セレナーデ さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
人のアルバムにケチ付けるなんて野暮なことできるわけない
いい映画でした。淡々とした語り口が、いいですね。ちょっと卑怯ですらあります。
事の詳細は掘り下げず、尚且つ「その時登場人物は何を思っていたか」という内面の描写すらもとことん放棄。その結果、雨や雪の心の機微はまともに描かれてないし、花の子育ての苦労も通り一遍にしか触れられていません。そればかりか、父親の死んだ原因も、花とご近所さんが親睦を深めた過程も、兄弟げんかの後の仲直りの場面も、「おみやげみっつたこみっつ」が雪にとってどれだけ支えだったかも、さっぱり描かれちゃいません。
だけど、その代わり「その時どのようなことがあったか」という表面だけは残る。『おおかみこどもの雨と雪』がやってるのは、その表面の出来事を、ただ並べて見せているだけ。
そのスタイルが、まるで「思い出」を綴っているように感じられて、いいんですな。雪原の中を走り回って遊んだこと、兄弟げんかで家の中がめちゃくちゃに荒れたこと、雪が誤って乾燥剤を口にしたこと、「おみやげみっつたこみっつ」というおまじないを教わったこと、そして、父親が死んだこと。下手に掘り下げや脚色はせずに、花たちが過ごしてきた日常を、ただ見せるだけ。余計な感情を込めない語り口で紡がれていたからこそ、何でもないような風景の数々が、花たちにとっての貴重な時間として輝いていたように映りました。
だから一方で、卑怯な作品だなとも思います。人のアルバムにケチ付けるなんて野暮なこと、できるわけないもんな。
それに、さっきまでナヨナヨな大学生だった花が、いつの間にか我が子の未来を案じる母の貫禄を身にまとっていたことにも、ハッとさせられましたですよ。「時間の流れってあっという間だよね」というあの感覚を、第三者の視点でもいつの間にか疑似体験させられていたのだな、と。過ぎていった時間が一層尊く感じます。
脚本は隙だらけ。それでも、このストーリーと演出は、沁みました。何気なく描き出されていたひとつひとつのシーンに「貴重なひととき」という言葉が浮かんできたこと。それが、私にとっての、なによりの収穫です。
ただ序盤のナレーション進行は余計かな。見りゃ分かることをナレーションしても表現として二度手間でしょうに。