退会済のユーザー さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
己という唯一無二の領土を治める王となれ
一番好きなアニメは?と言われると「十二国記」と答える人は私以外にも沢山いると思います。
あくまで私個人の話ではありますが、成長記としてここまで完璧な作品は見た事がないです。
例によって全部記憶と愛情と自己満足で書いていますので、間違いもあるかもしれませんが、フィーリングでお願いします。長文なので全文読むのはめんどくさいでしょうから一言。
「主人公がすっごい成長するよ」(笑)
原作がいつ完結するのか知りませんが、それでも評価を下げる要因に決してなり得ません。大変多くの登場人物が出てきますが、その一人一人にドラマがあり心が宿っていて、それでいて陽子を主人公とした成長物語を完成させています。緻密な世界観を構築させていて、多くのメッセージに心を突き動かされ、どこから何を切り取っても素晴らしいファンタジーです。ですがやはり主人公の陽子の事が一番書きやすいので、それを中心に書いていきたいと思います。
・仮面を脱ぎ去って分かる事
本作の主人公は、誰にも嫌われないように優等生としての仮面を被った気の弱い女子。自分自身を押し殺すように生きてきた根暗女子。特徴的なのは異世界に飛ばされて「顔」が変わってしまうことです。いかにも気弱そう顔がちょっと凛々しくになります(笑)これは設定上ちゃんと説明されますが、それ以上に重要な意味があります。序盤は「顔」が変わっても表情は曇ったまま、終盤に進むごとに精悍な顔立ちとなっていく。これは見返して気づくことではあると思いますが、これほど顔が変化した主人公はなかなか他にはいない。主人公の表情はこの作品の肝とも言える部分なので、そこも注視していくと面白いと思います。
・環境が変わって分かる事
序盤の段階で断念する人の多くは、異世界に放り込まれる卑屈な主人公の陽子、彼女の困難に満ちた重い展開に気が滅入ってしまった、といったところでしょう。彼女は誰にも嫌われないように自分を殺しながらも、一人で生きていく術も知らない普通の女の子です。そんな彼女にとって、突然周りの環境が変われば大変な苦痛を伴うもの。理不尽に思えることが沢山あっても我慢するしかない。ただ我慢するだけでは延々と苦しみを味わうだけになってしまい、世の中全てが荒んで見えてしまうものです。他人の目を気にして仮面被って騙し騙しではもう生きていけないのです。この時初めて自分自身が何を成すべきか、現実とどう向き合うか、本当の意味での「自立」を考えることが出来る。主人公以外にも、環境の変化に対応出来ず苦しみながらも生き続ける人々の生き様を丁寧に描いています。これは誰もが経験しうることであるからこそ、丹念に描くことに大きな意味があったと思うのです。
・責任を負う立場になって分かる事
ラクシュンという理解者を得た主人公の陽子は目に見えて変わっていきます。彼は陽子の心の支えでもあると同時に本作における良心的存在なので、彼がいなけりゃ視聴を止めてた人も多いと思います。ラクシュンだけでなく様々な人の助けを借り、王となるわけですが・・・ここまでも長いけど、ここからがまた長いです(笑)誰の言うことを聞けば分からない、そもそも仕事の事もろくに知らない、どう判断して良いのか分からない。そんな陽子は周囲に蔑まれ侮られる。それでも自らが足を運び、目で見て、耳で聞き、直に学ばなければ何も得る事は叶いません。この作品において王になるということは予め定められた宿命であるにも関わらず、かなりの重責を負う立場で、道を見失えば「失道の病」にかかり結果死に至ります。非常にシビアですが、陽子が自らの意志で教えを乞い、自らの意志で行動し、その「責任」を果たし、「信頼」を勝ち取っていく、この辺まで来るともう「十二国記」は最高潮の盛り上がりを見せてきます。そしてその過程で必要だったのは言うまでもなく心強い同志でした。一人でも多くの同志がいなければ事を成すのは非常に難しい。
・苦労してきたから分かる事
さて、陽子が王として初めて発する勅令「初勅」がこの作品の一つの締めくくりです。
39話に当たるのですが、それまでに経験したあらゆる事を「初勅」に込めて、制止を振り切りながらも熱く訴えるのです。ここがこのアニメの最大の見せ場であり、走馬燈のように全ての登場人物・全てのお話が頭の中を駆けめぐり、激しく心を震わせるのです。このシーンあっての「十二国記」、それは間違いない、と言える屈指の名シーンです。本作は「人生」のほんの一部を描いただけですが、様々な登場人物を通して、深く深く掘り下げて見せてくれました。だからこそ、陽子の言葉の一つ一つに魂が感じられ、それを思い出すだけでも感慨深いものがあります。ここまで陽子の事しか書いていませんが、他にも様々な人間ドラマが存在し、そのほとんどが収束していく構成の素晴らしさも大きな魅力と言えると思います。40話以降は中途半端な感じで終わってしまったのが残念ですが、それでも十分一つの作品として成立しています。
・己の愚かさに気づいたら分かる事
最初は性根の腐った奴が多く、あまりにも閉じて荒んだ世界観に見えてしまう本作ですが、それは陽子を始め諸々の屈折した視点を通して物語を見ていたせいでもあるんですよね。登場人物の多くは最初周囲の環境や世界への見方がマイナス方向に極端に振れています。なので、彼らが心を開いていくと同時に世界観までもがパーッと開けてくる感覚になる。自分の事ばかりで周りが見えていなかった、周りが悪いと決めつけていた、と己の愚かさに本当の意味で気づいた時に、本来の世の姿が見えるものです。そして己の生き方次第で世界はまた違ったものへと形を変えていく。最終的に陽子が出した彼女なりの答えは、そういった経験を元にした非常に説得力のあるものですが、それは是非本編をご覧になっていただきたい。ここにその全てを書いてしまうのはあまりにも野暮というものです。
全て粗筋のように書いてしまいながらも改めて思いました。本作は成長記として美しいまでに完璧です。掴みが悪いとしても、それは作品に絶対必要であった事は明らかなので、そこで断念した人は、なんとかそこを耐えきってください(笑)学生向けでもあり社会人向けでもあります。書こうと思えばこの10倍の文字数でも書き足りないぐらいの密度、様々な角度から見れる世界観、極めて身近で現実的なメッセージを丁寧に丹念に練り込む事で生み出されたオリジナリティ。NHKらしさと、ハイファンタジーとしての魅力を兼ね備えた傑作。これ以上熱い想いの詰まったファンタジーはもう出てこない。
なんぼでも書けますが、もうこれぐらいにしときます。