れのん。 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
命を燃焼し尽くして成し遂げる告発
2014年7月~9月(ノイタミナ枠)
原案・監督 渡辺信一郎 キャラクターデザイン 中澤一登
音楽 菅野よう子
制作 MAPPA オリジナル作品。
・フランス Japan Expoにて、ダルマドール・アニメ(金のダルマ賞アニメ部門)受賞
レビュアーさんに勧められてみはじめた。シリアスなクライム・サスペンス・アニメである。
自分は苦手なジャンルかなと思っていたが、観はじめると一話目から強烈に引き込まれ、一気みしてしまった。なかなかすごいアニメだと思いながらみていた。
音楽と映像の一種の明るさや、主人公の一人ツエルブの異様な性格の明るさも、作品世界の暴力性や暗さを中和しており、自分でも、抵抗なくむしろ爽快な感じで観ることができた。物語の展開するスピードが速く、後半、ハイブ(cv 潘めぐみさん)のキャラと彼女がかかわる物語に違和感を強く感じたが、最終話、自分は感動していた。
碧い空、夏の日の輝き、ビルなどなどの映像美と菅野よう子さんの秀逸な音楽が、不思議な雰囲気をかもし出していた。とにかくテンポはよすぎるほどいい。
全11話の尺の中にあれだけ詰め込んでいながら、よく頑張っていると思った。さすがに気になる設定上の無理がいくつかめだったけれど、自分をひきつけたのは、作品の映像美や音楽(やはり管野さんはすごい!)、優れた演出による人間のドラマ、心理描写だった。
作品の世界観に荒唐無稽と言える部分はあるが、現実の世界の中でも、この作品で扱われているテーマ -命をかけて巨悪を告発すること- を、数多く人類は経験してきたのではないだろうか。
主人公達はあれだけの犯罪をーー{netabare}たとえ設定上は人を殺さなかったことになっていたとしても ーー 犯したのだから、最終話の結末は避けられないものだっただろう。
自分が、本作の「命を燃焼し尽くして成し遂げる巨悪の告発」というテーマについて、現実の歴史の中で連想したのは、例えば、アトミックソルジャーである(告発されるべき巨大な何かがあって、死んでいった者たちの命の意味が問われる、と言う意味において)。
(参考)アトミック・ソルジャーは、 {netabare} 原爆開発及び実戦配備のために各国で行われた大規模人体実験のことであり、フィクションではなく、現代史上の事実である。1945年~1960年代にかけて核実験演習に参加し、キノコ雲への突撃行為等によって放射線に被爆した兵士たちの数は全米で25万人あるいは30万人という莫大な数に上っており、参加した兵士たちは事前に、放射線の影響は取るに足らないものであると学習させられていた。
かかわった国は、アメリカ合衆国のみならず、イギリス、旧ソビエト連邦、中華人民共和国唐の当時の核保有国である。彼ら は約20年後の1970年代後半になって、次々と癌や白血病となって亡くな った。これは次々と内部告発で明るみに出る2007年3月まで約30年間隠蔽されていた。{/netabare}
巨悪の告発が実現するとき、死に行く命は、俺たちの犠牲は、少なくとも完全に無駄ではなかったのだ、ということができ、そこに希望が、かすかであるかもしれないが、あるのだと思う。
本作の主人公ナインとツエルブは、たんに復讐しようとしたのとは、ちょっと違う。復讐だけなら、そこには希望はない。絶望から来る復讐なら、テロの実行時に、死者が出ないように配慮したという設定、空港でのアメリカ情報機関による爆破による大量殺人を命がけで止めようとしたこと、これらは説明できない。
彼らが短い命を燃焼し尽くして成し遂げようとしたのは、真実の告発であった。相手が巨大すぎるので、普通のやり方ならもみ消されて消されて終わってしまう。{/netabare}
◎リサについて …… ヒロインらしからぬヒロイン
本作では、柴崎(cv 咲野俊介さん)とリサ(cv 種﨑敦美さん)が、大切な位置にたっている。{netabare}「俺たちを、覚えていてくれ、俺たちが生きていた事を」 ナインが最後に残したこの言葉の受け手は、柴崎であった。
主人公の二人、ナイン(cv 石川界人さん)とツエルブ(cv 斉藤壮馬さん)が死んだあと、その墓に花を手向けるのはこの二人である。すなわち、主人公二人が生きてきた意味、苦しんだ意味、そして死んでいった意味を受けとめているのがこの二人である。
物語構成が、充分にキャラたちに感情移入できるものであるかというと、やや不足するところはある。それでも、最終話、リサと二人が、サッカーボールのリフティングで遊んでいるのどかなシーンは印象的だ ーー 二人が殺される&死んでいく直前のシーンなのであるが。
リサはここで言われていた通り2人を偲ぶ役だった。惜しまれるのは、日常に戻った後、リサの少し人間として成長した描写があればなあ、と思ったことだ。 しかし、これも尺不足だっただろう。
リサは、物語のヒロインとしては、視聴者に好感をもたれにくいかもしれない。しかし、この物語には必要不可欠な存在だった。
彼女の体験していた過酷ないじめ、家庭環境のむごさから、彼女には居場所がなかったのである。疎外感、という点で、強者であるナイン&ツエルブも、リサも、共通している。いやそれのみが共通しており、後は似ても似つかない。
リサ「わたしあのとき、この世界の外のどこかに連れて行ってくれるんじゃないかと期待したの。ばかみたい。そんなわけないよね。」(4話)
バイクでツエルブが、彼女を後ろに乗せて疾走するシーンは美しい。
リサは、普通の意味で、二人の役に立とうとする。すさまじい料理をつくってしまったり、ポッキー入り?のカレーを作ったり、ソーメンをつくろうとしたり、、、彼女はあまりにも無力なので、願いに反して、こっけいなほどまったく二人の役に立たない。しかし、作品としては、彼女はそう描かれるべきだったのでそう描かれたのである。
リサは、ナインやツエルブと生きてきた世界もなにもかも違うのである。
最終話の、高高度核爆発の映像は美しかった。{/netabare}