「響け! ユーフォニアム(TVアニメ動画)」

総合得点
91.1
感想・評価
3141
棚に入れた
13963
ランキング
42
★★★★★ 4.2 (3141)
物語
4.1
作画
4.4
声優
4.1
音楽
4.3
キャラ
4.1

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ネタバレ

景禎 さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

そして・・・私たちの曲はつづくのです。

ちょっと長文になってしまったので、結論先出しで行きます。
文句なく「神アニメ」。いままで私が見たアニメ作品、劇場版やジブリやディズニーも含めて、その中で最高の作品と言っても過言ではありません。

吹奏楽部経験者はもちろん、その他音楽系部活経験者、舞台の上で演奏した経験のある人には超お薦めです。その他にも体育会系ふくめて全国大会があるような部活経験者にもお薦め。もちろん、そういう経験がまったくないという人にも配慮されていますので大丈夫です。

↓一通り見てみたけど、ストーリーに面白みがない、盛り上がりがない、といった感想を持った人はぜひ読んでください。
{netabare}この作品は体験型アニメです。(製作側に断りもなく勝手に断定してますが・・・)
なので、見るときはちゃんと見ましょう。集中して見れるので一気見がお勧め。ながら鑑賞はできるだけ避けてください。2倍速再生は絶対NGです。{/netabare}

武田綾乃さんの小説のアニメ化。漫画化もされています。例によって私は原作未読です。

ジャンルは「部活もの」。扱われるのは吹奏楽部。
高校の部活として、大抵の高校にあるメジャーな存在なのに、部活モノアニメにはほとんど(というか、少なくとも私は知らない。)扱われてこなかった吹奏楽部。それも、トランペットやトロンボーンという華のある楽器ではなく、地味な低音パート、その中でも一般にほとんど知られていないユーフォニウムという楽器に焦点があたります。

主人公黄前久美子(おうまえくみこ)は、子供の頃からユーフォニウムを吹いていて、中学では吹奏楽部。そこでいろいろあって、高校入学を機に新たなスタートを切ろうと、わざわざ母校からの進学者が少ない北宇治高校を選びました。中学時代にいろいろあった吹奏楽は、当初あまりやる気がなかったのだけれど、同級生に流されて何となく入部します。

全13話で、春の入学から夏の吹奏楽コンクール府大会までが描かれます。

さて、吹奏楽という業界(分野?)は「のだめ」や「四月は君の嘘」で描かれた音楽業界の一種ですが、高校の部活としての吹奏楽は、それらともかなり異なって、独特の慣習や常識を持っています。そして、それらは一般の人にはほとんど知られていません。

そういう分野でのお話しなので、一般の視聴者を置いてけぼりにしないよう、全13話のうち前半6話ぐらいは、高校吹奏楽や楽器、音楽全般にいたるまで、一般の人にもわかるように丁寧な説明がされます。それは、初心者入部の加藤葉月(かとうはづき)の目線に合わせて説明され、そしてまた、ヘタクソな吹奏楽部が上達していく歩調に合わせて説明されるので、あまり説明的な感じはなく、割とすんなりと入ってきます。

そういうこともあって、前半はストーリー的には比較的ゆっくり地味に進んでいきます。そして、吹奏楽をとりまく空気を一通り描き終わったところで基礎編終了、いよいよ本格始動となります。

7話。
{netabare}一所懸命努力して全国を目指したい派と、楽しい思い出作りをしたい派の確執が描かれます。
これは、たぶん一部の強豪校を除いてどこの吹奏楽部にもあることのようです。私もそういう例を知っています。とても難しい問題で、大人が考えても模範解答はありません。ましてや高校生がこのような難問にうまく対応できるわけもなく、吹奏楽部の思い出をトラウマに変えてしまうというような最悪は結果になりかねません。
この作品では、受験に集中するため辞めていく久美子の幼馴染を、1年前に起こった1年生の大量退部事件と関連づけられて描かれます。{/netabare}

8話。
形式的にはサービス回です。お祭りゆかた回です。萌えアニメとしてはこの回がピークで、この後いくら待っても水着回はありません。
この作品で描かれる風景はどれも美しいのですが、この回は特に絵的に美しい回です。
{netabare}葉月の淡い失恋と、麗奈と久美子の女の子どうしの友情が時間的に同時並行で描かれます。お祭りのにぎやかさと、それを上から眺める夜景の美しさ。そしてその美しい光の中では葉月の淡い恋が終っていきます。EDでは、トランペットとユーフォの美しいアンサンブルに乗せて宇治橋の上で葉月が緑が出会うシーンは感動的。
高校生の時間はすべてが青春。二つの出来事を重層的に描くことによって表しているようです。{/netabare}

