sekimayori さんの感想・評価
4.1
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
April Come She Will 【81点】
音を失った元天才ピアニストの少年が出会ったのは破天荒なヴァイオリニストの少女。
「羽海野チカ」風「のだめカンタービレ(ピアノの森?)」的、センチメンタル音楽青春ストーリー。
原作は一応最初期から追いかけてますが、上から目線で失礼ながら、ほんと、よかった。
音楽・作画(たぶん前提となる資金も)などなど諸々、全力投球してくれてありがとう。
映像化に伴う付加価値マシマシで、原作既読のアニメ化でここまで満足度高いのは数えるほどしかないです。
カラフルな絵作りやモノローグでセンチメンタル感が強まり、原作比で少し間口は狭まっているかもですが、素晴らしいノイタミナアニメ(本来のターゲット的に)でした。
何より演出がハマりまくっておりまして。
この作品あにこれウケ絶対いいよね。
一方で、「青春×センチメンタル」全開でお涙頂戴作戦展開されるとかなり厳しいって方(私もその傾向は大きいです)にも、けっこう少年漫画的な熱量は高いよって点はアピールしておきたいですね。
天才の復活劇+ライバルとの切磋琢磨、みたいなのお好きな方は、案外楽しめるハズ。
■gdgdに演出と音楽の話とか
{netabare}
物語的には、(音楽+ライバル)×(ボーイミーツガール+難病もの)のかなり真っ正直なつくりです。
目新しさは少なく、タイトルの意味もミステリとしてはオチが読めすぎ、下手すりゃケータイ小説のように陳腐の誹りを受けかねない。
でも本作(原作漫画も)は、高いアニメーション制作技術を以て「テンプレ」に堕することの無いよう、しっかり作られた「王道」作品だったと感じました。
要は、音楽と演出が良ければ素直なストーリーでもがっつり感動させられるよねってこと←オイ
例えば、クラシックという題材上山場となる演奏シーン。
時間軸上の「点」をコマ割りで切り取る漫画に対し、「線形」な時間上である意味均一に推移するアニメでは、表現方法が全く異なります。
しかも、他の音楽アニメと比べても心象と演奏のリンクが強い部類にあたる本作。
それをどのように画面上に引き直し、かつ既存の楽曲の旋律とリンクさせるのか。
視聴者からは計り知れない難しさがあるはず。
それを、(挟まれるモノローグ・回想というアドバンテージはあるにせよ)不必要な間延び感を感じさせないほど没入感ある映像表現で引きつけてくれたのは、ひとえにスタッフさんの技量のたまものでしょう。
旋律の変化に、色の落差を利用しまくった心情表現を乗せられると、理性では「ちょっとばかり大げさかな」と捉えつつも、脊髄反射で鳥肌が立ってしまいます。
原作自体のセンチメンタルさにはよくマッチしていましたし。
同時にコンサートホールの乾いた広さ、黒光りするピアノの存在感などもよく表現できていたように思います。
(ちょい脱線するけど、楽曲の編集・ピアノ以外の旋律付加は、22話という時間制約を課され、私のようなクラシックに無知な大衆も観るアニメにおいては英断かと)
一方で、演奏シーンの楽曲より心に残ったのがBGM。
比較的静かな構成の楽曲ばかりだった気がするけど、感情を掻き毟られまくり。
特に「アゲイン」のシーンで使われた曲はお気に入りで、そこだけ何度も再生してます。
楽曲自体の素晴らしさに加え、どのシーンでも、挿入・強弱含めキマっていて、演出が本当に優秀なアニメだったな、と。
音楽の力ってホントすごい。
サントラ絶対購入せねばなるまいて。
作画的には、手書き演奏シーンすごかったとか、逆に息切れしたとかあるけれど。
特筆すべきはキャラデザだと思います。
原作のクセをうまく落とし込みつつちゃんとかわいくて、おさげ眼鏡のかをりは激萌えでした。
感動のシーンのハズなのにね、おかしいね(・ω・)
何より、表情で「演技」ができるデザインだったことが大きい。
泣き顔や笑顔といった大きな表情はもちろんのこと、そこに至る表情の変化、細かな感情の機微まで繊細に拾い上げていた印象。
アニメの弱点が顔で演技できないこと、というのを以前聞いた気がするけど、あの花・とらドラ等の長井さんといい、アニメキャラに下手な俳優の数段上の演技をさせられている気がして、ベタにアニメの進化はすごいなぁ、と。
