しんばくん さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
騎士道精神を描いたSFロボ群像劇<ネタバレ感想>
前半シーズン、後半シーズンまとめての感想です。
とっても面白かったです。
私は騎士道精神を描いた悲恋物語に見えたのですが皆さんはどのように見えたでしょうか。
以下長文。
{netabare}【キャラに関する感想と考察】
●スレインとザーツバルム伯爵
この二人は何と無く似てると思いました。
前半終了時点ではそう思わなかったのですが、
愛しい人の死(姫は植物状態)で手段を選ばずヴァース帝国を変えようとする所とか似ていると思いました。
けれど、憎しみに囚われた心では志を果たすことは出来ませんでした。
スレインは最終的に救われましたがザーツバルムはなんとも哀しい末路を辿ってしまいましたね。
話の根幹に深く関わる二人の出番が非常に多い事と以上の事を考慮すると悲劇を描いている様に思えましたが、
最終的にスレインが救われるシナリオを見ると悲劇として纏めたくなかったという脚本家の意思を感じました。
●エデルリッツォ
後半ではレムリナ姫の侍女を勤めると同時にアセイラム姫の目覚めをスレインと共に見守る役でしたが、
この子はよくスレインの事を見守ってくれていたと思います。
第23話でスレインが何故あんなにも変わってしまったのかと嘆く姫に対して、
「何も変わっていません」と答える彼女の言葉と彼の心中を察しての涙に思わずつられて涙してしまいました。
この一言が真実で、僅かですがスレインの気持ちが報われることとなって本当に良かったと思いました。
●鞠戸大尉と耶賀頼先生とマグバレッジ大佐
個人的にこの三人に関する大人なやり取りが好きでした。
マグバレッジ大佐の兄が鞠戸大尉に殺された事を打ち明けたシーンから
耶賀頼先生は大尉に対する誤解を解くためにリハビリ時の映像(カルテ)をマグバレッジ大佐に渡すのですが、
その映像には大尉自身の手で兄を殺してしまった事実に苛まれている様子が映されており、大佐は改心する訳です。
その後の大尉と大佐は以前通りぎくしゃくせず、任務を遂行して行くあたりは流石に大人だと思いました。
もし、大尉と大佐との間に軋轢が生じて作戦に支障が出てたら火星騎士達の餌食となってしまい、
デューカリオンの未来は無かったかもしれません。
そう考えると大尉と大佐は火星騎士と直接戦ってデューカリオンを最期まで導きましたが、
耶賀頼先生は影の功労者として二人と同等か或いはそれ以上に活躍したと思います。
●伊奈帆
本策主人公のうちの一人。
物事を客観的に捉えることのできる子でした。
彼の姉である界塚 ユキによればアセイラム姫にかなり入れ込んでいるとか。
結果的に彼の入れ込み具合はアセイラム姫の窮地を救い
最終的には姫の頼みであるスレインを戦いから救う事も遣り遂げることになります。
本作は騎士が多数登場しますが彼もまたアセイラム姫に忠義を尽くす騎士のうちの一人だったのでしょう。
それと、彼の取る理知的な戦術が本作におけるバトルシーンの面白さを引き立てている訳ですが、
しっかりフォローを入れてくれるあたりは良心的に思えました。
とても分かりやすかったです。
●アセイラム姫
非常に危ない橋を渡る姫でした。
自身が戦争を再開させる為の火種にされたにも関わらず、
最期は自らの手で戦争を終結させるという勇猛果敢な姫。
更に付け加えるとスレインを不幸の連鎖から断ち切る事に成功し、
恐らくヴァースの民の食料問題を解決したと思います。
正に完璧でした。
クランカインとの結婚は和平締結後の反対勢力の牽制を見越してのことでしょう。
しかし、争い事が嫌いな姫としては反対勢力とどう向き合って行くのでしょうか。
彼女はまだまだこれからが正念場という事なのでしょう。
●ハークライトとレムリナ姫
この二人は心からスレインを慕う数少ない彼の味方でした。
ハークライトはスレインの右腕として仕える訳ですが
この人が大局に波乱を巻き起こすキーパーソンなのでは無いかと考えていました。
けれど、結局最期までスレインを尊敬する単に従順で実直な人でしたね。
レムリナ姫を騙したりマリルシャン伯爵を煽って殺したなど、
手段をいとわないスレインの姿を見て本当に心から尊敬しているのかどうか勘繰ってしまいました。
結局彼は本作の騎士道精神を描く一端を担った騎士のうちの一人でした。
レムリナ姫はヴァース帝国の騎士同様、少し古臭く堅苦しい口調の子。
そして恵まれぬ境遇から偏屈になってしまったようです。
スレインを自分と似た境遇である事を知って慕うが後々自分が利用されていると知ってしまう。
自分の味方はスレインしか居ないと最期まで縋り付くが最期はスレインから別れを告げられてしまう。
好意が届かないほど悲しいことは無いですね。
彼女はスレインやザーツバルムと同じく悲劇を演出する上で重要な要員でした。
