「響け! ユーフォニアム(TVアニメ動画)」

総合得点
91.1
感想・評価
3146
棚に入れた
13984
ランキング
42
★★★★★ 4.2 (3146)
物語
4.2
作画
4.4
声優
4.1
音楽
4.3
キャラ
4.1

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ネタバレ

OZ さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

きらめきウィンドバンド

制作会社は作画において業界随一の京都アニメーション
監督は『CLANNAD』『AIR』『Kanon』と
key3部作の監督を務めた石原 立也さんとの事で
原作の小説は未読だが
PVを観て視聴意欲が高まり
期待して観てみる事にした2015春アニメ

■きらめきウィンドバンド■
まず京都アニメーション×音楽と言えば
真っ先に連想するのはご存知『けいおん!』だろう。

練習なし 挫折なし 男の存在も一切なしの三拍子揃った
日常系でありながらも"こんな学校生活があったら良いな"なんて
どこか現実からは遠い夢物語なのに対し
本作品は練習もするし挫折もするし男の存在もちゃんと存在する
言わば"こんな学校生活もあったよね"と
現実感を帯びたリアルな部活事情は陽だけでなく
嫉妬や焦燥等の生々しい陰の部分にもしっかりスポットを当て
真逆をいく『けいおん!』へのある種アンチテーゼを唱えた
高校の吹奏楽部を舞台に展開される写実的な青春部活ストーリーである。

周りに誘われるがまま
やる気の欠けた弱小吹奏楽部に
入部する事となった主人公 黄前 久美子。

そこで出会った厳しくも優しい友人 先輩 教師達と共に
日々練習を重ね 葛藤を繰り返し 時には衝突もしながら
意識のバラバラだった部員達は次第に足並みを揃え
目標を掲げた全国大会へと向けて音を奏でていく。

なんとなく吹奏楽を続けている者
大学受験の為に途中退部を選ぶ者
他人がどうであろうと純粋に上手くなりたいと願う者
ただ演奏するのが好きな者
特別でありたいと内なる情熱を燃やす者
音楽と向き合う立ち位置は一人一人が様々。

こうした魅力的なキャラクター達を始め
構成 演出 音楽と全体のクオリティが非常に高く
ありふれた定番のシナリオではあるけれど
オーソドックス故に却って洗練された作品へと昇華されている。

最終回で得られるカタルシスは一見予定調和であるものの
そこに至るまでのプロセスが丁寧に描かれている為
本作品風に例えるなら1話また1話と回を増す毎に
次回へ向けてのわくわく感がクレッシェンドしていき
気が付いた時には有無を言わさず引き込まれていたのだから驚きだ。

そしてそれら引き立たせたのは
何と言っても細部まで描き込まれた
職人技の作画があっての事だろう。

楽器一つとっても
埃を被っているものから輝きを放つものまで
実に繊細で美しさすら感じてしまう。

毎度の事ながらロケハンも念入りにこなし
スタッフクレジットを見ても
シリーズ演出の山田 尚子さんを筆頭に
演出や作風はブレる事なく統一化が図られ
外注に頼らずとも京都アニメーション内だけで
仕上げてしまうのだから恐れ入る。

今日まで培った技術が一段と込められた本作品は
まさに京都アニメーションの集大成とも言える
見事な出来映えである。

強いて気になった点を挙げるとするならば
久美子と麗奈の百合百合しい二人だけの世界が
ナチュラルに溶け込んできている事か。

例えば最終話でコンクールが始まる直前に
麗奈が髪を結んで欲しいと久美子に手伝ってもらうシーンがある。

実際に仲を深めている二人だが
あくまで彼女達の共有した秘密の中にだけ存在する仲である為
傍から見たら「そんなに仲良かった?」と
その関係を人前でオープンにしてしまうのは違和感と呼ぶべきか
彼女達らしからぬ印象を受ける。

百合描写を否定しているのではなく
要するに"彼女達だけの世界=背徳感"あっての
誰も知り得ない秘め事であるからこそ惹かれるので
人知れずの関係のまま貫いて欲しいと感じてしまったのだ。

とは言え全体を通して完成度の高さは群を抜いており
原作のストックも充分に余裕がありそうなので
今回が序章とするならば続けて第1章 第2章と
北宇治高校吹奏楽部のきらめく青春を是非ともフィナーレまで
見届けたい気持ちにさせてくれる作品である。

■きかせてファンファーレ■
さて 印象に残る名場面が非常に多かった本作品。

葉月と秀一 久美子と麗奈
各キャラクター達の関係が一歩ずつ進み
心情描写や演出面が特に素晴らしかった
第8話の「おまつりトライアングル」をハイライトに挙げたいところだが
魅入ってしまったのは第11話「おかえりオーディション」である。


