まるいぬ さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「いちご同盟」と椿の時間
アニメは原作完結まで描かれるということだったので、かなり期待して視聴開始。
「俺妹」もそうだったけど、原作完結と同時にアニメも完結するスタイルが商業的にも作品的にも良いね。
■いちご同盟
第14話で、再び入院してしまったかをちゃんのために、渡がお見舞いに図書館から本を持ってきます。
皆が帰ったあと、ひとり「こんなに読む時間ないよ。」とつぶやきながら手にとるのが、「いちご同盟」という作品です。
このシーン。
かをちゃんのこのセリフから、かをちゃんの病気はかなり深刻であり、残された時間もわずかであることが分かりますが、
もっと重要なのはこの後のシーン。
「いちご同盟」の貸出カードに有馬公生の名前が記されているのを、かをちゃんが発見するシーンです。
ここで「いちご同盟」のあらすじを引用しておくと、
中学三年生の良一は、同級生の野球部のエース・徹也を通じて、重症の腫瘍で入院中の少女・直美を知る。徹也は対抗試合に全力を尽くして直美を力づけ、良一もよい話し相手になって彼女を慰める。ある日、直美が突然良一に言った。「あたしと、心中しない?」ガラス細工のように繊細な少年の日の恋愛と友情、生と死をリリカルに描いた長篇。
これにひとつ補足をしておくならば、主人公の良一もピアノ少年である。ということかな。
お気づきかと思うが、公生は良一に、渡は徹也に、かをりは直美に、立場が重なる。
みんな中学3年生というのだから、なおさらだ。
そして、「いちご同盟」を読んだかをちゃんも、直美と自分をかさねてしまう。
ここから第16話のラストで「いちご同盟」のあのセリフをかをちゃんは公生に言うわけです。
「あたしと、心中しない?」
「いちご同盟」のネタバレをすると、
{netabare}
直美は最後には死んでしまいます。生きるとは何かを悩み、自殺も考えていた良一は、その死を、直美を、忘れず生きることを誓うのである。
{/netabare}
公生もこのセリフが「いちご同盟」の引用だということに気付いており、
このセリフと、これまでのかをちゃんの言葉の数々から、かをりが死を受け入れていることを直感します。
かをりが遠回しに「私はもう死んでもいい」と言っていることに公生は気づきます。
弓を持てない自分なんて意味ない。自分のことなんか忘れちゃえばいい。
と悲しそうに笑いながら言うかをり。
公生はそんなかをりをみて、音楽で語ることを決意します。
凪「有馬先生は、どうして学祭に出たいんですか?」
公生「僕にはひどい友達がいるんだ。いじけたその人を一発ぶん殴ってやりたいんだ。」
そしてあの演奏につながるわけですが、この流れはホントにアツイ。
遠回しに「ふざけんな。生きろ」という。演奏家は音楽で語るからね。
目や表情で語る作品は名作ですが、このように、直接語り合うのではなく、こんな表現の仕方もおしゃれです。
そして、病院の屋上でのシーン。
「君は王女さまじゃないよ。カヌレが好きなケーキ屋さんの子で小説のヒロインじゃない。僕はラヴェルなんて、絶対弾かない」
「いちご」読んでたひとはここたまらなかったよね。ほんと
先ほどの補足にさらに補足をしておくと、主人公の良一は、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を愛すピアノ少年だということ。
このセリフに対し、かをちゃんは
「残酷な男の子 私にもう一度夢を見ろという 夢がかなったからもういいって思ってたのに、諦めてたのに 君はまた 枯れた心に水をくれるのね」
つまりこのシーンで、「四月は君の嘘」という作品は「いちご同盟」のオマージュから完全に脱却し、公生は良一ではなくなり、かをりも直美ではなくなったのです。
この時点で「いちご同盟」ルートは完全に抜けたと思ったのですが、、、
■椿と時間
初めて「いちご同盟」を読んだときはこれで終わりかよ!っと物足りなさを感じたため、
てっきり「君嘘」はあの終わり方を書き換えるものとばかり思ってたのですが、、、
作者さんは大好きなのでしょうね「いちご同盟」。
では「四月は君の嘘」と「いちご同盟」はなにが決定的に違っていたか。
これはもう澤部椿という女の子の存在でしょう。
「いちご同盟」には椿とポジションのかぶるキャラはいないのだし。
椿のモノローグにはたびたび時間という言葉がはいってきます。
第6話の「このまま時間がとまればいいのに」や
第15話「私だけ踏み出せないでいる。 時間がとまっているのは、私だ。」「進め 踏み出せ私 私の時間」
公生の止まっていた時間を動かしたのは、椿ではなくかをちゃんです。
そのことに椿はショックを受け、公生がだんだんと自分のそばから離れてくように感じます。
小さい頃からそばにいた、弟じゃない男の子がいつの間にか遠くへ行ってしまう。
自分の思いに気付かず、伝えられず、停滞した自分を残して。
だからこそ、第20話の雨宿りのシーンは名シーンなんだ。
「どうだ、思い知ったかざまあみろ。踏み出してやったぞ。私の時間は動き出したばかりだ。」
「四月は君の嘘」は椿が自分で自分の時間を動かす、一歩踏み出すっていう物語でもあったんだよ。なんなら椿がメインヒロインなんだよ。
そう考えると、そこまで悲しい終わり方ではない気がするんですよね。
「いちご同盟」の良一をこれから支えていく人はいなかったけれど、
「四月は君の嘘」の公生には椿がいるんだから。
かをちゃんのいない4月がきても、一緒の時間を椿と公生は過ごしていくわけだし。
「一人になんてなれると思うなよ!公生 背後霊みたく ずーっと ずーっとそばにいてやるんだからな! 覚悟しとけ!」
椿の頑張りにニヤニヤ泣きする。
■作画とか音楽とか
指があんなに綺麗にすばやく動くアニメを初めて見たよ。
この演奏シーンは力を入れるぞっていう制作陣の熱意がバシバシ伝わってきたよ。
残念だったのは2期opだな。「心中しない?」とかシリアス部分のあとに、
「いま あざーやーかーなー シンフォニー♫♫」とか、かなり萎えてしまった。
「ドーレーミーファーソー♪」の歌詞の音自体は「ファーソーラーシードー♪」だしな←
とらドラしかり、凪あすしかり、名作アニメの2クール目opはガラッとシリアス風になるのに、「君嘘」は残念だったな。
サントラはかなりおススメ。「いちご同盟」忘れちゃった方や読んでない方は、あれ聴きながら読むと雰囲気でていいですよ。