●レイレガリア皇帝の死去について
なんというタイミングで亡くなってくれたのでしょう。
絶妙なタイミングも驚きですが、前半での衰弱した様子が物語を畳む上での伏線だった事に驚きました。
それにしてもスレインは皇帝さえ死ななければ今までの苦労が水の泡となることは無かったのに。
けれども亡くならなければ姫と対立し続けることになる訳ですし、
結果的には伊奈帆に助けられ、不幸の連鎖を断ち切ったのは姫のおかげでもあるので良かったのでしょう。
とは言っても死亡のタイミングについては少々強引な気もしなくもなかったですが。
●機動騎士について
どの機動騎士も手柄を上げる事に躍起になっているという設定なので単騎で出陣する事と、
それにアルドノアドライブも搭載している事から有頂天となってしまう事。
更には選民意識が高く地球人を下等民族と見下している事。
この3点が描かれていました。
機動騎士が負けてしまう理由は油断もありますが
やはり伊奈帆の洞察力が鋭い事にあると思いました。
【個人的ハイライト】
第19話
地球を模した庭にて車椅子に乗せられた記憶が混濁している姫とそれを押すエデルリッツォとのやり取り。
アセイラム 「綺麗…」
エデルリッツォ「はい!スレイン様が姫様の為にと、この庭園を。」
アセイラム 「地球の…景色ですね。」
エデルリッツォ「はい!思い出してきましたか?地球の事を。」
スレイン 姫の背後から青いバラを持って快気祝いに訪れる
アセイラム 「鳥を見ました。あの方と。」
エデルリッツォ「界塚伊奈帆…ですか?」
アセイラム 「界塚…?」
エデルリッツォ 浮かない顔をする
アセイラム 「どうかしました?」
エデルリッツォ「い、いえ!あの花綺麗ですね!」
落ちた花束に気づかれぬよう、花束とは逆方向を指差す
エデルリッツォ 姫を部屋に送った後、花束を拾い、後ろを振り返る
エデルリッツォはなんて心優しい子なのでしょう。
私的にはこのシーンが一番のハイライトとなりました。
ここで注目したのはエデルリッツォの心境もそうですがバラの色にも注目してみました。
これは18話での赤いバラと青いバラの花言葉が伏線でした。
赤「愛しています」
青「奇跡、不可能」
第18話にてスレインが「本当はもう一つの方(不可能)が真実かもしれない。」とエデルリッツォに呟き
マリルシャン伯爵との決闘中のセリフでは「奇跡なんて無い!」と叫びます。
しかしそうは言っているものの恋の行方には奇跡を望んでいました。
それが上記でのやり取りにある青いバラを持って快気祝いに訪れるというシーンになります。
青色のバラを選んだ理由としては、おおよそ姫から好意を寄せられたいという願いを込めてのことでしょう。
しかし皮肉すぎます。
奇跡なんて無いと分かっていたのに奇跡を望むなんて。。。
結果的に姫の心は伊奈帆に向けられていたと思い込み
自分のことなんて少しも思ってなんかなかったっと悟り、
青色のバラは恋の成就が不可能である事を証明してしまう。
この時のスレインの心情としては、
姫のお世話係としていつも傍にいた自分を差し置いて
同じ地球人であるシンデレラボーイの名前が出てきて悔しかったということでしょう。
これが切欠で地球人が憎くなってしまい、地球侵攻を決意してしまうという流れになります。
これまでなら故郷である地球と、姫の憧れる地球ということで争いの地にしたいとは思ってなかったでしょう。
ホント悲しいったらありゃしないです。
【唯一腑に落ちなかった事に対する雑感】
火星騎士の多くは初代ヴァース皇帝の取る政策(地球への反感思想)に賛同して結束を固めているはずが、皇位継承後に発せられたアセイラム姫の和平宣言に対して快諾できたとは思えません。
なぜそう思ったかというと、そもそも火星騎士は他の騎士よりも先に手柄を取り立てて武勲を得る事によってよりよい生活の充実を目的に騎士の務めを果たしていると私は思ったのですが、地球との和平締結が決まってしまっては手柄を得る術を失ってしまい、自身の生活の充実に繋がらないのではないかと思ったからです。自分達の意にそぐわなくても姫の号令に従ったという事であれば、それは立派な騎士道精神に則って行動している事にはなりますが、プライドの高そうな騎士達が地球側に対して譲歩するような態度を取る事になる訳で非常に不自然だと感じました。
しかしこうも考えました。プライドを保てないほど火星の資源、食料事情が逼迫しているという事であれば、豊富な資源は地球にあるので、和平交渉によって武勲を得ずとも豊かな生活を築くことが出来ると火星騎士達は踏んだとも考えられます。
しかしそうは思っても、私はアルドノア技術に魅了された騎士達が容易く自分たちの技術を手放すとも思えないのです。実際、今まで武力で占領してこれた訳ですから何の不満もないはずです。事実、最終話にて“一部”の騎士が制圧した土地でアセイラム姫と地球側に対して反抗していると説明があり、多少納得は出来ました。ですが“一部”というニュアンスに強く違和感を感じました。