そういう諸々を考慮すると、最終話の出来はよかったですね。
「共演」シーンのかをり爆発はさすがにやりすぎで原作のほうが好みでしたが、立ち位置・体の向きの転換やBパート告白シーンラストの演出は、画面構成上は控えめでも強烈に情感に訴えかけてきました。
手紙を読む公生のパートも、にわかとしては、あんなに長回しで一人のキャラの微妙な表情変化を映し続けるのはほとんど記憶にない。
ラストに「キラメキ」を持ってくるのも、歌詞のリンクが存分に生かされていてベタながら泣けました。
結末を知っていてもなお、素晴らしい視聴後感でした。{/netabare}
■物語の話とか
{netabare}
演出と音楽の話ばかりしてますが、物語面では恋愛(というか難病死別)ものというより、音楽を通じた復活劇+群像劇として楽しめました。
武史と公生のライバル関係は純正少年漫画っぽい熱さがあるし、絵美の愛憎入り混じる公生への執着も心に響く。
公生とかをりの関係も、どちらかというと互いに触発しあう表現者という側面に意識を傾けておりました。
スキキライだけに留まらない在り方、豊かさがあるなぁ。
創作物での表現者の描かれ方って基本的に、表現の対象がアイデンティティと不可分に結びついてて、作品とかオリジナリティとかに対する怨念じみたものを感じます。
そういう中での人と人の競い方・高めあいの濃密さに、事務処理系の私でも否応なく感情を掻き立てられてしまって。
あんな時間、かをりの告白が無くても公生が忘れられるはずもないのにね。
それでもある種呪いじみた手紙を書いて、「忘れないで」と訴えかけざるを得ないかをりはとてもいじらしく感じられます
ハッピーエンドではないけれど、喪失によってヒロインとしての深みが出た、良い結末に思えました。
付け加えると、公生視点の物語の中で、椿・武史・絵美・凪の視点は時たま描かれる一方、かをりの目線は最終話以外徹底して排除されています。
かをり目線を意識しつつ再度視聴すると、公生が目にした(=彼のバイアスがかかった)表情に隠れた、かをりの真の表情・心情を想像することができて、ニヤニヤしたり切なくなったり。
「嘘」の内容にはミステリ的な驚きはないけれど、登場人物の感情と演出を楽しむという点においては、二重においしい作品ではないでしょうか。
不満点として、全編通してトラウマ虐待云々がくどいとか、SDキャラ暴力表現とか寒いギャグとかはどうしても感じますが、それらはもはやセンチメンタル系漫画の仕様として確立しちゃってる感も。
拒否反応起こす人の気持ちもよく理解できます。
あと、公生(とかをり)の物語ではあったにせよ、群像劇方面のストーリーラインが好きだったので、新川先生その続き書いてくれないかなぁ。
凪の数年後を描く構想はあるらしいので、そこで武史や絵美が補完されることを期待。
あ、渡が普通にいい奴かつ報われなさすぎて、椿の先輩共々、掘られてもいいです(よくない)
『君だよ、君なんだよ』はBメロまでちょっと違和感あったけど、サビの止め絵演出との親和性の高さに一瞬でハマりました。
{/netabare}
最後に蛇足。
今更ながら、アニメってすごく大げさなメディアなんですね。
美麗・派手目な撮影、長広舌モノローグ、印象的なBGMと、ノイタミナという枠の趣旨に沿った、常時わかりやすく視覚的に訴求力の高い作りでした。
一方原作は、黒ベタとシンジ君モノローグの根暗パートと、モノクロ紙面に脳内で色彩と音楽が乗るような演奏パートとの落差、それによる解放感がウリだと勝手に思ってます。
どちらも非常に楽しめたけれど、受ける印象が大きく違って、改めてアニメ化って面白い作用だなぁと感じた次第。
正直、あれだけ絵で魅せられるならモノローグはがっつり削ってもよかったんではないかとは思ふよ。
本作のセンチメンタル感が過剰でダメだった男性・年長諸氏にも、原作者の前作「さよならフットボール」はちょっぴりしんみり(?)できる熱いスポーツ漫画としてオススメです。
こうしてダイレクトマーケティングしたくなるくらい楽しめたアニメ化、ネットの片隅から再度スタッフさんに感謝を。
1話時点で安心できるアニメ化って素晴らしいね。
【個人的指標】 81点
(2015.3.26)
(2015.4.14) 誤字修正、公正って誰だよ……