生来必殺 さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:今観てる
千里を駆ける暴力装置
冒頭を見たファーストインパクトは「エルフを狩るモノたち」。
多分その劣化版をやろうとしてるのでは?とある種の疑念を持って見てみたが
ある意味で、エルフを狩るモノたちであり、戦国自衛隊であり、
ジパングでもあるような、一見してふざけている様でもあり
シリアスでもあるような、複雑な要素を含みながらも
とりあえずバランスは絶妙、予想値を遥かに上回るダークホース的な物語と言えるかも。
自衛官である主人公の行動原理、つまり趣味に生きる人間性・・・
それを自然に受け止めてしまう自分ってどうなの?と踏み絵を強制的に
踏まされたような苦笑感に動揺しながらも、掴みは上々。
ふざけている要素の裏に見え隠れする本質的なテーマは案外深く、
とても興味深く、ついつい見入ってしまう。
特定の思想を持った人たちは「暴力装置」という言葉に特別な意味を込めるらしいが
社会学や国家システム論上の暴力装置と言えば、警察や軍隊を普通に指し
自衛隊もその一部と考えられるのはある意味では当然。
ジパングでも同様に描かれていることだが最新鋭兵器で武装した自衛隊の
戦闘能力、組織的実行力のパフォーマンスはアニメやフィクションを超えるほどに
ハイレベルで、圧倒的と言えるもの。
{netabare}
本来の戦争状態とは相対する二国間(以上)の外交関係の過程を経て
宣戦布告を以て開始されるのが典型ではあるが、
本作においては異世界の国の一方的軍事的進行により既に日本は戦争状態に陥り、
しかも民間人に死者が出ていることから、平時ではない有事の状態が成立する。
自衛権の行使は当然許容され、更に後の有事の特別法案成立により、
自衛隊は我々の知っている平時の自衛隊ではなく、軍事力を行使する部隊
つまり暴力装置として活動を展開することになる。
この暴力装置の行使を止める手段があるとすれば、先制攻撃をしかけてきた
相手国の外交ルートを使った働きかけ、侘びを入れるなのどアクション。
それがないなら交戦国とみなし先制攻撃の延長線上で自衛隊はリアクションの姿勢を維持する。
宣戦布告に等しい軍事的攻撃に対する反撃は主権国家としての当然の権利行使であり。
(少なくとも理論上は)
特地内で軍隊を配置、待機するだけでも戦争継続の意思ありと見なされる。
つまり自衛隊による一方的殺戮を受けたとしても交戦国の正規軍には
文句を言う資格がないのである。
そして、こたびの自衛隊派遣の目的は軍事的パフォーマンスの提示とそれにより
相手国に外交チャンネルを開かせることが主眼にあると推測される。
{/netabare}
自国民としては今ひとつピンと来ないが、他国からしてみると
自衛隊の総合的な(戦闘)能力は脅威的であるはずで
その点について、本作においてもさり気なく、そしてしっかりと描かれている。
一番の見所は異文化衝突と異文化交流、そして外交的プロセスの描写。
外交をしっかり描いているところに「エルフを狩る」とは違う、本作のまともさ強く感じた。
政治や外交にファンタジーという要素を取り入れたことにより
細かい雑多な要素については省略可能となるのだが、
根本原理を描き損ねるとすべてが台無しになるという諸刃の剣の危険性を孕む。
政治外交問題にファンタジーの要素を取り入れたとにより誤魔化しが利くどころか
かえって外交現象を的確に表現する難易度はむしろ上がってしまうのだが、
本作はその辺りが無難で、とても安定感がある。