「言の葉の庭(アニメ映画)」

総合得点
86.0
感想・評価
2002
棚に入れた
9527
ランキング
213
★★★★★ 4.1 (2002)
物語
3.9
作画
4.6
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
3.8

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ネタバレ

HATAKE さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 3.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

いつの間にか酔が冷め…(+ALPHA)

柿本人麻呂-万葉集
Q.
鳴る神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ
(なるかみの すこしとよみて さしくもり あめもふらぬか きみをとどめむ)
A.
鳴神の 少し響みて 降らずとも 吾は留まらん 妹し留めば
(なるかみの すこしとよみて ふらずとも わはとどまらん いもしとどめば)

Q.
「雷神の音がかすかに響いて、空も曇って雨も降らないだろうか。そうすれば、あなたを引き留められるのに。」
A.
「雷神の音がかすかに響いて、雨が降らなくても、私は留まろう。あなたが引き留めるならば。」

Q.
雨が降ったら、君は此処に留まってくれるだろうか。
A.
雨なんか降らなくても、此処にいるよ。


秒速5センチメートルをみて、そこから何かを自分に投影できた人にはとても面白い(というか良い作品だなと)感じられたことでしょう。
つまりは、片思い、失恋、恋煩い、など好きな相手を思うことの辛さを味わったことがある方には…という意味です。


この作品を見る前にクソマズイ40度のお酒を飲んでいい感じにクラクラしていたんですが、終盤の喧嘩シーン。「帰ります」のシーン。雪野百香里(ヒロイン)が主人公との回想を終え立ち上がるシーンでいつの間にか酔が消え、見入っていました。

50分未満という一時間にも満たない作品なのに伝えたい事はしっかり伝わってきましたし、主人公の高校生らしい葛藤と苦悩。社会人として、教師として挫折してしまっていたヒロインの苦悩と葛藤。

二人がふたりとも、無意識のうちに互いが互いを支え。目印(目標)となり。自分の夢への道を、力強く歩き出すための一歩を踏み出す勇気を互いに与え合っていた。

それに映像と話がマッチしていて、映像に話が負けることもなく、話に映像が負けることもなく、こちらも互いが互いを引き立たせていて良かった。


涙が出始めたシーンは、主人公が学校の先輩に殴りかかるシーンからです。

何故泣けたか、それは、当時の私にはそんな勇気も覚悟もなかったなぁと。主人公と同じ15の時は絶賛片思い中でした。
私の片思いの相手はかなりはっきりとした性格で、私の周りでは彼女の陰口をよく耳にしていました。学年内でも指折りの成績で、小さいながらも運動神経抜群、天然っぽさがありつつも歳の割に大人っぽく、登下校時は小難しい文学作品や哲学書なんかを読んでいて、休み時間は男子にも女子にも人気があり、常に周囲には誰かがいた。

そんな人気者で好かれやすい彼女だから、この作内ヒロインの百香里先生と同じような理由でいじめられたりもしていました。

でも、彼女に対して嫌がらせや陰口を言う相手に殴りかかる覚悟、彼女への悪口はやめてくれと声を上げる度胸…なんてさらさらなく、逆に自分が痛い目にあったらどうしよう…とか、いじめられるようになったらどうしよう…とか。急に保守的になってしまって何も出来ませんでした。

でも主人公くんはそんなことは思いもしないで先輩であろうと誰であろうと殴りかかりました。

暴力が何かを生むということは決してなく、決して良いと褒められるような行為ではないのですが、大人同士の殴り合いと、青春期の子供同士の殴り合いの意味することが少し違うように、そういうものは青春期くらいでしか経験ができないと思うんです。

それを怖さ故に、想い人よりも我が身大事で逃げてしまった私と、私には出来なかったことをさも当然のように実行してしまった主人公。
自分の小心者っぷりをまざまざと見せつけられてしまったみたいでなんとも言えない涙が零れてきました。


誰かが<主人公がヒロインを好きになる理由がわからない>
と書かれていたのを見かけたので自分なりに考察。

1.まず、初めてあった女性の百香里先生の短歌を帰ってから兄さんに聞いていたことから、この時既に意識していた。

2.「上手く歩けなくなっちゃったの」という言葉を聞いた主人公は『この人のことをまだなにも知らない、仕事も年も…抱えた悩みも。名前さえも…それなのに同仕様もなく、惹かれていく。』とある。

3.梅雨明け後、主人公が自室で『だからなによりも俺は、あの人がたくさん歩きたくなるような靴を作ろうと…そう、決めた。』とあることから、歩けなくなった想い人に自分が作った靴を履いて元気な姿になってもらいたいし。靴職人になるという目標が"名前の知らないあの人"のいる大人の世界へと繋がっていることで自然と惹かれていったということではないでしょうか。