想像ですが、アセイラム姫の号令に従った理由は、実際には複雑な状況下で致し方なく戦闘に身を投じていたのかもしれないと思いました。騎士を辞めてしまえば自身の生活の保障は得られず、武勲をあげたとしても火星の乏しい資源ではいずれ枯渇してしまうでしょうし、一筋縄ではいかない状況なのでしょう。
要するに、争いの啖呵を切ったはいいが、いざ戦争をしてみれば息が長く続かず、苦しいといった状況なのでしょう。そう考えると、何もしなくてもバース帝国は滅びの一途を辿る状況下にあったと思えて仕方ないです。
最終的に火星側はアルドノア技術を提供し、(恐らく)地球側は資源の提供という事でgive and takeの関係が成立し、和平締結を果たしました。
しかし、地球からの嫌がらせで決別したという事実があるので、火星騎士の心情的には絶対に地球人のことを快く思っていないでしょう。なので和平締結は納得したというより、食糧問題がプライドを捨てざるを得ないほど深刻だったのだろうと解釈しました。
それにしても初代皇帝とその派遣隊は乏しい資源の火星に定住しても構わないと思えるほどに地球から嫌がらせを受けたのでしょうね。それに地球を侵略しても構わないと思えるほどアルドノア技術は魅力的だったのでしょうか。或いは、単に頭に血が上ってしまってその場の判断が付かなくなってしまっただけなのでしょうか。
兎に角、アルドノア技術は余程魅力的な力を持っているようなので、今後地球での争奪戦が起こらない事を願います。
【難しかったセリフ】
単に言葉のボキャブラリーが貧弱なだけです。
1話 愚を持って弔意を示す。(クルーテオ)
2話 長らく食客に甘んじた (トリルラン)、姫に纏わる仔細を明らかにする (クルーテオ)
3話 蝕に入る故 ザーツバルム
9話 姫殿下には人身御供となっていただく (ザーツバルム)
14話 行き掛けの駄賃だ。(ザーツバルム)
16話 権謀術数めぐらす器量無き者はかえって信用できません。(レムリナ)
確たる証左がなければ流言としか聞こえん。(バルークルス)
17話 もっと一気呵成にくるんじゃないかと思ってました。 (耶賀頼)
主にヴァースの人間が喋るセリフが難しかったです。
このように古風な口調は封建的社会と地球に比べて時代遅れの文化であることを表す演出でした。
これらも私にとっては見所でした。{/netabare}
【カタフラクト:機体デザイン】
一見無敵に見えるカタフラクトでもしっかり弱点を残していました。
そうでないと伊奈帆も太刀打ちできないですよね。
カタフラクトは地球、火星共にガンダムの様に人が搭乗するタイプのロボットですが、
兎に角ディテールの凝ったデザインでした。
メカニックデザインはI-IV(あいふぉー)さん、寺岡賢司さんが担当。
寺岡さんはガンダムなども担当されてますが、
I-IVさんについては良く分かりませんでした。
機体デザインは今まで見たアニメの中で一番好きなので
今後のI-IVさんの活躍に期待したいです。
【BGM】
個人的には2014年放送開始作品の中では一番好きでした。
というより、今まで観た作品の中のBEST3に入るかも。
そのぐらい良かったです。
担当したのは澤野 弘之さん。
近年のアニメ作品では『青の祓魔師』『ギルティクラウン』『進撃の巨人』『キルラキル』『七つの大罪』などを担当。
この作品の顔ぶれを知って驚愕しました。
今後はこの人も注目していきたいと思いました。
【シリーズ構成】
本作のシリーズ構成を担当された高山カツヒコさんですが、
私のお気に入りである『ef - a tale of memories.』と『ef - a tale of melodies.』もシリーズ構成を担当していました。
本作も群像劇ですがこちらも群像劇。
その他にも色々と有名作品でシリーズ構成をされていると知り、
今後は注目していきたいと思いました。
【感想】
今らしい少し駆け足気味の展開でサクサク観る事が出来ました。
19話時点での伊奈帆のセリフに
「誰も耳を貸そうとしないだろうな。彼女が地球と火星を平和に導こうとしても。」
と呟くセリフがあり、確かにそうだろうなと私も思いましたが、
24話目での和平宣言の後の騎士達の行動があっさり姫の言葉になびいていて
急に物語を畳まなくてはならなくなったのかなと大人の事情を感じました。
けれど、脚本、音楽、機体デザイン、セリフ回しなど悉くツボに嵌って大変楽しめました。
それに、2クール物ではかなり良く出来たロボットアニメじゃないかなと思いました。
欲を言えば22話までの流れを考えると3クールは必要に感じましたが。。。
結末こそ不満が残りましたが、それまでの構成はとても良く、
個人的には傑作の部類となりました。