どらむろ さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
一話完結、冷戦終結前後が舞台の人間ドラマ。昼行燈な中年主人公の魅力が凄い、不朽の名作です
浦沢直樹先生の漫画が原作、全39話のオムニバス。
一見冴えないオッサンだが実はオックスフォード大学で学んだ考古学者…にして、SAS(イギリス陸軍特殊部隊)で大活躍した精鋭…にして、副業でロイズ保険組合の調査員(オプ)…という、トンデモない実力者なキートン教授が大活躍!
冷戦終結前後の社会情勢、考古学や歴史風俗を絡めつつ、キートンの活躍と多彩なドラマが見所です。
あまり派手な活劇では無いのですが、1話完結の人間ドラマとして、とても素晴らしい。
アニメとしては地味だし、東西冷戦などの歴史に関心が薄い方には不向きかもですが、不朽の名作なので是非オススメしたいです。
…歴史ドラマに関心がある方ならば楽しめるかも。
※評価システム上(私にしては)低めですが、実質、不朽の名作。
{netabare}『物語』
物語の時代は二つの超大国アメリカとソビエトの東西冷戦が終結した辺り(90年代前半)で、当時の社会情勢を反映した社会派ドラマが主流ですが、他にもバリエーションに富むストーリーで1話完結どのエピソードも魅力的です。
一見冴えないオッサンだが実はタダ者ではない、平賀=キートン・太一の活躍に時に驚かされ、時に深い人間ドラマに引き込まれます。
話は多彩で全39話どれも面白いのですが…
「キートン無双系」
「考古学・歴史や文化ロマン系」
「第二次世界大戦・東西冷戦の悲劇系」
…な感じに分類できそうです。後者2つもやっぱりキートンが無双します。
世界を股にかけて、考古学者キートン教授が紡ぐ古代史ロマンはワクワクさせてくれるエピソード多し。
派手な活劇で暴れまわる話もあれば、キートンがいきずりのゲストキャラの聞き役に回り翻弄されつつ…いつの間にか歴史のロマンに触れていくタイプのお話も実に面白い。
キートンの豊富な知識と好奇心が、異文化を股にかけて人物ドラマを紡ぎ出していく過程がすごく面白い。
「キートン無双系」
第1話初っ端から、キートンがプロの賞金稼ぎ達に交じって強盗犯グループを圧倒。
一見冴えない中年なキートンを賞金稼ぎのボスは見くびるが実は…!
キートンの凄さは身体能力よりも豊富な知識と経験、まず第一話でタイトルの「マスターキートン」がどんな男か括目します。
8話「交渉人のルール」ではキートンがネゴジエイターとして大活躍。
10話「チャーリー」18話「フェイカーの誤算」24話「オプの生まれた日」
等々、キートンの名探偵っぷりがすごい。
殺人軍用犬と死闘を繰り広げる15話「熱く長い日」
テロリスト相手に冷静にチャンスを狙う20話「臆病者の島」
流石はイギリス陸軍特殊部隊は伊達では無い!
敵だらけの街をハッタリだけで死地を切り抜ける23話「出口なし」もハラハラする。
砂漠に置き去りにされても見事にサバイバルしてのけた25話「砂漠のカーリマン」もカッコイイ。
考古学や民族性も感じさせる名エピソードでした。
…「風上なら銃より投石器の方が有利」とか、割とトンデモな戦闘技術は賛否あるかも。
まあ…アニメですしキートン無双を素直に楽しみたい♪
「考古学・歴史ロマン系」
本作の醍醐味ともいえるエピソード群です。
胡散臭い老人の話に付き合っていたら、いつの間にか歴史のロマンに触れていく4話「不死身の男」は名エピソードです。
これもやはりキートンの学識と好奇心のなせる展開、ピンチを切り抜ける凄腕っぷりも流石。
イギリスを舞台に、若きイギリス人青年と中国人女性の恋を、中国から日本にかけての孫文亡命の歴史と日中文化交流に絡めていく11話「特別なメニュー」
日本の天狗伝説とスコットランドの悲劇の歴史(イングランドとの戦争)を絡めた歴史ロマンス21話「アザミの紋章」
も素晴らしい。キートンの学識と推理が、一見関係なさそうな異文化を繋げていき、ラストのステキな驚きの結末にもっていくのが良いです。
パズルのピースがそろった時のカタルシスが見事。
「第二次世界大戦・東西冷戦の悲劇系」
これも本作特有の作品群。
悲しい歴史の闇に翻弄される人々の、悲劇的なお話が多いです。
