takarock さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
脆弱で、か弱い繋がりの向こう側に見える景色
アニオタになる前に本作は視聴していたのですが、
その時の印象は、難解とか哲学的ってイメージでした。
まぁながら観だったので
そういった漠然とした印象になるのは当然なのかもしれませんが、
改めて視聴してみて分かったのは意外と親切設計でしたw
「玲音」、「lain」とはどのような存在なのか?
英利政美(えいりまさみ)の目的とは?
ナイツとはどのような集団なのか?
この辺りのことは作中で説明してくれているんですよね。
98年放送と、もう20年近い前のアニメなので、
考察サイトや解説サイトというのはいくらでもありますから、
よく理解できなかったという場合は、そちらを参照して頂ければいいと思います。
本作は、現実世界(リアルワールド)と電脳世界(ワイヤード)という世界があり、
その狭間で揺れるとある少女の物語です。
ワイヤードというのは、イメージとしてはインターネットでいいと思いますけど、
それよりも心身により密接に関わってくる
より高度なネットワークといったところでしょうか。
本作のwikiにはこのような記述があります。
『存在は認識=意識の接続によって定義され、人はみな繋がれている。
記憶とはただの記録にすぎない。』
こういう世界観のお話なわけです。
肉体など不要、精神世界での他者との繋がり、より高度な人類の進化へ。
まるで「人類補完計画」ですねw
「GIS」のレビューで私は90年代後半は、
「極めて不安定な状況に置かれた価値紊乱の時代」と評しました。
90年代に起きた天災や人災を経験し、
ノストラダムスの大予言が本当に実現するかもしれないという気配が漂い、
どこかで囁かれる終末論、そして繋がりを求めて彷徨う個。
どこか退廃的な、その当時の空気感が非常に色濃く本作には残っています。
ただ、これも「GIS」のレビューで言ったことですけど、
この時代は「身体と心の乖離性」、
「これから本格的に到来するであろうネットワーク社会への期待と恐怖」
ということが盛んに議論されていたことなので、
当時の作品は、本作に限らず(というかアニメに限らず)、
その当時の空気感を纏っている作品は非常に多いんですよね。
私は先ほど「人類補完計画」なるワードを発しましたけど、
インターネットの浸透にはそのような側面もあると思います。
すなわち、「情報の共有化による画一化」です。
例えば、ネット上で、ちょっと気取った発言をしている人がいて、
それに対してポエマーwwとか、中二病wwなんて揶揄されているのを目撃した時に、
「こういう発言はしてはいけないんだ」と刷り込まれるわけです。
情報の共有化によって、ある種の規範(エートス)が形成され、
それを遵守するために行動が制約されるといったところでしょうか。
特に日本人は、周囲の目を気にして、他者からはみ出すことを異様に怖れますからね。
その結果、没個性的、そして周囲との同調、つまりは画一化という、
これも1つの「人類補完計画」の形と形容できるのではないでしょうか。
些か大袈裟な話かもしれませんけどねw
インターネットの浸透がどのようなことをもたらしたのかというのは、
これだけではありません。
本作を始めとして、90年代、あるいはそれ以前から
ネットワーク社会の発展というのは、自らの身体を媒介として
ネットワークに接続するということが実現するのではないかと思われていました。
2015年、今現在では実用化はされていませんが、
いずれ「ソードアート・オンライン」のナーブギアのようなデバイスが実用化されて、
ネットワーク上で視覚や聴覚だけでなく、嗅覚、味覚、触覚をも
体感できる日が来るのかもしれません。(実際に実現したら様々な問題を引き起こしますがw)
ただ、今現在主流なのは、スマホやタブレットのように持ち運べるデバイスですね。
流行るかどうかはまだ分かりませんけど、
持つではなく身に付けるウェアラブルデバイスなんてものも発売され始めています。
どちらにしても、どこでも手軽にネットワークに接続できるというのが特徴でしょう。
そういったデバイスが普及することによって、
現実の人間関係でもネットワーク上の繋がりを前提とすることが多いのです。
FacebookやLINEなどのSNSで、会社の同僚や学校のクラスメイトと
やり取りをしている方も多いと思います。
確かに便利なのかもしれませんが、LINE上でのいじめなど
新たな問題を引き起こしているという負の側面も、
決して見逃せないポイントです。
さて、このような社会は、
90年代に盛んに唱えられてきた現実世界と電脳世界の対立構造ではなく、
本作風に言えば、リアルワールドとワイヤードの壁が
取り払われている状況と言えるのではないでしょうか。
98年当時に、ネットワーク社会というテーマを取り扱った、
それ自体は決して斬新ではありません。
そういったテーマを取り扱った作品は他にいくらでもあります。
ただ、本作で取り扱ったテーマは、上述したように、
現在でも問題となっていることが取り扱われており、
そこが先見性が高い作品として評価されている一因なのかもしれません。
単に、この時代にネットワーク社会というテーマを取り扱ったから、
先見性がと言っている人も多いとは思いますけど・・・
いずれにせよ、そういうところも全部ひっくるめて、
本作は、今でも一部でカルト的な人気を博し、
また、思春期に視聴するとトラウマにもなりかねない
なんて言われている作品なのですw
最後に、私は本作を意外と親切設計と言いましたけど、
これはあくまで能動的な視聴をした場合の話です。
普通に観てたら「よく分からない」ということになると思います。
ただね、ひたすら説明を求める受動的な視聴を当たり前と思っている視聴者の声に迎合した
猿でも分かると言わんばかりの視聴者を舐め腐ったような作品ばかりでなく、
こういう作品がもっと増えたら、それはとっても嬉しいなって。
と、最後は「魔法少女まどか☆マギカ」のまどか風にこの文章を締めたいと思いますw