ostrich さんの感想・評価
4.2
物語 : 2.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
萌える高速紙芝居
化物語とはよく言ったもので、
本作は化け物(あるいは化け物に憑依された者)たちによる「語り」であって、
「物語」とは似て非なるものです。
本文で言うところの「語り」とは語り手が気のむくままに、
彼の経験、知見、心情、感情、考察などをごたまぜにして言葉にする行為。
要はわれわれが日常的に行っているおしゃべりのことです。
おしゃべりは語り手の一方的な行為であり、
聞き手の理解は必ずしも必要ではありません。
一方、「物語」は語り手が「語り」の要素を
分類、整理、並べ替えなどを行い、「語り」に構造を持たせたもの。
これらの作業は「聞き手の理解」を目的とします。
これらの作業を経た結果、不必要な「語り」はそぎ落とされ、
必要な「語り」は「(登場人物の)セリフ」に変化し、
「物語」を伝える手段のひとつとして、機能するのが普通です。
言うまでもなく、アニメを含む映像作品が扱うのは主にこちら。
ところが、本作はほぼ登場人物の「語り」で構成されている珍しい作品。
一応、大枠の構造=「物語」はありますが、いたってシンプルで、
1.怪異の発見→ 2.語り(会話も含む)→ 3.怪異の解決
とこれだけ。しかも、費やしている時間の大半が2の上に、
そこには物語の進行とまったく関係のない内容も多く含まれています。
原作である小説というメディアはそれでも成立するのですが、
これを、商業アニメにするのはかなりの困難があったかと思います。
だって、起きている出来事を何の工夫もなく定点カメラで映像化したら、
大半が「どこかで男女が何かを延々しゃべっている」映像になっちゃいますからね。
動きを含む要素が極端に少ないのでアニメでは非常に扱いにくいのです。
逆に原作の動きのある箇所だけを拾って映像化すると、
1キャラクターあたり30分程度で終わってしまうんじゃないでしょうか。
(ひたぎクラブなんて15分で終わる気がします)
過剰な「語り」と、シンプルな「物語」。
この点だけなら、押井守の作品に似ています。
彼の作品は難解とか複雑とか言われていますが、
それは「語り」の内容だけで、物語の構造はシンプルなのです。
ちなみに、押井作品は長い「語り」の部分を映像作品として成立させるために、
キャラクターの芝居や比喩的な風景光景などを比較的長めのカットで映す、
極めて映画的な手法を用いています。
一方、本作では、テンポの良い声優の芝居を前提に
凝ったレイアウトで、テロップ、タイポグラフィ、キャラクター表情、仕草、ポンチ画など
多様なイメージを短いカット割りで次々に映し出す、PV、CF的な手法。
紙芝居には違いないですがテンポと、スピード感で勝負しています。
同じテレビアニメ作品ならエヴァンゲリオン(テレビ版)の最終回の発展系と
みなすことも出来るかもしれませんね。
エヴァの場合は鬱展開であることも相まって、賛否両論でしたが、
なるほど、この手法は萌えとは相性が良かったのか。
エロ描写が過剰なのも、この手法と合致するゆえかもしれません。
差し詰め「萌える高速紙芝居」といったところでしょうか。
ちなみに、物語のモチーフである「怪異」については
水木しげるや京極堂シリーズの1/100程度の濃度ですので、
そういうものを求めると肩透かしを食らうことになります。
怪異の設定はほとんど原作者のオリジナルで、
キャラクターの萌え要素の一部に過ぎません。
先述の通り、本作は「物語」が「語り」と「萌え」に従属しており、
この辺りは好き嫌いが分かれるところでしょう。
…が、オレは嫌いじゃない。
「犬の死体かと思ったら…」とか言われたい。
戦場ヶ原、蕩れ。