東西冷戦の象徴たるベルリンの壁に引き裂かれた少女の14話「心の壁」
胡散臭い老婦人のヨタ話…と思いきや東西冷戦の悲劇9話「貴婦人との旅」
共産主義の理想に燃えた男たちの末路27話「赤い風」28話「アレクセイエフからの伝言」
など、米ソ東西冷戦にまつわる人間ドラマに目が離せません。
第26話「家族」も名エピソード。23分間1話完結のドラマとして素晴らしかった。
東ドイツのソウルオリンピック(88年)の英雄的メダリストだが知らないうちにドーピングさせられおちぶれた男が、ユーゴスラビア難民との交流で生きる希望を取り戻す。
ユーゴ内戦という当時の時代と冷戦の残滓を背景に、ユーゴスラビアと日本は共に蕎麦好きという文化面の話、旧東ドイツの移民排斥など現在でも通じるテーマがありました。
ラストは挫折した英雄カール・ノイマンが大切な絆を取り戻す…泣けます。
戦争の渦中必死に守った極上ワインの物語22話「シャトー・ラジョンシュ1944」
ナチスドイツの空襲にもめげずに学ぶ事を諦めなかった、キートンの恩師5話「屋根の下のパリ」
第二次世界大戦の過酷な運命に負けなかった名エピソードです。
「屋根の下のパリ」は考古学者キートンの原点といえる古代史ロマンや好奇心、そして意外だがハートフルなラストにグッと来ました。
この他にも私が一番好きなエピソードは13話「穏やかな死」です。
テロリスト御用達のスゴ腕爆弾職人が、穏やかに生きて死にゆく老人と出逢い、荒んだ心境が変わっていく…
相変わらずなキートンの無敵っぷりも発揮されつつ、爆弾解除のハラハラ感!
これまで爆弾で罪の無い人々を殺してきた男の、人生最後の穏やかな戦い…一番泣ける名エピソードでした。
23分間で、まるで1本の映画を観ているかのような完成度の高いドラマです。
次点で26話「家族」この2エピソードは最高でした。
この他にも話にバリエーションあって飽きさせない。
…5点満点でも良い位の不朽の名作なのですが。
39話もあるうち、地味なエピソードも多いので「ゴルゴ13」と比べると全話最高に面白い!とまではいかないので4.5点です。
…原作全144話のごく一部に過ぎないので、まだまだ観たいエピソード多いです。
『作画』
地味ですが作画は安定しています。
人物画も背景もドラマやロマン感じさせるに十分。
『声優』
井上倫宏さんは本職は俳優ですが、キートンの深みのある演技は良かったです。
最近では「ヤングブラックジャック」にもレイモンド役で御出演の模様。
キートンの娘の百合子は当時新人の桑島法子さん。かわいいです。
故・永井一郎さんはじめ、いぶし銀のベテラン勢多し。
予告編担当のキートン山田さんも良かった。予告編が良いアニメは良作多し。
…4話「ラザニア奇譚」の幼女とか、子供役がちょっとぎこちなかった感も。
『音楽』
OP「Railtown」は歌が無い音楽なのですが、壮大な歴史・文化ロマンを感じさせてくれる良曲。
マスターキートンとくればこの曲が脳内リピートするくらい。
チャララ~ラ~ラララララララ~チャララ~ラ~ラ~ラ~ラーラララー♪
BGMも良い感じです。
…EDがちょっと合ってないので減点。
『キャラ』
何といってもマスターキートンこと平賀=キートン・太一のキャラクターに尽きる。
まさに「昼行燈」人は見かけによらない!
既に前述したとおり、タダ者じゃあありません!
ピンチでも冷静に対処したり、彼の豊富な知識が本作の歴史・文化ロマンを盛り上げています。
本作の魅力はキートン教授のお陰、ゴルゴ13程の派手なカリスマは無いのですが、それでも特筆すべきスーパーヒーローかと。
キートンの娘の百合子ちゃん可愛い。賢くって気が強くてしっかりもの。いい娘さんですねぇ。
一見ダメオヤジな太平もやはりタダ者ではなかったり、友人たちもユニークだったり。
タフガイな探偵だが実はマザコンなチャーリーは良き友ですな。
ゲストキャラに魅力あり、4話のロマノフ王朝縁の爺さんや、9話の老婦人などクセが強いが深みのあるキャラ多数。
老人に魅力的キャラ多いのが特徴。
18話「フェイカーの誤算」の職人的当たり屋、20話のスケベオヤジだが実は凄腕傭兵もカッコ良かった。
原作にはまだまだ魅力的キャラいるので、無理でしょうけど続編観たいです。{/netabare}