renton000 さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
どうなる?うまるちゃん!
面白かったです、うまるちゃん。
うまるちゃんを過剰に批判する人は「堅すぎ」で、過剰に称賛する人は「ダメ人間」だ、なんて感じたところもあって、なんだかリトマス紙的な作品だなぁと思っていたりもしたんですが、何よりも設定が珍しいですよね。大人を子供にして、それを許容してしまうというのが珍しい。
子供の大人化:{netabare}
子供を大人として描いた作品は腐るほどありますよね。大御所で言うなら、クレヨンしんちゃんや名探偵コナンなんかが当たります。コナンは高校生が小学生になってるだろって指摘されるかもしれませんが、その指摘はちょっと違うと私は思います。小学生に高校生と同等の行動力や知識を与えるという「子供の大人化」が目的であって、高校生を実際に小学生にしてしまう「大人の子供化」の方はそのための単なる手段というべきものでしょう。だから、やっぱりコナンも「子供の大人化」の枠内に収まる作品だと思います。
で、なんで「子供を大人として描いた作品は腐るほどある」と言えるのかというと、一人暮らしの学生を主人公とした作品がめちゃくちゃ多いからですね。両親が海外にいるだとか両親と死別しただとか、あの手この手を使って親の存在を消してしまう。これは親の存在が邪魔だから、ですよね。学生に学生以上の行動や決断をさせるためには、親の庇護下にいることが極めて都合が悪いのです。だから親の存在を消して、学生自体を自立した大人のように描いてしまう。この親の不在設定は、ジャンルを問わず広く使われています。
園児に園児以上の言動をさせることも、小学生に高校生の知識と行動力を与えてしまうことも、学生に大人と同様の自立性を与えてしまうことも、ベクトルとしては同じ方向を向いていると思います。「子供の大人化」ですね。
{/netabare}
大人の子供化:{netabare}
「子供の大人化」とは逆のベクトルを持った作品―「大人の子供化」作品―もありますけど、この手の作品って、社会風刺の中で語られることが多いですよね。「大人がこんなに子供になっちゃって」という批判で語られる。そして、子供属性の大人の失策を通じて、まともな大人に成長するところまでが描かれます。
社会風刺を除いてしまうと、「大人の子供化」というのはなかなか難しいと思います。「見た目は大人、頭脳は子供」というコナンの逆バージョンを批判なしに広く受け入れさせるというのはおそらく無理です。子供であろうが大人であろうが「成長していく」という点には違いがありませんから、キャラクターの精神的退行に対しては作品内でも視聴者からも、おそらく厳しい視点が向けられることになると思います。
ですが、「うまる」は真正面から「大人の子供化」をしてしまっています。でも、「うまる」には社会風刺的批判精神は全く感じません。作者からも、視聴者からも。それが良いのか悪いのかというのは別にして、事実として批判的には語られていないと思います。
{/netabare}
うまるちゃんとお兄ちゃん:{netabare}
二頭身のうまるちゃんもゲーム好きもお菓子好きも、これらはすべて「子供の記号」ですよね。この中で最も重要なのは二頭身であることだと思います。仮に、六頭身や八頭身のキャラクターがゲームしてお菓子食べてダラダラしてたら、あまり好意的に受け止められることはないと思います。子供だからこそ許されるものでしょう。
かわいい女の子だというのも必要かもしれません。むさ苦しい男子が同じことをする「干物弟」は、申し訳ないけど受け入れづらいですからね。
で、うまるちゃんの親というのは、全く問題にされていないわけですけど、これは「子供の大人化」作品のようにうまるちゃんに自立性を獲得させるため、ではないですよね。うまるちゃんをお兄ちゃんの庇護下に入れてしまうために、親の存在がいらないだけだと思います。
お兄ちゃんは、稼ぎを得て、料理を作り、うまるちゃんにお小遣いをあげる。これは属性としては父親も母親も兼ねてしまっています。つまり、うまるちゃんを子供化することで、うまるちゃんとお兄ちゃんの兄妹関係を親子関係にすり替えているってことですね。うまるちゃんとお兄ちゃんの関係は、ブラコンやシスコンとして見るよりも、親子関係としてみると驚くほどにしっくり来ます。
「大人の子供化」を描いてもそこに批判的な視点を入れずに済んでいるのは、兄妹関係をベースにしながらも疑似的な親子関係を成立させているからなんだと思います。
{/netabare}
何言ってんだおまえは:{netabare}
「うまる」は単なるコメディーだろ、うまるちゃんを愛でる作品だろ?との指摘はまさにその通りで、私もそれを楽しみに視聴していたんですけど、マンガ勢としては妙に気になるのです。マンガ史という視点からですね。この作品って、珍しいんじゃなくて、ちょっと新しいんじゃないかとすら思っているんです。
小さな子供を主人公にした作品って思いの外少なくて、そのほとんどは「子供の大人化」という手段に頼っています。子供向けの作品ですら、「ポケモン」のサトシのように過剰な自立性を与えてしまっています。
子供を子供として描いて成功したのは「よつばと!」くらいですかね。「よつばと!」に対しては、様々な評価があるのでしょうが、「子供の大人化」ばかりだったところに「子供としての子供」という視点で作品が作られたことにも価値があるのだと私は思っています。
「大人としての大人」「子供の大人化」という大人であることを前提とした作品が基本とされている中で、「子供としての子供」のジャンルで「よつばと!」が、「大人の子供化」のジャンルで「うまる」が、一定のテンプレを作れたようにも思えました。ただ、「うまる」が「よつばと!」のような評価を得られるか、というと、それは難しいでしょうね。マンガとしての質がかなり落ちますから。
こういう子供であることを前提とした作品というのは、今後増えていくんでしょうかね? 「よつばと!」に後続がなかったことを考えると「うまる」にも後続がないような気がしているんですけど。まぁジャンルとして確立されるまでは、単なる二番煎じにもなりかねませんから、雨後の筍というわけにはいかないんだとは思いますけどね。
コメディー作品であること以上にいろいろと気になった「干物妹!うまるちゃん」でした。{/netabare}