sekimayori さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
♪どんなに困難で くじけそうでも 信じることさ 【74点】
百年戦争後期を舞台に、戦争とキリスト教会にケンカを売った魔女(で処女)マリアの姿を描く中世ファンタジー。
漫画原作ながら、内容はかなり改変されてる様子。
微笑ましいラブストーリー+下ネタと「登場人物の正義の対立」を主軸とした、谷口監督らしいエンタメでした。
私としては、相当時代考証に力入れたと思われる戦闘・中世風俗描写の数々がツボでして。
お守りや軍旗の意匠のホタテガイ、戦闘中でも略奪を優先する傭兵団と娼婦団、画にするとシュールな動物裁判、お約束の同性愛etcと、中世感満載。
大砲打つときに防塵ゴーグルかけるとか、長弓射る時はグルンと体捻るとか、芸が細かい。
公式サイトの知識集「なぜなに中世事情」でアフターケアも充実。
6世紀前に実在した人々の営みを気負いも衒いもなく活写しようとしているようで、高校世界史の講義で感じた楽しさを思い出してました。
とか言いつつも、一番声高に主張したいのは、エドウィナのネコちゃん死ぬほどかわいいってこと。
小澤亜李さんの時代来てるぜこれ。
■マリアの結論についてとか、ネタバレ感想
{netabare}
最初で下ネタラブストーリーと「正義の対立」と書きましたが、後者は「価値判断」の問題と言った方がより正確かも。
その中でもさらに二つの軸があって、
①「他者の幸福と自分の幸福のどちらを選ぶか」、つまり処女のまま他者のため争いを止め続けるか、ジョセフとくっついて普通の女の子に戻るか。
②「力あるものは人の世に『正義』をなすべきか」=魔女や教会の、人の営みへの介入の是非。
マリアの「誰も死なせたくない」はかなり博愛主義的な考え方で、中世世界の描き方が務めてフラット・冷静だったがゆえに、その近代的な思考には大きな異物感がありました。
戦争やペスト禍の時代における「生」の酷薄さ、「命」の軽さを見てきたゆえの考えだと示唆されていたとは思いますが、迫害される彼女の身上とのバランスから考えても、理念先行な色彩がかなり強い。
最終話でマリアの至った結論は、「一人一人が自分の幸せを見つければ、みんな幸せになる」。
要は①は二者択一でなく、表裏一体の関係だということ。
理念だけの博愛主義から、自らが受け取った愛の実践的敷衍としての博愛主義への変遷、ということになるのかな。
もっと単純化して、「♪必ず最後に愛は勝つ」(←古っ)みたいな愛の賛歌、と受け取っても良いのかも。
原作通りらしいとはいえ、『プラネテス』や『リヴァイアス』も併せて見るに、谷口監督はかなりのロマンチストなのかもしれません。
ということで、博愛に満ちた壮大なラブストーリーは清々しく纏まったのですが、(完全に個人的な)不満もほんのちょっと……。
上で「実践的敷衍」とか書いたけど、愛を知った後のマリアの博愛主義はどのように「実践」されるのでしょう?
百年戦争の意義として真っ先に習うのが、争い・荒廃の中での王権の伸長と教皇権の衰微。
この後欧州世界は、封建制や教皇権の優位といった「中世」のくびきを離れ、(王権神授説の下ではあれど)人による統治の時代へと入っていく。
キリスト教内でも、(ジルベールほど極端じゃないけど)ローマ=カトリックとは異なる道で人民を救おうとする運動が出てきて、宗教戦争とかプロテスタントの萌芽へと繋がる、そんな時期。
そうした「人」の世界の始まりにあって、処女でなくなった(であろう)マリアは何を思いどう行動するのか。
魔女ではなく、ただの無力な「人」として、どうやって他者への愛を広げてゆくのか。
欲を言えば、それが観たかった。
そこを描いてこそ、②の問いを立てた意義があったように思えます。
どうせ原作大幅に改変してるんだし。
まぁ、処女の「初彼できてテンション上がっちゃった!愛ってサイコー♡」っていう微笑ましい愛の礼賛からするとそんなの些事なんだけどさ(・ω・)
好きなキャラはジルベール。
人を救うことに関して、あくまでも教会という上位構造から何ができるかに最後まで拘っていましたね(視野狭窄とも言えるけど)。
最後、デカルトっぽく理性主義の端緒まで行っちゃったのも、マリアの博愛主義との良い対比になっていました。
wikiったところ、彼の到達点は「理神論」というものに近いみたい。
ついでにキリスト教には「地の塩(、世の光)」という言葉もあるらしいね。
あと、ル・メ伯がジョセフに対して良い保護者で、あのカップルは周囲に恵まれてるなぁと。
最後も「時々遊びに来い」とか言って嫁を許しちゃうのが微笑ましかった。
{/netabare}
【個人的指標】 74点
(2015.4.14)