STONE さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
呪縛から解き放つ
原作は既読。
原作はかなり癖のある絵だが、それをそのままアニメにも持ってきたのにはちょっと驚いた。
個人的には「寄生獣」や「悪の華」のように原作のタッチを変えてしまうのも、
アニメとしての解釈ということで、それはそれでありと思ってしまうが、やはり原作とは
別モノという意識は強くなる。
その点でこの作品に関してはストーリーのみならず、原作のテイストもちゃんと
引き継いだという感覚が強い。
ただ、この絵だけで受け付けない人が出てきてしまうのもしょうがないかなと。
原作者の松本 大洋氏というと、割と通好みの印象があり、確かに本作も独特な絵や
テイストはそんな感じではあるが、ストーリー展開に関しては主人公であるペコこと星野 裕が
敗北により一度は卓球を捨てるが、再起してインターハイに挑むというストレートな王道
スポーツもの。
ただ王道要素である努力、友情、勝利だけでなく、嫉妬、挫折、放漫などの負の要素も
ちゃんと描かれる。
個人的にスポーツものに関しては、善対悪のバトルもの以上に敗者をどれだけ描けるかが、
その作品の質を問う大きな要素になっているように思っているが、その点ではこの作品は文句
なしで、むしろ勝者より敗者に光を当てている印象が強く、そこで描かれているものは勝敗
だけでなく、自分にとっての卓球、そして才能とは?を問うようなものになっており、
ドラマとしての秀逸さは単なるスポーツものの域を超えているかなと。
特にアニメ版である本作は原作以上にペコやスマイルこと月本 誠以外の脇役に光を当てて
いる印象が強く、卓球に向き合う男達の群像劇といった感が強い。
キャラに関しては卓球が個人競技であるゆえに割と絞り込まれた感が強いが、それゆえに
一人一人のバックボーンや心情がていねいに描かれている。
卓球の才能という部分に関してはアクマこと佐久間 学に代表される、どれだけ努力しても
越えられないものとして描かれており、単なる感動ドラマではなく冷たい現実も盛り込んでいる
ことも、よりドラマとして深みを出しているような印象。
それゆえに逆に才能に恵まれたペコはヒーロー性が強まり、アクマの説得でペコが再起する
展開にも説得力が増したみたい。
スマイル、ドラゴンこと風間 竜一、チャイナこと孔 文革のいずれもそれぞれ事情が異なる
ものの、ある種の呪縛に捕らわれたような状態で、これがペコとの試合によって救われて
いくが、ペコ自身は対戦相手を救おうという意識はなく(スマイルに関しては多少あるみたい
だったが)、単に卓球を楽しむという自身のスタンスが結果として相手を救っていく。
最終的にまだ卓球に向き合う者、離れる者様々だが、呪縛から解き放たれた状態で、長い
人生というスパンで考えた場合、それぞれが納得していれば、それは良い選択をしたのだろう。
演出に関しては、単なる試合描写ではなくキャラの心情や状況を象徴するモチーフ
(チャイナの飛行機やドラゴンの竜など)を盛り込んだり、漫画のコマ割りのようなカットが
印象的。
キャストに関して、チャイナ役の文 曄星が印象的。中国語は分からないけど、雰囲気が
いい。