退会済のユーザー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「だから——もう会わないって約束した方がいいんだ」
空の境界シリーズとは言わず、数あるアニメの中でも大好きな作品。
シリーズの主人公は紛れもなく式とコクトー君だが、この「矛盾螺旋」では臙条巴(えんじょうともえ)という少年が主人公。だいたい彼の視点で物語が進み、彼が作中で出会う式とコクトーは彼をサポートするような役回りを与えられている。その臙条巴が、素晴らしくイイ。
父親が仕事で失敗して酒浸りになり、母親がノイローゼになっていく家庭崩壊の真っ只中。その中で、半分グレながらもアルバイトで家計を支えている巴。
唯一「楽しい」と感じられる「走る」ことも、前述の理由から学校をやめたことで疎遠になってしまっている。そんな家庭の行き着く先は、こんな色調の暗いアニメでなくともお分かりかと思うが、とにかく悲劇から物語は始まる。
{netabare}そんな主人公扱いの彼は、クライマックスに向かう最後の一石を投じた後、キレイさっぱり物語から退場してしまう。だが、退場に至るまでの彼の苦悩・思考・行動には本当にホレボレ。式への淡い恋心と、そのあとのコクトー君との最後のやり取り。そして真実を知ってなお家族のため、絶対的な存在であるアラヤに一矢報いる様などは泣きそうになるほど切なくて清々しい。
未熟でハンパ者であるからこそ足掻いてもがいて一生懸命に走ろうとする、奈須作品には珍しい(?)「人間」っぽい少年の生き様がすごいパワーをもって、観る側に生きる力を訴えかけてくる。
・・・その辺りは原作小説の細かい心理描写もぜひぜひ読んでいただきたいのだが、アニメでもだいぶ見応えがある造りにはなっている。{/netabare}
「無価値」と侮蔑された彼が不器用に駆け抜けた軌跡の先に待つ決定的な結末。
途方もなく美しい話だと僕は思う。