蒼い✨️ さんの感想・評価
3.5
物語 : 3.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
パルス人無双伝説。
アニメーション制作:ライデンフィルム/サンジゲン
2015年4月5日 - 9月27日に放映された全25話のTVアニメ。
原作は、1986年が最初の田中芳樹によるファンタジー戦記小説を元に、
漫画家の荒川弘によってアレンジされて『別冊少年マガジン』にて連載中の漫画作品。
かつての版元である角川書店版のアニメとは趣が異なった、現代版『アルスラーン戦記』と言えます。
監督は、阿部記之。
【概要/あらすじ】
中世の時代、大陸の中央に鎮座する大国があった。
パルス王国。人口2000万人。王都エクバターナは人口100万人を称す。
私達の世界で言うイランに位置し人種の異なる諸国に囲まれていてる。
内海など地形の関係で、交易路である大陸公路(シルクロードがモデル)はパルスを通過しなければならない。
なので、大陸の東西が交わる地として貿易で莫大な利益を上げ、
学問や芸術といった文化的にも最先進国の一角である。
(ビザンツ帝国やヴェネツィア共和国の栄華のイメージに近い)
最強の武名高き大王アンドラゴラス三世に率いられた12万人の最強の騎兵隊で戦争では連戦連勝。
その繁栄は周辺諸国が羨むほどであった。
パルスの周辺には、
トゥラーン|北東|モデルがモンゴルの遊牧騎馬民族。だが、チンギスやオゴタイのような指導者がいない。
チュルク|東|モデルはトルコ系民族。ウイグルをイメージするのが順当?
シンドゥラ|南東|モデルはインド。戦象部隊がある。
マルヤム|北西|モデルのビザンツ帝国と違って、経済的文化的発展といった設定がパルスに全部吸われた弱小国。
ミスル|西|エジプトがモデルだが、サラディンやバイバルスみたいな英雄が治めているわけはない。
他には、
隣国を挟んでパルスより遥か東には絹の国(セリカ)
中国好きの作者が美化した理想の中国王朝。
万世一系の皇室が治め、首都はパルスの倍の200万人。
人材の質が高く政治的にも文化的にも多分、世界最高。
ミスルの南には黒人の国ナバタイ。
そして、マルヤムの西には、唯一神イアルダボートを信仰するルシタニア。
パルス基準では文化を理解しない貧しき無教養の蛮族。モデルは西欧諸国。
ウラジミールやキエフの名を冠したロシア民族国家は、この世界では存在しない。
さて、この物語の主人公は至強のパルス王国の王太子アルスラーン。
マルヤムを滅ぼしてパルス暦320年にパルス王国に攻め込んできたルシタニアとの第一次アトロパテネ会戦。
パルス軍は様ざまな要因が重なって壊滅し敗残の徒となり、国王アンドラゴラス三世は行方不明。
王都エクバターナはルシタニア軍に占領される憂き目となった。
そして、異教徒の弾圧を善行と信じ唯一の神以外を認めないルシタニア人の残虐非道さは、
略奪行為にとどまらずパルスの民衆に対する大量虐殺にまで及び、目に余るものがあった。
戦場から逃れたアルスラーン王子は、
ダリューンやナルサスを筆頭に知勇に優れた部下たちに支えられ再起を図っていく。
目標はルシタニア軍をパルス王国から追い出して政権をパルス人の手に取り戻すこと。
そして、アルスラーンはパルス王国の制度を悪しき因習と考え改革したいと考えている。
これは、後世の歴史書に名を残す、“解放王”アルスラーンの英雄叙事詩である。
【感想】
一応、原作小説は第9巻「旌旗流転」まで買いましたが一向に続きが出ないので古本屋に全部売りましたね。
近年、完結させる気になり15巻まで刊行して残り1冊になりましたけどね。
第7巻「王都奪還」までは好意的な評価をする人が多かったものの、
第8巻「仮面兵団」からは微妙扱いされてるこの小説。
重要キャラがあっさり死ぬ。
その事自体が問題ではなく、
え?この女性キャラ。重要な役回りなのかな?と思わせておいて、あんまり出番が無くヒロインにもなれずに終了。
えええ?物語の都合で死ぬにしても、この人に今までとは別人のようにマヌケな行動をとらせて死地に追い込むの?