「では これよりトランペットソロパートのオーディションを行います」

静寂に包まれた中 滝先生の一言により
再びトランペットのソロパートを決める香織と麗奈
二人のオーディションが始まった

先に演奏へと臨むは3年生の中瀬古 香織

微かに震える唇から緊張が伝わってくる

恐る恐る楽器に息を吹き込み
経験を積んできた彼女の演奏は確かに上手であったが
手放しで上手い!と称するより
経験からの安心感と言った方がしっくりくる演奏である

香織の演奏が終わり
続けて1年生 高坂 麗奈の演奏が始まった

唇を震わせた香織とは対照的に
臆する事なくトランペットに魂を吹き込み
「最初から負けるつもりなんて全くないからっ!」
自身の実力を自負している彼女の演奏が
静かなホール内に響き渡る

その刹那 部員達は麗奈の奏でる音色に否応なく気が付き
「一年でこの音ってズルいよね・・・反則だよ・・・」と評し
既に麗奈の実力を認めているデカリボンこと吉川 優子は
同じトランペット奏者なだけに
無慈悲なファンファーレに聴こえた事だろう

両奏者の演奏が終わり
部員達に決を取る滝先生

「中世古さんが良いと思う人」

どちらがソロに相応しいか?

香織自身が1番それを分かっている
悔しいけれど実力は麗奈の方が上だという事を

勿論 優子もハッキリと感じていたはずだ

決して香織の演奏が響かなかった訳ではない
麗奈が上手過ぎたのだ
ただそれだけの事なのである
だが それでも香織のソロパートを願わずにはいられない

分かってはいるが素直に認める事が出来ず
席を立ち 半ば抵抗に似た拍手を贈る優子

「では 高坂さんが良いと思う人」

かたや優子の拍手に対抗するかの様
同じく席を立ち 麗奈に拍手を贈る久美子

「中世古さん アナタがソロを吹きますか?」
 確かめる様に滝先生は問い掛ける

ほんの数秒沈黙が流れ 楽器を弱々しく握り
「吹かないです・・・吹けないです」
「ソロは・・・高坂さんが吹くべきだと思います」

大好きな音楽だからこそ嘘はつけなかったのだろう
かつて優子に「上手じゃなくて 好きなの」と
優しく微笑みかける香織の姿が脳裏をかすめるのと同時に
憧れの先輩がコンクールでソロパートを吹く
想い描いていたその姿は蜃気楼の様に霞んでいった

叶う事のない現実が大粒の涙となって優子の頬を伝い
人目も気にせず大声で泣きじゃくった

「高坂さん あなたがソロです
 中瀬古さんではなく あなたがソロを吹く 良いですか?」

香織とは異なる意味を持った問い掛けを麗奈に委ね

「はい!」

力強く そして真っ直ぐ前を見つめ
香織の想いを背負った上で迷う事なく答えを返す麗奈

こうしてソロパートの座を賭けた
香織 麗奈の一騎打ちは決着し
再オーディションの幕が閉じた。

まるでその場で観ている様な緊張感と
どちらも応援したい割り切る事の出来ない複雑な気持ちで
優子の願いは叶う事のない結果に終わったが
素晴らしい演奏を披露してくれた両奏者に
感謝の拍手を贈らずにはいられない
このエピソードがハイライトとなった訳である。

■よくばりフォルティッシモ■
吹奏楽を題材にしているだけあり
評価したいのはやはり拘りの感じられる音楽面だ。

OP「DREAM SOLISTER」

思春期ならではのどことなく無気力で
目指す場所が見つからない学園生活の中に光が差し
そこへ向かって走り出すと言ったところだろうか。

サビに入った瞬間
滝先生が汗を散らせながら指揮を執るカットに痺れ
曲の終盤に差し掛かった辺りで
教室の後方から前方へグルっと回り込むカメラワークに
思わず釘付けになってしまった。

続いてED「トゥッティ!」

一方こちらはOPよりも更にポップさを際立たせ
ジャンルで言うところのスカにあたり
本編の温度とらしからぬ曲調ではあるが
作品における世界観は損なわれておらず
アップテンポなリズムは耳にしているだけで
楽しい気分にさせてくれる楽曲だ。

「伝わる感動みんなで響け」のフレーズ時に
左から緑輝 麗奈 久美子 葉月の順に並ぶ
仲良さ気な4人のカットがあるが
麗奈の腕に何気なく手を絡ませている久美子を観ては
高揚感が舞い上がったものである。

唯一気になったのはイントロ時における緑輝の走り方。
何故に一人だけスキップ?(笑)

それはさて置き 何より素晴らしいのは
劇中で流れるBGMの質の高さだろう。

様々な楽器類を用いるのは当然だとしても
録音場所まで拘りを貫いているのは流石と言ったところで
本作品オリジナルサウンドトラック「おもいでミュージック」の
初動売上が約5,000枚越え(ダウンロードコンテンツを加えると倍近く)と
アニメのサントラはあまり数字が伸びない中
各地の店頭で品切れを起こすのも頷ける話である。

面白い遊び心を取り入れているなと感じたのは
第1話で久美子が初めて耳にする事になった
北宇治高校吹奏楽部の演奏曲を覚えているだろうか?

