退会済のユーザー さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
タイトルなし
月並みな表現で申し訳なく思う。素晴らしい感動作。
前作の【オトナ帝国】ではケン、チャコのキャラクターの弱さが祟っていまいち入り込めなかったのだけど、今作ではその点をものの見事に改善してきている。
本作の物語の主軸は、井尻又兵衛と廉姫であり、しんのすけではない。
しかし、しんのすけという第三者の介入によって、よく言えば普遍性のある、悪く言えばありきたりな悲恋の物語を【切なさ】という表現を振り切って【感動】にまで昇華させた。
本作は、一昔前の人物との交流でしんのすけが大きな成長を遂げる、自由の尊さを描いた物語――なのではなく、むしろ、しんのすけとの交流によって、動くことのなかった又兵衛と廉姫の淡い恋の物語なのだ。
しんのすけの存在がなくては、二人の物語は珍しくもない内容になっていた――ばかりか、そもそも始まってもいなかったかもしれない。
つまり、前作と似て非なる点はここ。この作品は、メッセージ性をほとんど持ち合わせていないんだ。
その代わりとばかりに本作は、映画としての魅せ方に凝った作りとなっている。
例えば、廉姫を乗せたひろしの車が、馬で駆ける又兵衛を置いて先に行ってしまうシーンや、牡丹(たぶん、そうだよね?)が落ちるシーンといった暗喩。
例えば、しんのすけがタイムスリップした池のほとりで、廉姫が溜めに溜めて又兵衛に強く寄り添う間の取り方。
例えば、又兵衛が早朝に敵軍を襲撃すると告げたシーンでは、廉姫がまっすぐに又兵衛を見つめて無事を祈ると言うと、又兵衛は目を合せず返事をする。
こうした描写の積み重ねによって、二人の結末に涙腺をやられることとなったんだよ……。
廉姫が終盤にて「こんなに人を好きになったことはない」なんてセリフを溢していたけど、驚くべきは、過去話や回想がほとんどなかったにも関わらず、このセリフに重みがあったことだ。
おまけに、その直前の又兵衛の死に際の演出がにくい。感動モノを意識するならば普通、こういうシーンにはもっと尺をとり、音楽も盛大にかけ、又兵衛がモノローグで廉姫への押し込めていた想いを吐露する、というのが定石。
が、本編ではそんなものが一切なく、呆気なさすら感じさせて又兵衛は逝った。
このシーンで視聴者である僕が抱いたやるせなさは、廉姫の「もうよいのだ、しんのすけ……」で最高潮に達し、しかしその直後のしんのすけの金打によって余韻へと変じる。この鮮やかな流れに脱帽した。
泣きの入った感動系でありながら、全編にわたる穏やかさな雰囲気が、絶妙なバランス。
……ただ、少し不満を挙げるなら、しんのすけが物語を動かす為の装置に終始しており、彼特有の個性がいまいち感じられなかった。
又兵衛への発言はいつもとは異なり、悪い意味でリアリティーに欠ける。(櫓で又兵衛を話術で翻弄するシーンなんて、幼稚園児では無理がある。せめて小学生のマセガキとしてなら、通用したかも)
戦の仕組みも知らないはずのしんのすけが、髙虎に対して「おまえ、逃げるのか!」云々は、少しカッコよすぎる。こういうのは、もっと抽象的で、それゆえにズシリとくる子どものセリフであって欲しかった。