と、死に方で結構非難されていますね。
2度アニメ化された大ヒット漫画『鋼の錬金術師』の作者・荒川弘によって現代に蘇ったわけですが、
そうそうに原作漫画の展開をアニメが追い抜いてしまって、漫画ベースと言いながらも先に先に進んでしまい、
そのうえで原作コミックとアニメの間に若干の展開の差が起こるという奇妙なことに。
お話の着想としては、
1982年から1984年までにNHKでテレビ放送された『人形劇三国志』の影響で、
豪傑や知将たちによる群像劇を筆者が描きたかったのが第一。
作品舞台の設定は、1985年に発売された光栄の歴史SLG、
[PC-88]『蒼き狼と白き牝鹿』の影響があったのでしょうか?
(チンギス・ハーンが主役でモンゴル帝国の世界征服がプレイヤーの目的という内容)
パルス王国はモンゴル並の武力+ビザンツの富と文化+エルサレム的な立場を兼ね備えていて、
どんだけチート国家なんですかね?って感じ。
パルス王国とルシタニア軍の争いは、キリスト教徒の十字軍とイスラム国家のジハードがモデル。
トゥラーンはユーラシア大陸に世界帝国を築いたモンゴル帝国の劣化版。
お話としては光栄の三国志やジンギスカン的なものを現代でいうイランに位置する王国を舞台にした英雄譚ですね。
キャラは、
アルスラーン = 演義の聖人君子な劉備+美少年
ダリューン = 関羽+黒衣の騎士とかいうイケメン属性
ナルサス = 孔明+剣の腕前も優れている
アンドラゴラス三世 = 項羽
何かに置き換えるとイメージしやすいですね!
世界情勢は12~13世紀の世界史がモデルなのに荒川版のビジュアルだと何か文化や装備が古い。
パルスの民族モデルがササン朝ペルシアでそれを再現しようとしたら時代が古くなってしまった。
十字軍全盛期の中世・鎌倉時代の話かと思えば古代・飛鳥時代だったという。
架空戦記なので気にするところは、そこじゃないのでしょうけどね。
実は原作が元々好きじゃないのですよね。
同じ作者の『銀河英雄伝説』で例えれば、帝国軍にヤン提督がいて作戦立案してる感。
敵がどんな大軍で攻めてきても策を弄してもチート軍師が全部お見通しの無敵な王太子軍。
武勇チート+知略チートがずるいよね。
おかげで敵が軍師ナルサスの手のひらの上で踊らされるピエロでしか無い。
そんなピエロの策謀に嵌められて惨敗した父王がマヌケに見えたりしてね。
父王の常勝の慢心をついて内通者まで作った必勝の策なんですけどね。
ジャンルとしては、戦記・英雄譚なんですけど、主人公にばかり人材が集まりすぎて、
他国の人材の質がそれほどでもないですよね。
なかでも侵略者のルシタニア軍なんか最高司令官の王弟ギスカールのワンマン体制で、
部下のルシタニア人が粗野なのと無能なのしかいない。教会権力は聖職者じゃなくてキチガイですし。
そんな凡将だらけのルシタニア軍に負けた父王もピエロですね。
ルシタニアに協力して策に嵌めてパルス軍を負かせた銀仮面卿もカーラーンもパルス人。
この作品の武勇トップ3はパルス人。絶対無敵最強軍師ナルサスもパルス人。
本当!本当にパルス人が世界最高民族と言わんばかりのストーリーですね。
やっぱり、敵に賢人がいたら主人公たちが勝てなくなるので、
ナルサスが賢い!ていうより、主人公一行の噛ませ犬になる範囲で敵を能力設定をしている感じ。
史実の第3回十字軍なんか、
フリードリヒ1世「赤髭王」(ドイツ王として領土を拡大した神聖ローマ皇帝)
リチャード1世「獅子心王」(Fate/strange Fakeで英霊化した戦狂いのイギリス王)
フィリップ2世「尊厳王」(イギリスとドイツの連合軍を撃破した知将でフランス最初の偉大な王)
モンフェラート侯コンラート1世 (エルサレム王即位直前に暗殺された十字軍の英雄)
とタレント揃いだってのに、ルシタニア軍はギスカールは優秀だがパルスの万騎長レベルの将が一人もいない人材難。
主人公サイドを賢く見せるために敵を低能にするのは仮想戦記ジャンルの永遠の問題なのでしょうか?
