yuugetu さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
良く出来たエンターテインメント作品
2010年OVA作品。全3話
スーパーロボット大戦で誕生した「マジンカイザー」からさらに派生した作品です。
【あらすじ】
遠い未来、世界的な大戦によって荒廃した世界。
重力炉崩壊を阻止するため、WSO(国連みたいな組織)から重力炉のある奇械島へ派遣されるSKL(正式名称は出ず、主にカイザーとしか呼ばれませんが)
奇械島では長く八稜郭軍、キバ軍、ガラン軍の三つ巴の戦いが続いており、そこにカイザーのパイロットである海動と真上、そして重力炉停止の役目を負った技官・由木が飛び込み、物語が動き始めます。
{netabare}
とにかくバトルの熱さと、キャラクターの個性を楽しむのが第一なアニメです。
メインパイロットの交代により、荒っぽい格闘と華麗なガンカタを行うのが見所で、新しい印象のマジンカイザーとなっています。
甲児君主人公のいつものマジンガー作品を知っている人は少し驚くかもしれません。
基本的には永井作品らしくバイオレンス(監督曰く「R指定にならない程度にはやっちゃおう」)やロボットアクションが好きな人、細けえこたあいいんだよ!という人向けです。
戦闘シーンの構図やカメラワークも良く、特にロボットの魅せ方には長くダイナミック作品を手掛けてきた川越淳監督やスタッフの実力を感じます。
OPの演出やカット割にも工夫がこらされ、OPだけでも見る価値があります。
第一話ではカイザーの無双、第二話では精神的に追い詰められた敗北、第三話で武装解禁したカイザーが命がけで重力炉を停止。
その中で海動と真上、そして由木はチームとしてお互いに信頼を増して行きます。
ストーリー的にはこの二つが柱としてあり、キャラクター描写も含めて展開します。
私はキャラクターとOPを最初に好きになりましたが、簡潔なストーリーながら全三話(正味一時間半弱)で無理なく展開していくのが一番いい所だと思います。
ただ、尺の短さとバトルシーン重視のために視覚的な情報が詰め込み気味で、息つく所もあまりないため、一度で全体像を掴みにくい印象です。
敵も味方も戦闘するキャラクターは暴力的で、バイオレンスな世界観でもあり、視聴者の想像に任されている部分もかなりあるため人を選ぶと思います。
キャラクターはわかりやすい性格が多いですが同時に二面性も感じられるように描かれていて、薄っぺらくならないバランスの良さがあります。
どのキャラクターも感情と行動が先にあり、セリフは少なく、「生きている」という印象を与えます。
配役もキャラクターの魅力を広げています。
例えばヒロインの由木は、若く経験不足ながら優秀で度胸のある女性軍人で、早見沙織さんの声質と溌剌とした演技がとてもよく合っていました。
キャラクターデザインには永井先生の絵柄の面影はありません。デザイン画だけ見ると線が細く淡白な印象も受けるのですが、動くとパワフルで泥臭く血生臭く、ダイナミック作品の空気は健在です。
個人的に面白いと感じたのは、OP曲にメタルで有名なラウドネスを起用したり、SFアクション映画「リベリオン」からガンカタをオマージュしたりと、作品の世界観に合わせ、アニメに縁の薄いものを演出に持ち込んでいること。
アニメとしての表現を逸脱せず、上手なバランスで組み込まれているため、世界観にを持たせることができていると思います。
マジンガーにあまり触れた事のない人には特に良いかもしれません。
こういう勢いがあって難しい要素のないロボットもの、また見たいですね。
{/netabare}
2015年6月22日追記
{netabare}
他の方と比較して星評価が低めだったので、本文と一緒に修正しました。
新しく投稿した「グレネーダー~ほほえみの閃士~」のレビューの最後に、映画「リベリオン」とグレネーダー、SKLを見て思ったことを少し載せました。ガンカタ繋がりですね。
興味があればどうぞ。
{/netabare}
2016年10月6日追記
【ヒロインについて】
大分前のことになりますが、2000年以降のマジンガー関連アニメ作品のファンブック『魔神大戦21』の早川さんの書いた前日譚を読んでいて由木について感じた事があったので。
ネタバレ注意。
{netabare}
状況的に新展開は望み薄ですので書いてしまいますが、ヒロインである由木は女性型パートナーロボットのパイロットというダイナミック作品のお約束を守りながら、現代的な要素を取り入れたキャラクターでもあります。
世界観や設定についてOVAのみで把握する事は出来ないので簡単に説明すると、この世界ではカイザーはじめ一部のロボットは発掘されるもので、昔の大戦によって世界は荒廃し、兵器の開発・管理などの技術体系も失われています。発掘された物品や残された情報から手探りで技術を解明していくしかないため、扱いを間違えると悲惨な状況を招きかねない世界です。
由木は優秀な技術者で、将来的には遺物科学を安全運用していく方法を模索したいと考えており、その人格と技能を買われてカイザーの開発主任に抜擢されました。
