sekimayori さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
いろいろと、Feeling Heartがポイント。 【71点】
1999年放映、メインヒロインあかりの視点から、主人公・浩之を中心に、至って等身大の高校生活の中での少年少女の交流を描き出した作品。
美少女ゲーム原作ながら、ARIA等の雰囲気アニメの系譜に近い感触。
ヒロインによっては個別回に物足りなさや退屈を感じることも否めないけれど、全体を貫く品の良さ、ノスタルジーをくすぐる高校生活の描き方、感情表現の細やかさには、非凡な魅力があります。
興味が湧いた方は、まず、デジタル移行直前の円熟したセル画と、小林七郎さん手掛ける背景の温かみに包まれたOPをご覧ください。
(To Heart アニメOP で検索!)
校舎、教室、ロッカー、家庭科室の表札。
無人の廊下、物言わぬ美術室の胸像、静かに佇む理科室の実験器具、季節外れの荒れたプール。
イントロのメロディーに合わせ、セピアに色褪せた校舎内の一場面が次々と切り取られてゆきます。
続くAメロからは、千羽由利子さんキャラデザによる可憐な少女たちのささやかな挙動がきめ細かく描かれて。
微かに笑顔を作る、同級生と喧しく会話する、玄関で大きく手を振るetc、激しく媚びた動作は無いけれど、一つ一つの動作が非常に丁寧で魅力的。
特に、マルチの微かなよろめきや、一束一束風にたなびく先輩の長髪は印象的ですね。
小さな思い出を挟んで、サビでは再び校舎内の風景→少女の順にクローズアップ。
ここでの彼女たちの表情も、内面が画面から滲み出すかのように繊細です。
マルチと葵ちゃんの笑顔がめちゃくちゃかわいいんだよなちくしょう。
そして、クマのぬいぐるみと共に二人にとって重要な意味を持つこととなる雪が舞い散る中で終了。
素朴でどこか懐かしい高校生活、少女たちの感情の機微が素直なラブソング「Feeling Heart」に乗せられた、本作の良さを凝縮したような素晴らしいOPです。
このOPに価値を見出せるなら、本編にも満足できる可能性は高いかも。
物語展開は基本的に1話完結、浩之が女の子を助けて仲良くなる(あかりはそれを見守る)というもの。
いわゆるギャルゲテンプレで、それを作ったのがこの作品でもあるようです。
今では手垢のついた平凡なシナリオではあるけれど、本作は行き過ぎない上品さと繊細な感情表現で、欠点をカバーしていると言えましょう。
浩之と美少女たちは「仲良くなる」のみで、むやみやたらと惚れられることはない。
だから、セリフを排した演出、表情やカメラワークで少女たちの内面がストンと心に落ちてくる心地よさを、素直に味わうことができます。
落ち着いた雰囲気のため、テンプレなギャップ描写(e.g.委員長)も、「ギャップ萌え」ではなく、親しくなれたクラスメートの意外な一面を発見できたような人間関係の素朴な喜びに転換されたり。
また、浩之とあかり、志保、そして(ときどき)雅史の四人が中心となる回をタイミング良く挟むのもうまい手法。
1・2話→ヒロイン個別回×2→5話→ヒロイン個別回×2→8話→個別回×2→12・13話 の構成で、バランスが取れている。
マルチだけ個別回が前後編だったのは人気キャラゆえなのですね(こちらもロボット系萌えキャラの元祖だとか)。
細かな感情描写はキャラに厚みを感じさせ、出番の多いあかり、志保の回は満足感が高かったです。
なので、好きなのは8話、12・13話。
ラストシーン、{netabare}階段の前の二人と降りかかる雪は、OPの最後に繋がるとともに、小学一年生時の雨が二人の年月の積み重ねによって雪に凝固したかのような錯覚を覚えて、非常に美しい幕引きでした。
志保も持ち前の明るさで小さな恋心を乗り越えてくれるでしょう、{netabare}というか乗り越えて我が家に嫁に来てください(・ω・)ブヒ{/netabare} {/netabare}
キャッチしてる方々の評価が高かったので半信半疑で視聴したけど、観てよかった。
美少女ゲー原作アニメの元祖としてのアニメ史的な観点からのみならず、一本の作品として色褪せない価値ある作品です。
むしろ時を経たからこそ、90年代の高校生活をよりノスタルジックに感じることができるという利点もあるかも。
まぁ、私は90年代の高校生活どころか美少女との交流も華やかなクリスマスパーティーも経験してないんすけどね……。
シナリオの弱さは欠点と受け止めた上で、ノスタルジー用品、美少女用品という視座に囚われず、ささやかに取り結ばれた人間関係の上に成立する感情表現をゆっくり楽しまれてはいかがでしょうか。
【個人的指標】 71点