10話。
神回。
私はこの回ぐらいから、このアニメ作品がとんでもない作品であることを薄々気付くことに・・・。
{netabare}よく「目は口ほどに・・」と言いますが、アニメの作品でも上質の作品であれば、登場人物の心情を表すときにセリフで語らせるのではなく目を描くことがよくあります。ところがこの作品では、ここぞと言う場面では目を描かない。またはフレームや髪の毛で目を半分隠す、まつげだけ映す。そういう表現の仕方があちこちに見られます。その最たるものがこの回。滝先生の再オーディション提案の場面です。トランペット3年生の中世古香織(なかせこかおり)が再オーディションを希望することろ。まず、ゆっくり立ち上がる膝、次に立ち上がりつつ手が挙がりかけた上半身、そして、指先まで真直ぐに伸ばされた手が描かれ、その後にやっと凛とした顔が映し出されます。目以外の体の動きによって、香織の気持の強さをより鮮明に表している、ぞくっとするほど迫力あるシーンです。{/netabare}

11話。
これも神回。
{netabare}香織と麗奈の再オーディションの会。
この回での注目点の一つは、ホールの舞台照明の光と空気感の描き方です。なんと空中に浮遊する塵が舞台照明で輝く様子まで描かれています。舞台上に漂う緊張感を表現するための演出と思いますが、それにしても、ここまでのディテールを描いたアニメがかつてあったでしょうか?京アニの何でもやるぞという姿勢はすごいとしか言いようがない。
もう一つは、アニメ作品の要素として「音楽」を加えたところ。音楽といってもOPやEDやBGMではなく、登場人物が奏でる物語の中で鳴る音楽。この回は二人のトランペット奏者の演奏の違いが表現されます。二人とも超高校級の腕前ですが、その高いレベルの中で麗奈のほうがより上であることが、誰が聞いてもわかるようになってます。
二人の演奏の違いを簡単に言えば、ダイナミックレンジと表現の幅です。ダイナミックレンジとはそのものずばり音の大きい小さいの差のことです。表現の幅とは、ちょっと言い方が分からなかったので苦し紛れにそう言ったのですが、こういうことです。
息を使って演奏する管楽器では、高音域が大きく、低音域が小さくなる傾向にあります。楽器の構造上の縛りから開放されて、音階は上から下へ下がってくるところで、音量は徐々に大きくなるような演奏ができるか?ということです。麗奈の演奏を聞けば、それがよくわかると思います。
作画や声優、背景に加えて「音楽」を作品の要素に加えたすばらしい演出と、その音を提供した洗足学園音楽大学に拍手。
二人の音の違いは、ソロフレーズの最初のカメラの引き方という絵的な演出にも現われています。香織の演奏のときは他の生徒たちがいるホールの中ほどまでで留まるのですが、麗奈のときは楽器のベルからホールの最後列まで一気に引きます。麗奈の音はホール全体を鳴らす音であるという表現です。
それにしても、滝先生の「再オーディションをホールで行う」というアイデアは理に適っています。コンクールはホールで行われるので、ホールでよく響く音のほうが良いのです。おそらく、再オーディションを音楽室でやっていたらそれほど違いが出なかったのかも知れない。いや、逆に麗奈の演奏のほうが、うるさく耳について不快に聞こえたかも知れない。{/netabare}

12話。
超神回。
{netabare}ユーフォパートは、本来お休みの箇所で、音の補強のために他パートと同じ譜面を演奏することになります。楽器にはそれぞれ得意、不得意なフレーズというものがあって、他のパートの楽譜を演奏することは技術的に難しい場合が多いのです。滝先生は高校生にそれをやれ、というのですね。それもコンクール直前に。鬼ですね。
久美子は一所懸命練習するのですが、なかなか上手くいかない。でも、本番までにはなんとかなるだろうと思っていた矢先、総合練習中にいきなり滝先生から切り捨てられます。まずは、この切りの瞬間の描写がすごい。あすかの横顔アップから入り、ぐいっと回り込んであすかの蔭から久美子の凍りついた顔が現われ、正面から目のアップ。
帰り道、久美子はクビを宣告された瞬間を回想します。いったん歩みが止まり、早足に、そして駆け出して宇治橋の角を曲がり、涙を撒き散らしながら全力疾走。このシーンは超神作画。走る久美子の距離と角度の変化、周囲の歩行者とのすれ違い、背景に流れる橋の欄干と、その向こうに輝く宇治川の水面が一斉に動きます。どうやったらこんな絵を作れるんだ?わずか数秒のカットに何枚の絵とどれだけの労力を費やしたのか?ていう感じ。{/netabare}

