話。
これを観る限り、「SHIROBAKO」の元ネタの一つになっているものだなという事が判る。
というのも、この話の主人公は制作進行の猿田という、どうにもこうにも使えない人物なのだが、
声優が「SHIROBAKO」でもうだつの上がらない制作進行、高梨役の吉野裕行さんが担当されていて、
これは狙ってやっている事が明らかなキャスティング。
「SHIROBAKO」自体パロディやオマージュに溢れた作品ですが、改めて心憎いなぁと。
☆声優☆
演技力のある声優が揃っている印象。
特に深夜アニメでのキャスティングとしては珍しい、ベテラン声優さん達の演技が素晴らしい。
監督からの注文も結構あったようですが、見事に応えているなと思う。
☆キャラ☆
声優陣の演技による所も大きいかと思いますが、かなりインパクトが強い。
何を考えているか解らないキャラも存在するが、
各キャラの内面、心理が物語を構成する上で非常に重要な役割を持っている。
☆作画☆
今監督のこれまでの映画作品に関わったスタッフが多く採用されていて、
動き自体はそこまで派手ではないが、各キャラの表情の変化など、細かい所に気を配った作画だなという印象。
全体的な色合いがセル画のアニメを思わせるようなトーンで味わい深い。
「KON’S TONE」を読ませてもらうと、作品の制作はかなりいっぱいいっぱいだったというのがよく分かった。
☆音楽☆
文句の付けようのない素晴らしさ。
OP,ED、作中のBGMを全て平沢進氏が担当されているが、
兎にも角にも、まず最初に聴いたOPのインパクトは本当に強烈なものだった。
OPの「夢の島思念公園」は爽快感や高揚感に溢れた明るい曲調だが、
その歌詞はとてつもない皮肉を含んでおり、
どうにもこうにも不気味なOPアニメーションとの相互作用は、まさにインパクトの塊。
これは数あるアニメのOPの中でもトップクラスのインパクトではないだろうか。
それに対するEDのギャップがまたなんとも言えず、これまた意味深。
サントラも聴いてみたが、作品中のBGMのクオリティ、センスは素晴らしい。
本当にこの平沢進という人の才能は計り知れないですね。。
最近の深夜アニメは、たとえ面白くても想像力や視聴者独自に解釈が必要とされるような、
深みのある作品が少ないのが残念だと思ってて(作っても円盤が売れないから仕方ないのだろうが)、
何気にネットで「大人向けアニメ」を検索してて、面白そうだと思って観てみたのが出会い。
視聴後、こんな作品作れる人って恐ろしい才能と知性の持ち主だなぁ、と思ったものの、
2010年に46歳という若さで既に他界されてると知った...つくづく残念。。
「KON’S TONE」を読んでいると、自分にも他人にも非常に厳しい人だな、というのがよく解るが、
それは本作の持つテーマやメッセージにも現れているな、と実感した。
興味をもった人は、是非「KON’S TONE」も読んでみてほしいと思う。