退会済のユーザー さんの感想・評価
3.8
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.0
状態:観終わった
タイトルなし
22歳児である僕が本作を楽しめるとは、よもや思いもしなかった……。
波風立たないストーリーに、主人公によるまるで小説のようなモノローグ。いつものジブリとは似ても似つかない作風なのだが、もしかしたら、こっちの方が好きかもしれない。
特筆すべき点は、在りもしない懐かしさを全編にわたって感じることができる作り。
タエ子の回想として描かれた小学生時代。どう考えても僕の過ごした小学生時代とは色々とは違うし、あるあるネタももはや僕の世代ではあるあるでも無いのだ。
だが、不思議とそこに懐かしさを感じてしまう。
主人公タエ子は、都会でOLを務めるアラサー。とくに夢も持たずなんとなく就職した彼女は、結婚を勧められ、そろそろ嫌でも将来を見据えなければならない年齢に差し掛かっていた。
しかし、肩身の狭い幼少時を過ごした彼女は、わが身を鑑みた時、未来よりどうしても過去を振り返ってしまう。懐かしさ――過去に対するしこりのような未練を振り切れず、田舎に逃避を求める。
既に晩婚化の傾向にあるとはいっても、この時代だとまだまだ結婚しているのが普通だっただろう。トシオとの会話では「私の周りでも結婚していない人はいるよ」とか言ってた彼女からすれば、宿泊先のおばちゃんの言葉は耳が痛かったことだろう。プーマのシューズのくだりにあった「ほれ、みんなと言っても4人だけじゃないか」ってやつ。
田舎に理想を重ねて一方的に甘えていたタエ子は、終盤にて手痛いしっぺ返しを受ける。この時のおばあちゃんの発言によって、タエ子の「田舎の方は良い人ばかり」発言が、田舎に対するタエ子の一方的な幻想であることが示されている。普通に考えれば、過疎の一途を辿る農家の年配者が若い女性を嫁に欲しがるというのは、現実的な話だ。「まずは付き合ってみて……」という段階をすっ飛ばす発言含め、それを発したのがおばあちゃんってところが、特にね。
田舎への逃避もそこそこに、ようやく現実に目を向けなければならなくなったその時、トシオによって過去の未練が少しほどけていく。タエ子にとって、トシオが必要な相手だということは、このシーンで誰もが納得できる。少なくともタエ子にとって、トシオが特別な存在となる可能性は充分に示唆された。
タエ子の語る過去と同じぐらい、トシオは未来とか今現在のことを話していて、しかもタエ子のほんの少しネガティブだったりする過去話からも、未来の話に繋げていくという前向きさは、見習いたいものがある。
ここからのラストは、コミカルに描かれながらも小さな不満や後悔が積み重なった過去と停滞していた現在を振り切って、車に乗ってふたりで走るという清々しさが実に気持ち良かった。
……問題は、エンディングを描きすぎたことだろうか。
結婚のくだりからここに繋げたせいで、タエ子のとんぼ帰り=トシオとの結婚に踏み切った、という認識を視聴者に与えてしまった。
冷静に考えれば、エンディング中でタエ子がトシオとの結婚を受け入れた、なんて発言はどこにもない。タエ子がトシオとの関係を前向きに考え出しただけなのだ。
小学時代のタエ子らが祝福したのだって、おそらく、タエ子が前を向いたことに対してだろう。
バスを降りて、トシオがいるであろう方へとタエ子が振り返り、笑顔になる。というところで終わっていれば、余韻も残せて良かったんじゃないかなぁ。