ダリア さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
考察
ボンズのさり気なく良い作画に世界観が良くマッチしてます。
特に世界観の確信に一番迫っているのが19,20話の「あさき夢見し、酔いもせず...」。
中々ヘビーなストーリーも多い本作でも一、二を争う程救いの無い脚本であると同時に、
岡村監督のよく練られた全体構成の一端が相見える回でした。
ここから本編のネタバレがあります!直接的なネタバレを多く含む考察なので注意。
{netabare}
「分かるかい?契約者と人間の違い」
「契約者には心が無い」
「......本当にそうだったかい?」
「契約者には罪の意識がない」
「契約者であろうがなかろうが、罪を犯す者は犯す」
「能力の有る無し、それは明らかに違う」
「それはオマケみたいなモンさ。能力なんかなくても、銃や刀があれば人の命を奪う事は出来る」
「人間と契約者の一番の違いはその精神構造。いわゆる合理的判断って奴だ」
「人間の社会では感情や常識に囚われず、利益だけを求められる奴が成功するように出来てるだろう?」
「契約者ってのは案外、そのシステムを勝ち抜く進化の形かもしれないよ」
20話での黒とアルマの会話です。契約者とは特殊な能力と引き換えに、ある種の脅迫観念のようなもの、対価を払う事を強いられるほか、進行が進めば倫理観、人間らしい感情の欠如といったような症状に見舞われ、良心の呵責に駆られる事も無くなり、いずれ最後に残るのは自らの損得勘定のみを優先する合理的判断のみ、と作中何度も説明されます。
人の形をしただけの哀れな殺人マシーンと化す、と。
しかし本当にそうでしょうか。
もうどんな視聴者でも気付いている筈です。
上記の会話に至るまで、20話分の黒の行動の先に現れ、立ち塞がってきた契約者達は皆、感情を持っているかのように怒り、僻み、泣いて、また何かに対しての執着心が強ければ
多少合理的でなくともそれに固執する傾向も見られました。
契約者でありながら人並みの心を宿すに至った登場人物達は、基本的に例外と明記されない限り他者から人間扱いされています。銀は黒に、ハヴォックは引き取り先の家族に、売られかけたドールは中澤組の桜井に、といった具合で。
受動霊媒のドールである銀と桜井のドールは特に分かりやすく心が芽生えていましたね。
元々ドールも契約者と同じく感情の起伏に欠け反応が薄いだけで心が無いわけではないそう。
個人的に好きだったのはノーベンバーイレブン。敵だった黒に影響されて、騙していた上司を始末します。
契約者なのに、全く合理的な判断でない行動。
彼は最期の瞬間、『対価』を放棄し、契約者の炎を消して人間として生涯を終えました。
エイプリルの敵討ちにマキを自らの手で殺める事に拘る帰属意識の高さ、
死の瞬間まで誇り高く在ったノーベンバーイレブン、恰好良すぎです。
あと、17、18話の「掃きだめでラブソングを歌う...」が好きです。
上の命令に反逆してでも、大切な何かを守ろうとする桜井を助ける立ち位置を選択する事によって将来的に「組織への反逆」を迷わず選択する事を示唆している、というかそういう運びになった時生きてくる展開ですし、そうでなくとも守る為行動する桜井、守れなかった一橋、行動できない黒の
対比と及ぼす影響が美しい脚本でした。
最終的に桜井もドールも無事なのがまたニクい。
人間の心とは外的要因によって大きく変化します。生まれ持っての善人など存在せず親の、保護者の背中を見て育っていきます。それは契約者とて同じ事でしょう。
対価とは、能力と引き換えに見失ってしまった人間性を取り戻す行為、だそうです。
作品の性質故多くは語られませんが、何かのきっかけで『契約者』となり
銀→キルシー のように感情を失ったように見えても、それは『少しの間見失ってしまった』だけで、外的環境によってまた心を宿す事は出来るという事でしょう。
怒涛の勢いで全ての思惑がゲートへと収束していくクライマックス。猫と黄がああもあっさりと退場してしまったのは惜しいばかり。後半の黒、銀、猫、黄はお互いの事を理解しあい信用して本当の意味でチームになっていたので、その時間を少しでも長く見ていたかった。
ラスト、黒が選んだのはゲートを再び張り不可侵領域を構築する『契約者』側の選択肢でも、パンドラの反粒子砲によって契約者を根絶やしにする『人間』側の選択肢でもない、第三の選択肢、『契約者と人間の共存』でした。
李舜生という優しい人間的な側面、黒という合理的な契約者の側面、この二つの仮面で隠し続けてきた本来の彼の選択を、死んでいった仲間達は、白は促します。
桐原美咲の呼びかけに対して、
「李という男はもういない」
もう彼は李舜生でもBK201でもない、只人間と契約者との共存を臨む優しき兄なのです。
{/netabare}
さて、このDTB、契約者やらドールやらそういった特殊な人間の謎と本質を仄めかすような描写が多く、皮肉にも人間らしくないと説明されている契約者達の情緒溢れる人間ドラマが魅力的ですが、黒達の属している『組織』の全貌や契約者を生み出した地獄門について、つまり人間周りの世界観の
根幹は断片的にしか語られないんですよね。言わば不透明な世界観がDTBの世界観というか。
多くを語らず視聴者に判断を委ねる雰囲気もまた魅力でした。もうすっかり
岡村天斎監督の織りなす世界観の虜です。