takekaiju さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
後半から物語が崩れていく
自然と人間がいかに共存していくか、この作品の問いかけるテーマは深く、真剣で面白い。圧倒的な森の力のもとでかろうじて生きている人間の姿は、ブライアン・W・オールディスの『地球の長い午後』を思い起こさせる。ただ、作品の持つ思想や発想は興味深いものの、物語としての展開の仕方は陳腐で、次の展開が読める脚本や安易な設定がいただけない。
遺伝子操作の失敗により暴走した森は意思を持ち人類の文明を飲み込んだ。森と共存する道を選んだ中立都市で暮らすアギトはある日、光る箱の中に眠る過去の人間トゥーラと出会う。目覚めたトゥーラは失われた文明を取り戻すべく、父の作り出した環境再生デフラグメント・システムを起動させるために、同じ過去の人であるシュナックに連れられ軍事都市ラグナへと向かう。
物語の前半は、中立都市ではいかに森と共存しているのか、森に食われた世界での人々の営みが見られてなかなかに興味深い。突然未来で目覚めたトゥーラが戸惑いながらも都市での生活に馴染もうとする姿は微笑ましい。
問題なのはトゥーラがラグナへ向かう中盤から後半にかけての展開の仕方。
森の力を取り込む強化体になってまでなぜアギトはトゥーラを取り戻そうとするのか、そもそも意思をもった森はなぜ人の姿を取れるのか、シュナックにあっさりと裏切られたラグナが手のひらを返すかのようにアギトに協力するさまなど指摘したい点は数えきれない。
噴き出してしまうのは、環境再生デフラグメント・システム「イストーク」の正体が火山であること。しかもイストークは起動すると火山に脚を生やして森へと進撃を開始する。火山が歩き出すだけでもハテナなのに、起動停止するとともに自壊するプログラムやその自壊方法として噴火を選ぶあたりは、話を盛り上げるためだけの演出にしか思えない。地面と分離して歩いているのに、どうして噴火できるのか……
森の力を開放してシュナックを取り押さえたアギトは、力の暴走によって森と同化したはず。ところが、トゥーラに呼び掛けられるやいなやあっさりと森から解放される。彼の自己犠牲に流した涙を返してくれ!と言いたい。
発想や着眼点がいいだけに、非常に残念な出来の作品だと言わざるをえない。いかにもアニメ的、映画的な展開の仕方や演出が台無しにしてしまっている作品である。