ossan_2014 さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.5
作画 : 3.0
声優 : 4.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
異形の哲学者
【誤字修正】
アニメとしてもう少し映像に華があってもよかったのではないかと思うが、主題とのバランスをとった結果なのだろうか。
人間とは何か。
中学生が一度は考えそうな主題だが、別の言葉で言えば、「世界にとっての人間/人間にとっての世界」の意味という、普遍的な哲学上の難問でもある。
このような問いかけと思索は、語られる内容を知ろうともせずに放り出そうとする、脊髄反射的なアレルギー反応を引き出すことも少なくない。
「世界」の外側から世界を見下ろすような印象を持たれがちなこの種の思索は、インテリが特権的な立場から高説を垂れることに対する無教養層の条件反射的な反感を思わせる、感情的な拒否反応を引き出しがちなようだ。
ヒトを捕食する「寄生生物」というまさしく「世界」外の存在の視点を導入し、これとの抗争というアクションを盛り込むことで、この主題に付きまとう反発を回避して物語としてまとめ上げる語り方は、ミギーという特異な「寄生獣」の重ねる思索を、人外という設定によって逆説的に受け入れやすいものにし、物語と有機的に絡み合わせることに成功している。
主題の展開への慎重な計算は、非生物的な音声であった語りが、非人間的な「人格」を感じさせる発話へと変わってゆく、ミギーの声の変化の演出にも表れている。(この演出によく応えた平野綾の演技は特筆されていい)
この変化は、ひたすら情報を収集し、事物の構成として真理を世界に見出そうとする伝統的な形而上学者のようであった誕生直後の思考が、意味と価値の構造として世界をとらえようとするフッサール的な地点へ移行してゆくミギーの思索の深化を、的確に暗示したものだ。
物語の最後に至っても決して「人間」化しないミギーの思索は、製作者のバランス感覚が確かなものであることを窺わせる。
あくまで人外の立場からなされた難問への思索は、人間へと引き継がれなければならない。
人間の生きる「社会」の価値基準は、ヒトにとっての善悪という哲学の上にしか存在し得ないのだから。
殺人者という「人間」と対決するラストシーンで、主人公の着ていたTシャツのロゴが「Aporia」=難問〈アポリア〉であったのは、最後まで真剣に主題に取り組んだ製作者からのメッセージのようだ。