みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
悪くはない。
悪くはない……悪くはないのだ…が…
うーん、なんだろう、この消化不良な感じは。
『攻殻機動隊』シリーズというのは、原作の士郎正宗からして、設定を盛りすぎて意味不明なところがちょいちょいあり、そこにある種の衒学的な魅力があって良い、という作品だという伝統があります。そこのところは本作も引き継いていで「ドミネーション」とか攻殻シリーズのなかでも新しい謎概念が登場するわ、いろいろな新設定が登場するわでわちゃわちゃとしている、という感じで、そこのところは確かに「ああ、攻殻だなぁ」という安定した感触があります。
そこんところは確かにしっかりと「攻殻」なんです。
しかし…!…しかし…、だ!
わたしはSFオタではないが、老害SFオタが言いそうなことを言いますが、なんかね、なんか、SF的な新しいコアアイデアみたいなものが、ARISEから新劇場版に至る一連のシリーズにはないんですわ。
過去の作品をざっくり振り返ってみると、
Ghost in the shellであれば、「ゴーストののっとり」「ニセの記憶」の話にきちんと焦点をあてて一発かっこいいのを作ってくれたというのがありますし、
SACであれば、ARやら、電脳系の話と薬害エイズ的な社会制度問題が関わりうるであろう未来像をみせてくれたり、視覚の自明性にかかわる話も出てくる
2nd GIGは、攻殻的な世界での新しい「政治」的権力のあり方にかかわる議論やらなんやらを見せてくれたということがありました。
で、劇場版のsolid state societyは、老人のような社会的に主流からはずれてしまった人々が、いかに社会不安となりうるか、そしてこのような不安となりうることが、老人に限らず、社会的に「低階層」の人々の問題が既存の社会的構成とは違った形で出現してくるであろうことをうまくみせてくれたと思います。
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で、ARISE。
ARISEというか、冲方脚本の一連の作品。
うーん…。
501部隊との対決が、バトルシーン上の魅力にはなるわけですが、まあ、バトルシーンはいいっすよ。よくできてますよ。
あと、まあ全体にちゃんと攻殻の伝統的なネタはいろいろと入ってるし、そこんところはいいんすよ。
ただ、なんつーか、「So what?」「え、で、だから何なの?」みたいな気分。
個人的には、クルツ中佐の「ヒトとして扱われるのか、ものとして扱われるのか」みたいな議論というのをもっと象徴的に描いてくれる風景みたいなものを、ゴリゴリとつくってくれるとよかったのだけれども、ゴーストハックとか、擬似記憶の話とかすでに、描かれてきた問題があらためてピックアップされているのみ、という感じで「おお、なるほど、確かにその問題はアツい!」みたいのが、好意的に観てもいまひとつ汲み取りにくいという感触。
一言で言うと、「じぶんが求めているものが今ひとつ入ってなくて不満です」ということなんだけど、どうしてこうなった、みたいな感じ。
わたしにとっての攻殻シリーズと、今回のシリーズの制作チームにとっての攻殻シリーズというもののそもそもが、別のものだということなのかもしれませんし、そこにはそこでいろんなこだわりも感じないわけではないので、よくもわるくもオトナコメントをすれば、「ま、これはこれでいいんじゃないですかね」という言い方はいくらでもできるんですよ。ほんと。でも、ね、わたしはどうかというと、この方向性で行くと、今後、このシリーズを見なくなっていくと思われます。
これじゃただの衒学的ハードボイルドSFにすぎない、という印象になっちゃう。
それはそれで楽しいという人もたくさんいるだろうから、別に全否定はしないですよ、ええ、もちろん。
でもなあ、これじゃ、わたしには、つまんない。
もちろん、制作陣の努力は感じなくはないんだけど、何一つわたしにとって新しさを感じる描写はなかった、という、不満はそこに尽きます。
なんとか、もうちょっと、新しいネタをボーンと放り込んでほしかった。ほんと。いろいろ放り込もうと思えばあるでしょう、と。
いやー、もうすこしなんとかがんばってくれ、ほんと。