最終話。
超々神回。
前話がすごすぎて、その後に続ける最終回はどうするのか?あれ以上の盛り上げはもう無理ではないか?と心配したのですが、その心配は全くの杞憂に終わりました。
{netabare}この回は前回とは打って変わって、コンクール当日の一日を淡々と描くだけです。しかしそれが前回の超神回の後に続ける超神最終回としての唯一の解だったのかもしれません。
目覚まし時計が鳴り、早朝の電車に乗り、学校で準備をし、会場に移動し、楽屋で音出しをし、舞台袖で出番を待ち、舞台上で本番演奏をし、結果発表を迎える。リアルなコンクール当日ってほんとこんな感じなんでしょうね。妙に奇をてらわず、そのまま描くことで、徐々に高まる緊張と、その緊張が結果発表で一気に解ける様子を表しています。
練習で何度も耳にタコができるほど聞いた曲、全曲通しで聴きたかったという気持ちはありますが、本番演奏の12分弱程度と思われるシーンは7分ぐらいに圧縮されています。演奏中は、舞台のシーンと並行して、舞台袖のサブメンバー、楽屋の立華高校の様子を描く短いカットが何度も差し込まれます。この三つのシチュエーションはどれも緊張に包まれていることには違いないのですが、それぞれが違った緊張、違った空気を持っていて、その違いが実に良く表せていると感じました。こういうところも実にリアルです。
演奏が終わったらすぐに結果発表のシーン。ここは1話目冒頭の中学時代のコンクールシーンのリフレインです。緊張して結果を待ち、結果が掲示され、結果に反応する。この全く同じシーケンスで描くことにより、その違いを際立たせている。この手法はある意味王道ですが、とても効果的でした。あっさり好きの私好みの、最上級の最終回でした。{/netabare}

登場キャラは個性豊かなのですが、アニメ作品でありがちなテンプレキャラはいません。女の子多めなのは萌えアニメのお約束ですが、現実の吹奏楽部の男女比もこの程度ですので、萌え狙いではありません。アニメ作品としての多少のデフォルメはありますが、基本的には現実に存在していても、なんら不思議のないキャラたちばかりです。
{netabare}個人的には夏紀先輩の、一見とっつきにくいけど、実はとっても気のいい的なキャラは大好きです。優子ちゃんは、初めは「いやなヤツ」な印象だったのですが、再オーディション以降は印象がすごくよくなった。犬猿の仲と言われている夏紀と優子が、実は連れ立って祭に行くほど仲がよかったのにもうなずけますね。
逆に、麗奈の青臭いつっぱった性格や、なに考えてんだかわからんあすか先輩は個人的には苦手かな。
久美子は失言系キャラという主人公らしくない性格ですが、ちょっと冷めてて、どっかにいそうな自然な感じはいい。声優さんの黒沢ともよさん、はまり役かな。彼女の演技が作品の雰囲気を決めていましたね。{/netabare}

この作品は実に不思議な作品です。よくよく考えればストーリー的にはとりたてて特別な事件や、サプライズな展開があるワケでもなく、特別に個性的なキャラが出てくることもありません。どこの吹奏楽部や他の部活でもありそうな、普通の出来事が淡々と描かれているだけです。
なのに、見終わった後の充足感はどうしてこんなに高いのでしょうか?

それは、視聴者に「かつて高校生だった頃を思い出させてくれる」というレベルを超越して「高校生の吹奏楽部の部活生活を疑似体験させてくれる」からなのではないでしょうか。

登場するキャラの顔は京アニ独特の萌えキャラの外見ですが、それ以外は動きを含めてたいへんリアルに描かれています。背景はもちろん、その場の空気感、雰囲気を描き出すことに注力されています。留め絵と思われる場面も良く見ると動いていたりする。
そして、物語の中で起こる出来事はどれも現実で起こりそうなものばかり。そういうことの積み重ねによって、濃密な臨場感を表現できているのだと思います。

高校生の時間はすべてが青春。その高校生の青春部活を疑似的に体験させてくれる。この作品はそういう作品になっていると思います。空気感を描くこと、リアルに描くことは、そのために必要だったのではないでしょうか。

投稿 : 2015/07/12
閲覧 : 460
サンキュー:

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