そう!お世辞にも上手いとは言えない「暴れん坊将軍のテーマ」である。

サントラには指導前 Ver.と指導後 Ver.の2パターンが収録されており
本編では描かれなかった滝先生の教えによる指導後 Ver.を聴くと
同じ曲とは思えない程に見違えた演奏になっているのだ。

他にも第3話で「何ですかこれ?」と酷評された「海兵隊」の指導前と
第4話で「良いでしょう」と及第点を評された指導後も収録されているので
聴き比べる事が出来るのも嬉しい一枚である。

中でも作中でその姿を見る事が叶わなかった
「三日月の舞 (香織 トランペットソロ Ver.)」は
本作品ファンならば一度は聴いておきたい一曲だろう。

勿論「三日月の舞 (麗奈 トランペットソロ Ver.)」も収められているが
吉川 優子の気持ちになったつもりで香織Ver.に耳を傾けると
「もしも香織先輩が選ばれていたのなら・・・」
オーディションで突きつけられた無情な現実から
その時抱いていたであろう優子の心境が
より手に取る様に伝わってくるはずだ。

だからこそ答えが分かっていても香織に拍手を贈り
優子の想い描くコンクールの演奏がサントラ上とは言え
こうしてちゃんとした形になったのを聴くと
つくづく感慨深い気持ちにさせられるものである。

本編ではフルサイズで聴く機会が少ない為
もっと!もっと聴かせて欲しい!!
そんな欲張りな気持ちがフォルティッシモの様に
強く湧き上がってしまったのは言うまでもないだろう。

■あとがき■
視聴前の期待を大きく越え
数ある2015春アニメ作品の中で
頭一つ抜けて楽しめる素晴らしい全13話でした。

正直 劇場版を除く
近年の京都アニメーション制作のTVアニメは
今一つ物足りないと感じる作品が続き
もし 今回も合わなかったのなら
次回からは京都アニメーションというブランド名だけで
視聴するのは避けるつもりでしたが
作画 演出 キャラクター 音楽と
全てにおいて一流の匠がなせる業を披露してもらい
調子のよい発言になってしまいますが
改めて京都アニメーションは凄い!と
感じざるを得なかったのが率直な感想です。

実に見事としか言い様がない渾身の力作でしたね。

最終回のEDにOP「DREAM SOLISTER」のWind Orchestra Ver.が流れ
「そう言えば最初はこんなだったな」と
足並みが乱れていた彼ら彼女らの道程を振り返りつつ
ラストに部員全員が集合している場面で熱いものが一気に込み上げ
最後の最後で感極まってしまいました。

優子ではないですが
「この演出ってズルいよね・・・反則だよ・・・」なんて
思わず口にしてしまいたくなったものです(笑)
本当に憎い演出でしたね。

そんな『響け! ユーフォニアム』ですが
皆様は誰がお気に入りのキャラクターでしたか?

観始めた当初は眼鏡の奥底にまだまだ謎を秘めた
ミステリアスなあすか先輩がお気に入りだったけれど
観終ってみれば何だかんだで
主人公の黄前 久美子に惹かれてしまいました。

鼻から血を出してまで特別になりたい気持ちや
演奏パートから外され 挫折を味わい 涙を流しながら
「上手くなりたい上手くなりたい上手くなりたい!誰にも負けたくないっ!!」と
悔しさを抑えきれずに夜の橋を全力で駆け抜け
そこで初めて中学生時代の麗奈が流した涙の意味を知る。

まさに青春そのものの青臭さが美しく
同時に直向きに打ち込む姿が羨ましくもあり
この一連の流れで心を打たれてしまいましたね。

見た目の可愛さも勿論ありますが
そういった外側の魅力とはまた異なる
辛くても苦しくても好きなモノに一生懸命ぶつかっていく
それだけでもう鷲掴みにされ
文句無く今期のベストヒロインとなりました。

やっぱり頑張ってる姿って
男女限らず応援したい気持ちにさせられますね。

また 本作品のラジオ番組『響け!ユーフォラジオ』も
本編とは違うノリで楽しく聴け
特に葉月役 朝井 彩加さんと緑輝役 豊田 萌絵さんの二人が
ラジオ番組内で何度もやりとりをされた
「サファイア!」→「みどりですぅ~」→「ありがとうっ!」の
お約束ネタには笑わせてもらいました。

アニメは終わってしまいましたが
ラジオ番組は続くそうなのでサントラと共に
しばらくはユーフォロスを患わずに済みそうです(笑)

続きはTVアニメでしょうか。それとも劇場版でしょうか。
いずれにしても次の曲が始まるその時まで
アンコールを望む拍手は鳴り止む事のない作品ですね。

満足度 ★★★★★★★★★☆ (9)

投稿 : 2015/07/22
閲覧 : 903
サンキュー:

85

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