takarock さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
2つの勇気
いわゆる「業界もの」というのは、特段珍しいジャンルではなく、
漫画なら、漫画家や出版社の舞台裏を描くという作品だったり、
TVドラマなら、TV関係の仕事に携わる人たちにスポットを当てた作品というのは
数多く存在します。
それに比べて「アニメを作る側を描いたアニメ」というのは非常に珍しいですね。
何故今までこういうアニメがなかったのか?(あるいは少ないのか?)
それだけ難しい題材なんだと思います。
主人公の宮森あおいの肩書は制作進行、後に制作デスクに抜擢されますが、
その主な仕事内容は、スケジュール管理や原画回収、その他雑用諸々と、
絵的にかなり地味な仕事です。
これはアニメーターでも、作画監督でも同じことが言えると思います。
さらに、アニメ制作は、多くの人が関わってくる為に
焦点を絞りにくいということもあります。
つまり、アニメを作る側を舞台にしても非常に話が作りにくいということなのでしょう。
アニメ業界という括りで言えば、
今や花形職業である声優ならばまだ、アイドルアニメのような形で、
話が作りやすいのかもしれませんね。
そして、極めて特殊な業界なので、
一般視聴者には馴染みのない業界用語が大きな壁となります。
医療を取り扱った作品だったら、用語はよく分からないけど
「手術をしている」とか「かなり危険な状態らしい」という、
場面や状況は、何となくでも理解できると思いますが、
アニメ業界の現場で飛び交う専門用語を前にした視聴者は、
「そもそも今何をしていて、何が問題になっているの?」
という状況に陥ってしまうおそれもあるわけです。
こういう難しい題材に対して本作は真っ向から取り組んできました。
なるべく話にメリハリをつけて視聴者を飽きさせないようにと配慮しながらも、
「アニメ制作の現場を伝える」という強い信念をそこには感じます。
専門用語がバンバン飛び交うアニメ制作の現場に、
右も左も分からない視聴者を放り込むというのは、相当勇気のいる決断だと思います。
個人的に現在の視聴者には、
「分からない事があると不満を抱く」「すぐに劇中に説明を求める」
という傾向があると思っているので、より一層この決断はすごいなと思いました。
これが、私が感じた1つ目の勇気です。
「アニメ制作の現場を伝える」というドキュメンタリーに、
物語性を持たせる為には、さらにもう1つ(あるいは複数の)軸が必要だと思いますが、
セオリーで言えば、
例えば、宮森あおいと職場の先輩とのラブ・ストーリーといった「恋愛要素」だったり、
「主人公とライバルの対立関係」というようなことを軸に据えるのですが、
本作はこういう軸を取り入れませんでした。
では、本作がどういう軸を採用したのかというと、
宮森あおいを含めた上山高校アニメーション同好会のメンバーのそれぞれの奮闘記ですね。
同じアニメ業界に身を置くものの、目指している目標はそれぞれ違う。
でも、いつかこの5人で商業アニメを作り出したいという目的も明確に打ち出しています。
また、宮森あおいが、自分が将来どうなりたいのかという葛藤も
物語を紡ぎだす1つの軸になっていると思います。
とは言えですよ、
「恋愛要素」だったり、「主人公とライバルの対立関係」だったりを取り入れた方が、
格段に話を作りやすくなると思いますし、
視聴者受けだってそっちの方が良さそうなものですが、
何故そうしなかったのでしょう?
それは、おそらくこれらの軸はあまりに強すぎるからだと思います。
あくまで主となるべきは、「アニメ制作の現場を伝える」ということなのでしょう。
こういう決断を下したということが、私が感じた2つ目の勇気です。
この2つの勇気というのは、換言すれば、作り手たちの強い信念です。
生半可な覚悟ではこういう作品は作れないでしょう。
そしてそれこそが、本作の凄さなのだと私は思います。
「まだまだSHIROBAKOについて語ろう!」
{netabare}ある雑誌で本作の関係者が、
本作は7割のリアルと3割のエンターテインメント型ユーモアで形成されている
なんてことを語っていました。
本作は、1クール目は『えくそだすっ!』という作品の制作の話ですし、
2クール目は『第三飛行少女隊』という作品の制作の話なのですが、
若干のスタッフの入れ替わりやそこに立ち塞がる問題は違えど、
基本的にやっていることは同じなんですよね。
もっと工夫の施しようがあったのかもしれませんけど、
仕事というのはそういうものなのだと思います。
ゴールだと思ったら、それは同時に次のスタートでもあり、
仕事内容も劇的に変化するわけでもありません。
例えるなら有り体ですけど、ゴールの見えないマラソンですかね。
どの地点かによって見える景色や苦しさというのは異なっていても、
その動作はほとんど変わることはなく、
飛ぶでもなく、泳ぐでもない、走るなんですよね。
そういう所も含めての(7割の)リアルということなのかもしれませんね。
それでは、(3割の)エンターテインメント型ユーモアとは何かと言えば、
真っ先に思い浮かぶのは、ミムジーとロジーの人形劇だと思いますけど、
劇中の監督、木下誠一もそういう存在だったと思っています。
「水島努監督の自虐ネタじゃない?」なんて思わせるようなことを言ったりと、
本作の監督である水島努監督を彷彿とさせる木下誠一なのですが、
真面目に描けそうな交渉シーンでもコミカルな存在として描かれていましたね。
なんでこういうコミカルなキャラにしたのかというと、
「自分のことなんて語るのは恥ずかしいよ~」という
水島努監督のある種の照れ隠しなのかなと思ったり思わなかったりw
そして、本作で私が一番萌えたキャラでしたw(ざわ・・ざわ・・)
最後に、私は本作をお気に入りの棚に加えました。
感動もしましたし、素晴らしい作品だったと思いますが、
ストーリー厨の私がそこまでのカタルシスを感じたのかという点に関しては、
何の躊躇いもなく首を縦に振ることはできません。
ですが、本作を作り上げた作り手たちのマグマの如き熱き信念を感じましたし、
何よりアニメ好きの方ならば、本作は是非観て頂きたい作品だと思ったので、
本作をお気に入りの棚に追加しました。 これは正直どうでもいい話でしたねw{/netabare}