「サザエさん(TVアニメ動画)」

総合得点
64.2
感想・評価
146
棚に入れた
602
ランキング
3936
★★★★☆ 3.5 (146)
物語
3.5
作画
3.3
声優
3.6
音楽
3.5
キャラ
3.6

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sinsin さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 5.0 作画 : 3.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.0 状態:----

全自動たまご割り機の深淵

久しぶりの創作分析となるのであるが、この回のサザエさんの本当の題名は「父さん発明の母」である。しかしあまりにもこの名前が定着しているようなのでこの題名で考察したいと思いついた。
父さん発明の母これをまずご覧になってほしい。
なんというかふとしたきっかけで視聴することとなったのであるが、なんと言うか観れば観るほど深みにはまっていくというか気がつくと何回もこの動画を観直している自分に気がついた。
端的に言ってこれは日本社会の縮図であると思える。そう観ると恐ろしいほどのリアリティを感じてしまえる作品なのだ。
皆さんもこれを機にサザエさんの深淵をのぞいてみたらいかがか。

{netabare}波兵がある日全自動たまご割り機なるものを購入し磯野家へ帰ってきた。波兵の持っている全自動たまご割り機は名前のとおり自動でたまごが割れる様子だ。しかし、カツオに一蹴されている。
「手で割ったほうが早いんじゃないのかな」
この言葉は全自動たまご割りきのことを簡単に言い表していると思う。つまり、根本にあるものは全自動たまご割り機などは必要がないと言った主張である。
しかし、波兵はこれは主婦の味方だという風に得意満面の様子である。
このことは、どう言った事を表現しているのかというと、波兵は恐らくたまごを割ったことがないのではないか?という憶測を喚起させているのではないかと思えるのである。
たまごを割ったことがないということは、主婦の現場を知らないわけである。そんな主婦の気持ちもわからない波兵が冒頭で得意げに「あっと驚く主婦の味方だよ」と得意満面に言うのだ。
ここでのメッセージ性は明らかで、明らかに現状、現場を認識していない一家の主たる波兵が独りよがりであるということだ。
我々はそこの部分で無意識に、今の自分の現状と照らし合わせ共感しているように思えるのである。
そんな独りよがりの波兵に対し、マスオは
「ひゃあうまい、機械で割ったたまごは一味違いますよ」
と、あからさまな社交辞令を言ってみせる。そこら辺も視聴者にとって共感を生みやすいところであって面白さの肝であると思える。
全自動たまご割り機でたまごを割ろうが、素手で割ろうがたまごの味など変わりはしないのだ。これは絶対普遍の事実である。しかし、マスオは婿養子で波兵のご機嫌をとらなければならない。

ここで、もうひとつの謎としてなぜ波兵は全自動卵割り機なるものをわざわざ買ってくることになったか考えたい。
ここら辺は私のひとつの推測になってしまうのだが、波兵はいわゆる高度成長期の日本の文明信仰のようなものの象徴であったのではないかと思えるのである。
つまり、技術的に機械化できると思ったらなんでも機械でやってみたい。何でも機械でやることには間違いはないと言った幻想、つまり文明、技術が我々の暮らしを良くしてくれると思い込んでいるのではないか?と思えるのである。
そして、その幻想の産物がほとんど利用価値のない全自動たまご割り機の正体ではないかと思えるのである。
このことは、アニメサザエさんが、技術批判、文明回帰、体制批判的なメッセージを高度に織り交ぜている作品であることを体現しているように思えてくるのだ。であるから今でも我々はアニメサザエさんに惹かれるのではないかと考えるのだ。

しかし、この全自動たまご割り機の本質はそれでもまだ終わらないのである。それはラストの方のフネの台詞である。ノリスケの持ってきたアイディアである鰹節を削る機械の図面を熱心に見ている男性たちにこういうのである。勿論、ぐるぐるダシトールなどというアイディア自体現場を知らないから出てきたアイディアでありこれも幻想の産物である。
サザエ「馬鹿馬鹿しくて聞いていられないわ」
フネ「お酒を飲んだり、マージャンをしたりするより健康的じゃないか」
サザエ「そうだけど」
また私の推論になってしまうのだが、フネはお酒を飲んだりマージャンをしたりして思考停止に陥るよりは無駄なことでも考えている方が良いことじゃないかと主張しているのではないかと感じるのである。
つまり、これをもってサザエさんの父さんの発明の回のテーマ性なるものはこう捉えることができるんじゃないかと思うのである。
「全自動たまご割り機は無駄であり、そんな幻想を抱くことも無駄なものだったのかもしれないが、それにいたるまでの思考プロセス、経験は決して無駄なものではない」といいたかったんじゃないかと思うのである。{netabare}
そしてそれは物語の骨子において「物理的なものよりも精神性のほうが大事」ということを語っていたのではないかと感じるのである。それはとても崇高な意思であるとともに物語りに強烈なインパクトと同時にメッセージ性を与えるのではないかと思える。それがこの「全自動たまご割り機」が人の心をつかむ秘密のような気がしてならない。

投稿 : 2015/03/30
閲覧 : 490
サンキュー:

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