思うに、こういう作品や文学作品でもそうですが、直接的、物理的接触…つまり、体に触れたり、抱きしめたり、キスしたり、ピロートークしたりするような描写がなければ「好きになった」とは断言できないではないか!という意見もわかるっちゃわかります。

自分も1-3まで挙げたは良いですが、これといって断言できるような描写…つまり主人公がヒロインを「好き」と表現している(告白シーンは除く)描写がないので何ともな状況なのですが…


こういう「???」が頭のなかを螺旋状に渦巻いてきてしまった時には、自分の身に置き換えてみるとよく分かるのではないだろうかと思い、今まで経験してきた恋愛や一目惚れ等をを思い出してみると、やはりはっきりとした何かが私の身に起きたわけでもなく、なんとなく「好きだな」って感じて、「好きだよ」って言って、「どうして?」なんて聞かれた時には答えにくかったなぁ…なんていう記憶がありました。


相手のことを無意識のうちに意識し、気づけばいつの間にか頭のなかの思考や行動が全て意識している相手のことを思ってのものになっていたり。そして好きなんだ。と気づく。

恋愛というものを理屈で片付けてしまうのは簡単で、一目惚れなんてのは要は「自分に足りない遺伝子を持っている異性と交わることでより良い子孫を残したい」という動物的な本能からくるものであるとかなんとか。


話を戻しますが、主人公にとって「好き」という感情は初めて出会った時にはもう存在していたのかもしれませんし、「歩けなくなってしまった」という言葉を聞いた時からかも知れませんし、弁当を食べ合っていた時からかも知れませんし、お返しの高価な本をもらった時、先輩たちが嫌がらせをしていたことを知りそのことに対して自分の腹が立っていることに気づいた時かもしれません。

挙げれば挙げるだけキリがないのです。

逆にヒロインの先生が、いつから、どうして主人公のことを好きになったのかを探ろうとすればするほど出てくるのと同じように。




別の方のレビューでも気になったことがあったのでもう一つ。
(なっがいな、コイツのレビュー。と感じた方はブラウザバック推奨です)


<最後の先生が階段を駆け下りるシーンについての疑問>

高層階マンションなのでエレベーターがあるはず。
なのに何故か主人公も先生も階段を使用。


この疑問については登場人物目線(心理)から考察するとすっきりと理解できると思うのですが、あの時の主人公の感情は憤りだと思うんです。
振られた相手と同じ部屋にいることが耐えられなくなり、一刻も早くその場から逃げ出すために生乾きの服のまま外に出た。


もし自分が主人公と同じ立場だったら閉鎖されている空間や密閉されているような空間はどうしても「独り」を想起させてしまう場所なのでできるだけ開放的な空間にいたいと思う。だから部屋を出たし、この場合は階段を使用することにしたんではないかと。それに先生がたどり着いた時の主人公が雨の降る外の風景を眺めていたことからも「何処か遠く、ここではないどこか」を見つめて心を沈めていたのではないだろうかと。

エレベーターではこの映画の見せ所、というかテーマでもある「雨」が出てきませんし。
それにエレベーターをどちらかが使用したのでは最後のシーンのあの惹きつけられるような魅力は出せないでしょう。こんなにも広い世界にまるで二人しかいないようなあの演出は。

そういう演出面を考慮に入れると先生が真っ先に階段を選択したのは至極当然ですし、むしろ先生が飛び出した時に、もう間に合わないかもしれないという焦りから靴をはく暇もないという描写もあります。

エレベーターの所まで行ったとしても、もし主人公がエレベーターを使用して1Fまで降りていたなら、先生の階まで上がってくるのを待たなければならないし、更に1Fまで降りる時間を考えると倍かかってしまう。

そうなると靴も履かずに慌てて出てきた描写と矛盾する。(靴も履かずにボーッとエレベーターが上がってくるのを待ち、エレベーター内で下の階まで降りるのをボーッと待つ…。なんて緊迫感のない描写!)

それに追いかけている身なのにエレベーターを使うのはそもそも時間的にも心理的にも考えないだろう。走れば普通に階段を使ったほうが早いのだから。それにもし主人公がエレベーターを使っていたとしても階段で降りればギリギリ間に合うか、それとも階段を歩いて降りていればギリギリ間に合うかの瀬戸際で先生の選択肢としては必ずと言っていいほど階段しかなくなる。

主人公の選択としては階段でもエレベーターでもどちらでも構わないだろうが、先程も述べたように最後の見せ場となる演出、作品のテーマである「雨」、最後も盛り上がりのシーンとしても階段の踊場での再開というのがもっとも良いものだったのだろうと思う。


長くなってしまって申し訳ない。それでは。

投稿 : 2016/02/11
閲覧 : 234
サンキュー:

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