他にも、主人公が中世の専制君主の王族でありながら、自由と平等の精神に溢れてるってのがスゴイですよね。
作者の戦後日本の価値観で戦記物を書いたら、そうなるんでしょうかね。
「中世で最も進歩的な君主」「王座上の最初の近代人」として名高い、
神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世(1世の孫)ですら、
“自由”“平等”“人権”という価値観を知らなかったと言うのに、アルスラーン王子の思想が新しすぎ!
多分、こういう作品を読むより史実世界史の中世の時代の様々な人物のエピソードを漁ったほうが、
面白いのではないか?と思ったりしています。
例えばイギリス王のリチャード1世なんか、
アーサー王の伝説マニアで自分の愛剣にエクスカリバーと名付けちゃう天然の中二病。
戦争をするためなら、自国の首都のロンドンを売ってもかまわないと公言するほど危ない酷い王様だったり、
架空戦記の人物より個性的だったりしています。
荒川版の漫画・アニメですけど、キャラ改変がスゴイですね。
原作の序盤の3年前の第1話。アルスラーン王子・11歳から始まるのですが、
主人公がポカーンと口を開けたお人好し。
老将軍に剣の稽古をつけられているのに、
同年代の子供である敵国の兵士に無抵抗に誘拐される惰弱っぷり。
少年たちからは頼りないと見下され、洗濯してた奴隷からはアホ王子と罵られる。
あげくに誘拐犯の子供兵士に対して「奴隷になれば食うのに困らないぞ」と原作の王子の知性からかけ離れた台詞。
本人曰く、乳母夫婦に養育され王宮の外で生活していた幼少期はイジメられて喧嘩でいつも負けて帰ってきたという。
の…のび太くん?いらない設定が追加ですね。女の子みたいに、か弱い殿下萌えのつもり?
まるで、銀河英雄伝説に出てきたランズベルク伯の方がマシに見えるボンクラ。
原作のアルスラーン王子は、こんな人物ではないです。
庶民やジプシーや異国民と慣れ親しんできた城の外での幼少の経験があるがこそ、
尊貴な立場でありながらも身分意識に囚われない、柔軟かつ聡明な人格が形成されてるのに、
荒川解釈では世間知らずのボンボンがスタート地点とか原作ファンに喧嘩を売っている改悪ですね。
はあ?これは、自分が知ってる『アルスラーン戦記』ではないですね。
中世の王族権威をなんだと思ってるのですかね?
大陸公路の覇者たる超大国を治める怖い怖いアンドラゴラス国王陛下の王太子で未来の王様ですよ?
町内の小金持ちのボンクラ息子がいじめられてるとはワケが違いますね。
平民や奴隷が王子を見下しバカにする = 王室批判 = 良くて牢屋送り、悪くて極刑モノでしょう。
荒川プロットですと身分の差・高貴への畏れ敬いを描けない予感。
日本で例えて考えてみてください、皇族をドヤ顔で見下す不敬な国民だらけのスゴイ国ですね。
荒川弘の作風が登場人物の繊細な部分や王侯貴族の高貴さを描くのに水と油なのですよね。
コミカライズの仕事を持ってきた編集者が節穴。
荒川氏とスタッフが姫殿下と悪ノリし過ぎたのですかね?
“姫若子”→“土佐の出来人”と出世した長宗我部元親が如く、マイナスから始めて英雄王に成長する算段?
原作では城下で暮らし12歳で王宮に戻ったアルスラーン王子。
荒川版では11歳で既に王宮に戻って2年になるために、原作と色々乖離が。
1話目当時に任務で遥か東方の「絹の国」に滞在中のはずのダリューンがパルス王都に居る。
荒川版設定ではアルスラーン王子と宮廷書記官ナルサスが顔を合わせる機会が2年間あったのに面識がない。
荒川弘は原作を読み込んでない疑惑。
“ボンクラ坊っちゃん”として弱体化したアルスラーンとアニメではペアに配置された荒川版エトワール。
ん?なんですか?この居丈高でキーキー喚く山猿は?原作とは別人過ぎて、見てて本当に不愉快になりました。
ボンボンに過ぎなかった荒川版アルスラーン王子の思想に影響を与えた、
キーマンの役割を新たに与えられたわけですが、
『異教徒は差別されて当然』な荒川版エトワールの主張が、
イアルボダート狂信者のボダン大司教と大差ないのですよね。まさに言動が女ボダン。
宗教で平然と差別するくせに奴隷制度に異を唱えるダブルスタンダードが酷いですね。
『奴隷は間違ってる』『人間は平等だ』と王子を洗脳して、
後の“奴隷解放”に繋がるキーパーソン設定が荒川版エトワールに追加されましたが、
荒川版エトワールみたく軍属ルシタニア人が奴隷に身を落としたのも、
マルヤムに侵略戦争を仕掛けてパルスの援軍に惨敗して捕虜になった自業自得。
ルシタニア人は異教徒を人間扱いしていなく宗教的差別が酷いし、
第2話でのパルスとの戦の前にマルヤムを滅ぼして国王夫妻を焼き殺しマルヤム人50万人を奴隷として売ってるし、
どの口で絵空事を言ってるんでしょうかね?
