sekimayori さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
折木くんはいないけど 【86点】
高校の吹奏楽部を舞台にした青春ドラマ。
■折木くんはいないけど
この作品は、私にとって小さな事件でした。
永遠青春ノスタルジーおっさん新海誠(褒めてる)に頼らずとも、週1のスケジュールでも、アニメはここまでできるんだ、という衝撃。
例えるなら岩井俊二的な映像美に切迫し、その上に確固たる物語を語れるんだ、という喜び。
ガイナ・ボンズ系統の「2次元キャラを」「2次元らしく」動かす(所謂作オタ的な)アニメーションとは目的からして違う、実写的な画面構成を完璧にコントロールする「ツール」としてのアニメーション。
それを徹底し、目線の揺らぎで、足の置き換えで、曖昧な微笑みで、大粒の涙で、2次元のキャラに実写以上の演技をさせてしまった。
彼女たちが経験する青春の光と影、その1コマ1コマを、言葉に頼ることなく、暴力的なまでの映像・演出の力で描き出してしまった。
8話とか、今の日本の実写界隈にあれ以上のものが作れるのか、本気で疑問です。
この出来栄えが「当然」なのか「奇跡」なのかは、一視聴者にはわからないけれど。
言葉にならない情動が最も瑞々しくきらめく青春という季節を。
その揺らめきが最も顕著に表出する「部活」の「人間関係」という場を。
息苦しいほどの美しさで切り取って魅せてくれた毎週30分。
とてつもない眼福でした。
だから、久美子みたいに、本音をボソッと綴りたい。
「京アニ、ハンパなかった」
「アニメでやってくれて、本当に嬉しかった」
「私、ユーフォが好き!」
まぁ11話は、ちょっと百合に振りすぎてた感も否めないのですが。
萌え豚としては、ちょっと味濃い目のデザートとして美味しく頂きましたよ(・ω・)ブヒ
■物語とか
その映像で描かれる久美子の変化+周囲との関係性も、非常に丁寧でした。
{netabare}低体温な主人公が、思春期の思い込みと熱情に溢れる「特別」な人物と出会い、あこがれ、挫折し、それでも求めるものの姿を見定めて、青春に飛び込んでいく。
輝かしく苦々しい思春期の一幕が過不足なく描写されていて、自分にあんな過去があったのかすら曖昧なのに、異常に心に訴えかけてきました。
その周囲を彩る、熱病のような麗奈の激情も、部長の不安定さと頼もしさも、行き過ぎながらも美しいリボン先輩の思慕も、中世古先輩のトランペットへの愛や承認欲求や納得も、影を抱えつつも鮮やかにきらめいていて。{/netabare}
普遍的な青春の豊かな様相を、過剰な語りを排した脚本で構築してみせた物語は、素直に評価に値すると思います。
なまじ出来がいいばかりに、 {netabare}主役級数人以外のキャラの掘り下げが果たされなかったのは残念ですが。
あすか先輩、辞めた二年生など群像劇として美味しい積み残しが沢山、伏線も張られたまま。{/netabare}
心から続編を望みます。
あ、スポ根ものの要素はあるけど、そのジャンルとして観ちゃダメかと。
最終回、{netabare}コンクールで他校の演奏が描かれず、その時間を朝の準備の様子や、自校の演奏を聴く夏紀先輩・葉月の描写に回したことが、{/netabare}それを何よりはっきり示してる。
キャラはみんな京アニ作画で非常に魅力的だったのですが。
その中でも特に久美子は、あのぼそぼそっとした物言いのせいか、妙に現実味があって艶めかしかった……。
映像表現の方向性とも相まって、本作の良さを体現するような主人公でした。
あと、夏紀先輩と葉月は天使だし、ファゴット?の赤髪のお姉さまは美しすぎです(・ω・)ブヒ
■折木くん関連で蛇足
キャラの演技の細かさは『氷菓』でも感じた傾向だけど、まじで京アニすげえええってのはユーフォが初体験だった。
あっちは口頭説明が必要な謎解明パートがクライマックスで、心情寄りの演出を持ち込みづらかったんだろうか。
青春の痛みも青春の輝きも、両方こんだけ描けるんだから、もっと一般文芸元ネタにしてくれると楽しいなぁ、とか欲張っちゃいます。
(もちろんユーフォ続編の後に)辻村美月とかどうよ?
売れないだろうけど。
【個人的指標】 86点
(2015.7.6)