由木はカイザーという危険極まりないロボット兵器の整備責任者でもあり、チームで行動するときには海動・真上の手綱を取る司令官でもあり、カイザーのリミッター解除に不可欠な女性型ロボット・ウイングルのパイロットでもあります。
永井豪先生との打ち合わせの際「今のロボットはバックアップがないとだめ」というお話があったそうで、メカの軍事運用や海動・真上のサポート役という意味でも由木の立ち位置は重要です。
こう書くと設定的にかなり盛られている印象もあるのですがw
海動・真上という強烈なキャラクターに振り回されつつも、この二人に一目置かれ、なんとか言うことを聞いてもらえるバランスで上手く調整してあります。
現代的なキャリアウーマンの要素も少し入ってるかも。
恋愛要素なし・戦闘面で強者という要素もなしで、世界観に合わせて女性キャラクターに大きな役割を持たせられていることに感心させられました。
余談ですが、由木にはデビルマンの美樹の要素も少し入っています。
由木は技能と理想で作品のテーマの一つを担い、美樹は存在そのものが作品の結末を決めるキーパーソン。そういう対比も面白いですね。{/netabare}
【さらに追記】
たまに見直したりしてるのですが、思う所が多いので追記。
{netabare}
マジンカイザーSKL、すべての要素が好きだけど一番は男性と女性の役割がはっきり世界観とテーマにリンクしている点。
あと、関連書籍『魔神大戦21』のカラー口絵のせいでカイザーとサポート役のウイングルが夫婦に見えてくるというか…(苦笑)
この作品は一貫して女性キャラが未来のビジョンを示して、男性キャラが今目の前にある戦場を切り開く構造になっている。
キバは女性を征服するしか考えておらず、未来は無い。ガランはヒミコを信頼し共に歩む未来を思い描いていたけど、深い愛情が足枷になってしまった。
SKLは由木、海動、真上の3人がチームになる話とオーコメで語られたが、信頼関係と上下関係がどちらも重要で、彼らは感情と理性が上手く噛み合っている。
OVA、漫画版、魔神大戦21のプレ小説にしか触れていないので解釈間違ってるかもしれないけど、由木がより良い未来への道を探す、真上が過去を捨てずに自己を確立する、何も背負わない海動が現在の困難を切り開く役割を背負ってると感じる。
この3人の関係性は三竦み。真上は由木に恐れられている。海動は由木に強く出られない。海動は暴走した真上を唯一止められる。
未来を目指す上で過去を軽んじることは出来ない。現在は未来のためにある。過去に引きずられないためには現在を全力で生きる必要がある。
チーム内の役割と世界観に対する役割がぴったりハマる。
ガランの死に際がスパロボでは改変されてしまって心底残念だったんだけど、エルプズュンデとしての在り方より人間としての情愛が勝ったのがとても好き。ガランは背負わされた運命を脱却して人として死んだのだと思う。
真上は人としてまだガランと同じ場所には立てていない。だけど、3人のチームが完成したことでその道筋が示されたと感じる。真上にとってはとても希望のあるラストなのでは。
ロボットもすごく好き。デザインもバトルも大好きだけど、ストーリー展開に合わせて新しいバトルスタイルを順次見せていくの、元ネタの「リベリオン」も彷彿とさせる。物語の進展、キャラ心理の変化、対等に戦える強敵の登場など、展開が進み状況が変化すると新しい戦闘を見せてくれる。
こういうことは色んな作品でやっていることなんだけれど、SKLの場合ウイングルの存在が独特で光る。
由木がウイングルを起動したと聞いて海動と真上は驚く。ウイングル起動と上官への啖呵は彼女の変化の証で、2人に対等と認めさせた大きな要因。加えてウイングクロスは由木の許可と決断がなければ実現出来ない。
つまり男達が全力で戦えるかどうかは、女性の意志と裁量に委ねられている。
ウイングルは由木の変遷とチームの成立を表すギミックでもあり、カイザーのリミッター解除に不可欠なキーであり、男達が方向性を間違えないためのストッパー。
だから、実はこの作品は女性を立たせた作品だと思っている。
作画好き。キャラやロボットのデザインも好きだし動きも好きだし背景美術も好き。
女性の作画も綺麗。お色気よりも生命力や神秘性を感じることが多くて、変に狙ってなくてとても良い。ちょっと際どい画もあるのに嫌らしくない。女性みんな綺麗。
音楽も好き。ラウドネスのOPと第1話の挿入歌(OPのカップリング)好き。戦闘シーンでほぼフルで流してたような…。相当挑戦的では。
演出も好き。グロのはずなのに人死にが演出のお陰でわりとサバサバしてるというか、生理的な不快感がそれほど無い。
インタビュー読んだら監督が「バイオレンスやろう。15Rにならない程度にはやっちゃおう」みたいなこと言ってて、15Rにしないんだ!?って逆に驚いた記憶が(笑)。私はエログロが苦手なのでありがたい。
グロやる時にロボ戦を活用してくれるのも好き。オイルを血、配線を臓物に見立てるのはお約束だけど、そうしてバイオレンス要素を強化すれば人間をグロくて無惨な死に方させなくても視聴者の欲求をある程度満たせる。
よく出来たエンターテイメントだと思う。
{/netabare}
(2021.7.31)