そのルシタニア人の戯言であっさり洗脳されて、
『自由!』『平等!』『奴隷解放!』を口にしている王子もマヌケにしか見えないのですよ。
前述の世間知らずのボンボン設定捏造も荒川版エトワールとの出会いによって盲が開けた。
荒川版エトワールが王子を変えたから、歴史が動いた!という独自展開。
一人の登場人物を持ち上げるためだけに作品が台無しになってしまった感が拭えません。
第一次アトロパテネ会戦の後に女赤子関係なくパルス人を虐殺しまくったルシタニア人の唱える、
『平等』を信じてエトワールを甘やかす王子が本当にキャラ改悪ですね。
少なくとも原作のエトワールは主張の矛盾を全て論破されたりと、思想については全く肯定的に扱われていなく、
エトワールは妄信的で無知な信仰者の状態から、アルスラーンたちに感化されて視野が広がっていくのですが、
荒川版では妄言を上から目線で言いたい放題で叩く者が出てこないのでストレスが溜まります。
自分が一番頭が悪いくせに主人公を“アホ坊っちゃん”と呼ぶコイツがファランギースの矢に射殺されて、
単に最初は異教徒への偏見があっただけで、聡明さも礼儀もある性格の良い、
原作準拠の本物のエトワールが出てくればいいのに!と思ってしまいます。
荒川エトワールは何度も王子に接近し斬りかかってもいるのに、
何故か護衛のジャスワントが王子の側にいない御都合主義。返り討ちに遭うこと無く傷一つ負わない。
殺されかけることすらあった幾度もの度重なる非礼・蛮行に対して被害者のアルスラーンが何も言わない。
王子をかばってエラムが負傷して腹から血を流しているのに扱いが軽く荒川エトワールが罪に問われることすらない。
原作小説版に荒川エトワールがいたら王子が止める前にジャスワントによって間違いなく斬り殺されていますよ。
荒川版エトワールは、例えれば女が政治に口を出すスイーツ大河主人公ですね。
さらに悪いことに、無知・品格がない・粗野・尊大・傲慢・迷妄。
王子が敬語で接してるのに、荒川版エトワールは全部上から目線発言で偉そうな口調。
暴力ヒロイン好きな荒川弘の理想像なのでしょうが、
個人的には好きになれる要素が一つもない見てて苦痛なキャラでした。
原作漫画はまだ、エトワール再登場まで進んでないのですが、
荒川弘の構想資料を元にアニメの脚本が作られていますので、
このまま漫画の展開が進んでアニメでの問題点が改善されるか疑わしいですね。
モブ兵士が動いててアニメーションとしてのクオリティはしっかりしている。
バフマンやサームなどの中高年の脇キャラのデザインが良い。
など荒川版アルスラーン戦記にも褒めるところはあるのですが、
旧アニメと比べて女性キャラが全く美人に見えない。(旧アニメのタハミーネ王妃は本当に絶世の美女です)
アルスラーン王子が軟弱丸顔で凛々しさがない。
天野喜孝のイラストを元にした旧アニメのようなスケール感と耽美さと華やかさがないんですよね。
どっちにも長所と短所が、それぞれにありますけどね。
あと、BGMがエスニックさが薄いのが良くないと思いました。
岩代太郎さんの音楽は他のアニメでは良かったですがアルスラーン戦記には合ってませんね。
こういう世界史っぽい戦記モノは菅野よう子さんか大島ミチルさんが適任だと思います。
菅野よう子さんが担当になっていたらペルシアの民族楽器を用いて、
異国情緒あふれる音楽をしっかり仕上げてくるしょうね。
全25話迄観終わりました。漫画家・荒川弘ファンなら十分楽しめると思いますが、
原作小説や旧アニメが好きな人には、キャラ改変酷すぎと容姿のイメージの違いで全くオススメできないですね。
言いたいことは、以上です。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。