TAKARU1996 さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
Sorcière de gré, pucelle de force (意思を持つ魔女、力を携えた乙女)
あれはまだ、イングランドとの戦が終わってなかった頃の事
森の中に争いの大嫌いな1人の魔女が住んでいました
その魔女は人を呪ったり悪事を働いたりはせず、フランスとイングランドの戦いに邪魔をし続けていました
彼女は自らの魔法を武器に争い事を無理やり止めさせていたのです
その子の名はマリア
聖母様と同じ名前を持ち、聖母様と同じく処女の女の子
これは百年戦争と言う大きな転換を迎えつつある時代に起こった裏舞台
歴史と神話が出会い、絡み合った愛の物語なのです
『純潔のマリア』
この作品は今までレビューしていたアニメの中で私が唯一リアルタイムで見ていた作品です。
この物語の面白さ、丁寧さ、深さには気づいていたのですが、諸事情で5話位までしか観れませんでした。
しかし、先日ようやく最終話まで観る事が出来ましたので、ここでレビューしたいと思います。
第一の感想としてはまず、観て良かった…
続きが気になって気になってしょうがなかったです。
幼少期に感じていた純粋にアニメを楽しむ心、久しぶりに思い出しました。
この時ばかりは最終話が終わってから見て正解でしたね、来週まで待っていたら確実にストレスたまりますから(笑)
しかし、今こうして考えてみると、このアニメは私の好物で溢れています。
ヨーロッパ中世史、神話、宗教学、哲学etc…
当時のヨーロッパの社会情勢、思想、信仰に興味のある人なら間違いなくはまる内容と言えるでしょう!!
さて、それでは舞台設定から掻い摘んで説明していきます。
時は15世紀半ば、百年戦争末期のフランス
神の啓示を受けたラ・ピュセル(ジャンヌダルク)がイングランドの教会によって異端審問にかけられ、火刑に処された後
なので、大体1430年代~1450年代の頃の話ですかね…
私達の世界が歩んできたヨーロッパ史では、中世に魔女の概念は浸透しておらず、後の近代に起こる「魔女狩り」といった現象も村や町の知識人(長老や薬物学に秀でた者)を魔女と見立てたり、恨みのある者を陥れたりなどで真の魔女と断言できる存在は何処にもいませんでした。
しかし、このアニメ内ではそんな魔女が中世(もしくはもっと前?)から存在しているファンタジックワールド
彼女らの存在も公になっていて、魔法と言う概念を人々も知っていた世界なのです。
そこで主人公マリアは自分が嫌いだから、争っているのを見たくないからという理由で百年戦争の戦場に介入していきます。
平和の為に行動するマリア
しかし、その行為は次第に人々の心を悪意へと導いていきます。
戦場を度々中断される事で戦費は嵩み、その結果王からの徴税も増加の一途を辿るばかり。
傭兵や魔女は戦う事で得られる勲章やお金、戦利品を懐に入れる機会を失い、徴税も相まって生活がどんどん困窮していきます。
まさに悪循環、混沌の連鎖と言えるでしょう。
しかし、魔女マリアはそういった事柄も全て理解しています。
理解していても自分の信念に嘘はつけない。
平和へ至りたいという自分の純粋な気持ちには正直でありたい。
例え争いがなくならないとしても、助けた者同士でいがみ合う事になったとしても、戦争の邪魔をすると言う行為を止めない事
迷いながらも一歩一歩前に進んでいこうとする少女の姿
『純潔のマリア』はそんな彼女の成長を、周囲の人間との関わりを、そして最終的に至る答えを共に感じていくアニメなのです。
そしてマリアを邪魔する者の存在もこのアニメの面白さに一役買っています。
人々が日常を過ごす中で心の安らぎとなる証や言葉、兆しを示すしるしすらも出してくれない天上の神と大天使
そんな神の救いこそ全てと思い、中世社会を牛耳り、洗脳教育を施す教会
特に教会に所属するベルナールの豹変ぶりには爆笑物です。
まさか、彼が近代思想のデカルト哲学、しいてはカントやニーチェの理論にも至る神の不在証明からの存在証明をするとは…
恐るべき男なので、これから見る人は必見ですよ!!
さて、見所として最後に1つ
この作品は時代考証が大変しっかりしており、公式サイトでは用語集や場面の解説があります。
また、キリスト教における大天使ミカエルを筆頭に、ケルト神話の狩猟神にして冥府神のケルヌンノス、北欧神話の戦乙女ヴァルキリー、他にも名前だけですが、アルテミスやプリアポス、エゼキエルなど神話や聖書に記されている名前も数多く使われています。
サイトから分かる中世の知識と神話の知識(もしくはその名前が与えられた意図)の2つの知識を合わせて知っていると、このアニメは更に面白く感じる事でしょう!!
では、これにてレビューを終わりたいと思います。
どうかご参考になれば幸いです。
清らかな乙女、そのまなざしに、見守られ生きるこの喜びを、歌い捧げよう…