101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
どうにもならない時代に抗う全ての者たちへ。
原作コミックは9巻まで、スピンオフは漫画『悔いなき選択』を購読。
〝生き辛さ"を感じる人の多い時代である。
例えば、〝失われた20年"の間に繰り返された就職氷河期からして、
4人に1人は椅子がないのに、外せば落伍者の烙印を押される無理ゲーである。
そこを突破したところで、採用不足の現場は過小人員で、
教育もそこそこに、1人で2人分の仕事を担うような重責が科せられる。
圧倒的な壁を前に、潰れる者、逃げ出す者は後を絶たない…。
これはこの時代のある記憶に基づいた〝愚者の経験"に過ぎないが、
先進国有数の自殺大国・日本。日本の若年層の死因トップは自殺。
という統計データを鑑みるに、それほどズレた感覚でもないらしい…。
『進撃の巨人』がヒットした理由について、
報道機関…特にNHK辺りは、閉塞感漂う時代を生きる若者が直面する、
圧倒的な恐怖、不条理等がよく表現されており、共感を呼んでいる…。
と解説し、それに対して原作者本人は謙遜します。
ただ、私としては本作は時代を強く反映した故、
印象に残る作品となったと思えてなりません。
例えば、{netabare} 訓練兵に志願した主人公たちの置かれた環境からして、
妙にリアルな時代の投影を感じます。
彼らの先輩世代は、巨人にごっそり喰われたのか。
そもそも集まった勇者も少なかったのか。
存在感が薄く、良くも悪くも同期の結びつきが強い…。
というより世代が孤立しています。
この後、彼らは現場教育はおろか、配属先すらろくに決まらないまま、
再来襲した巨人たちとの実戦に挑むことになります。
ここでも、数少ない先輩たちは露骨におびえたり、逃亡を企てたり…。
やっと、俺についてこい!と先輩らしい姿を見せたと思ったら、
あっさり巨人に喰われてるしw
先輩の背中なんて当てにならない。
自分たちで解決策を見出して生き残らなければならない。
まるでここ20年繰り返された、現場の悲劇そのものじゃないか!
そう感じた上で、それでも巨人に立ち向かっていく主人公たちを見ていたら、
魂が揺さぶられたというか…もう泣けて来て…(涙){/netabare}
その他にも本作には、壁による三つの格差区分、自分の殻からの脱出、
隠蔽された情報に自分たちが翻弄される感覚といった、
作者が時代に思考を投げかけながら、創作したと思しき場面が散見されます。
それが巨人が人を喰うという、衝撃シーン以上の生々しさを醸し出して、
作者と同じ時代を生きる者を、惹き付けていくのだと私は思います。
好きなキャラはリヴァイ兵長。
特に、{netabare}結果なんて誰にもわからない。だから悔いのない選択をしろ。
という思考法が、確かな物など何一つなかった。先輩にも確信はなかった。
(あったと思われた物は、誰かさんが舌を噛みながら自慢した知ったかに過ぎなかったw)
にも関わらず、何が正しいかに囚われ過ぎて、悔いばかり残してきた、
私のハートに突き刺さりましたw{/netabare}
本作は決してパーフェクトな作品だとは思いません。
確かに世界観、設定から感じる違和感が伏線として回収される、
物語の運び方には妙味があります。
ですが、盛り上がるほど展開がスローになり、振り返りが増える、
長期連載漫画らしい構成や、
キャラを深く知るには、スピンオフにまで手を出さざるを得ない、
現代的なメディアミックス展開については、好みが分かれるとは思いますw
それでも、本作はこの時代をよく表した作品として、語り継ぎたいなと私は思います。
ひょっとしたら後年、なんでこんな変顔の巨人が闊歩する作品が流行ったのか。
訝しむ声が、下の世代から上がるかもしれませんw
そんな時は、私なりの〝愚者の経験"と共に、
舌を噛みつつ、本作の魅力を語りたいと思います。
そして知ったぶったオヤジだなぁwとうざがられようと思いますw
BGMは外科医の回診を、進撃に美化できる作曲家(笑)・澤野弘之氏が、
OP主題歌は、二次元世界の歌詞世界での再現が上手いアーティスト・Linked Horizonが担当。
2013年、NHKが紅白歌合戦にLinked Horizonを選出したのには驚きましたが、
今にして思えば災害等で、下を向きがちな日本人に対する、
NHKなりのエールだったのかもしれません。
〝祈ったところで 何も変わらない
≪不本意な現状≫(いま)を変えるのは 戦う覚悟だ…"
~Linked Horizon「紅蓮の弓矢」より~
時代と戦い続ける人に贈りたい、熱い作品です♪
※初回投稿2015/10/15→2017/4/12点数加点