sinnsi さんの感想・評価
2.5
物語 : 1.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 1.0
状態:観終わった
「構想10年」はデマ
まず、発信元が第三者のネット上の書き込みのみで有用な一次ソースが出てこない上、
その中から「構想十年とか新聞(に)デカイ広告打って」という一文が目に留まったが、それがこれだ。
http://dengekionline.com/elem/000/001/033/1033621/plamemo_th_cs1w1_919x919.jpg
> そして、その寿命はあらかじめ決まっている。
> 81920時間。
> およそ9年4ヶ月。
> どんなギフティアにも、所有者とのあいだには
> 10年近くかけて積み上げてきた、大切な思い出がある。
……文脈を汲み取れば作中設定である事は明らかだが、又聞きによってここまで伝播してしまったのだろう。
しかし、私自身も調べるまでそれが真実だと伺ってかからなかった。
なぜか? ……1話の完成度が高すぎた故だろう。
いや、全話を観終った後でも、この作品の1話は本当に素晴らしい。
舞台は近未来、主人公ツカサの入社する、SAI社が製造に成功したアンドロイド「ギフティア」の回収業務を巡っての話になる。
冒頭からパートナーのアイラ(ギフティア)の{netabare}残り寿命が短い事を匂わせつつ、「見た目はそのままでも記憶や人格に齟齬が出る」というセリフや、機能障害(緊張?)で回収対象宅の呼び鈴すら押せずに主人公に頼むというアイラの異常行動によって、それらは確信に変わる。(主人公は特有の鈍さで気が付かない)
そして、回収を拒む所有者から回収を試みても、アイラの斜め上の行動でことごとく失敗に終わるのだが、
その斜め上の行動が、およそ健常者であればやらかさないであろう壊れっぷりな上、周りの反応も的確でいて実にコミカルだ。
最終的に回収対象のギフティアが、アイラと二人きりで話した所有者への思いを当人に聞かれ、所有者も胸を打って回収に同意するという棚ボタ的な展開なのだが、
今生の別れではお互いの愛情に溢れていて、その涙に不意を食らってしまう。しかしそれだけでは終わらず、最後にアイラがやらかす言動が、そんな心を解してくれる。{/netabare}
いや、実に絶妙でいて卑怯なバランスだ。
今後も1話完結の形で回収業務は遂行され、様々な所有者(ギフティア)と対峙し、笑いあり涙ありで進むのだろう。
なおかつ、1話ではギフティアに関する謎もいくつか提示され、SF的な要素も相まって面白い。
回収業務の傍ら、それらの謎は消化され、また増え、そしてアイラとの信頼も結ばれ、最終的には避けようのない別れが待っているのだろう。
もしくは、最終回間近となって一気に消化されるのかもしれないが、どちらにせよ1話完結のアニメではよくある事だ。
しかしそうではなかった。
2話からは{netabare}回収業務の描写はおざなりとなり、主に描かれるのは、外回りでなく部署内の事ばかりだ。{/netabare}
3話ではとうとう{netabare}回収業務の描写が一切描かれず、要所々々で寒いギャグが入り、アイラとデートまでする始末だ。{/netabare}
そして問題の5話、{netabare}回収対象のギフティアの耐用期間が過ぎ、ワンダラーと化して暴走してしまい、
また同時にこの設定の根幹となる部分が明かされたのだが、それはあまりにもお粗末な物だった。
終始部署内の人間は、武装してワンダラーの回収を試みる「アール・セキュリティ社」を非常に嫌悪しているのだが、その原因がこれだった。
~~
「3年前、私のお父さんがワンダラーになった事は話したでしょ」
「その時の回収担当者が、カヅキ(部署内の女上司)さんだったのよ」
「え……? カヅキさんが?」
「でも私は、回収されるのが嫌で、お父さんと一緒に、逃げ出したの」
~~
回想
「動くな! そのギフティアから離れろ!」
「なぁ、ここは私に任せてくれよ! これ以上事を荒立てんな!」
「だが、いつワンダラーになるかも分からないんだろう? 今すぐ破壊すべきだ!」
「あんたらの出る幕はねえって言ってんだよ!」
「うっさい! いいから離れろ!」
(直後にワンダラー化、ミチル(お父さんの娘)を襲う。カヅキはそれをかばって足を負傷)
(その前にアール・セキュリティ社は、ミチルをワンダラーから引き離すなどの適切な措置を行っている)
「撃てぇ! 撃てぇっ!」
「……お父さん ……ぁ、あ……ああああああああああああ!!!!!!!!」
~~
「一番悪いのは、私だけど……あいつらさえいなければ……あんな事にはならなかった……なのに、なんで今さら……!」
~~
そもそもワンダラーとなる原因を作ったのは他でもないミチル自身であり、
最後の手段にカヅキは取り掛かろうとしていたものの、あの短い間では何かが出来た由もなく、
当然、あのままでは数名の被害者の出る大惨事となっていたのは明らかであり、全てにおいてアール・セキュリティ社は適切な措置を施していたと言える。
だがこれだけに留まらず、カヅキはこの後アール・セキュリティ社に対して悪態をつく、
「あぁ、足いてぇ、3年前に怪我した右足がいてぇなぁ(棒)」 (決してミチルに言ったのではない)
もはや言葉もない。
そして、てんやわんやで回収には成功したのだが、{/netabare}これ以降の話もまたひどい。
今もなお未解明な部分があるのに「5話で全ての伏線も回収したぜ!」という事なのか、回収業務の件はたまにチラッと出るだけであり、
アイラとの恋愛模様に重心を置いて描かれるのだが、性質的には「病で余命わずかな女の子との恋愛」に相違なく、ギフティアの設定はまるで意味を成していない。
特に目新しさもなく淡々と進んでいき、1話とは540度も違う展開になっていると言うか、もはやねじれ過ぎて意味が分からなくなっている。
10話で{netabare}結ばれた二人{/netabare}は、11~13話(了)まで{netabare}イチャイチャ模様を視聴者に見せつけるのだが、
特に展開に起伏もなく、要所々々で別れが辛いと互いに愛を確かめ合い、
最終的にも特に奇跡は起こらず、アイラはツカサ自身に回収された{/netabare}のだが、もはやどうでもよかった。
> 林:僕が最初に話を考えた時は、実際本作は重たい話だったんですけどね。藤原監督の参加で、これはラブコメにしましょうという流れになっていったんです。
繰り返すが、この作品は構想に10年もかけていないというより、かけてほしくもない。
まず本当なら芯を持って反対するだろうし、林直孝はこんな恋愛模様を描きたかったとも思えない。
最後に、メディア媒体が異なるせいか、著名ライターが脚本を手掛けて成功したオリジナル作品は数少ないが、
新たに始まった別著名ライターの作品には、是非とも頑張っていただきたいと思う。