「PSYCHO-PASS サイコパス(TVアニメ動画)」

総合得点
90.2
感想・評価
5604
棚に入れた
26486
ランキング
60
★★★★★ 4.1 (5604)
物語
4.3
作画
4.0
声優
4.1
音楽
4.1
キャラ
4.1

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ostrich さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

「濁り」人のつぶやき、ほか、元ネタ推測

本作を観る直前、ネットで調べ物をしている最中に、映画サイトで、こんなレビューを見つけました。

「こいつら、事件が起きた後じゃないと対処できない現実の警察みたいで、胸糞が悪くなった」

レビュー対象の作品はすっかり忘れたのですが、この文章だけがやけに頭に残りました。またこのレビューに共感する人がそこそこいたことも印象的でした。

このレビュアーさんは「事件が起きる前に対処する警察」を望んでいるということなのでしょうが、それが実現している社会ってかなり怖いものです。
日本も含む第二次大戦敗戦国の戦前や、冷戦終結前の東側諸国、戦後アメリカのアカ狩り、など。思想や信条や感情など、個人の内面を取り締まるとロクなことにならないのは歴史が証明しているはずなのだけど…

と思いながら本作の鑑賞を始めると、まさに内面を取り締まるシステムが機能している世界を描いているじゃないですか。
そして、それがロクでもない世界であることは、犯罪被害者である女性の内面に反応したシステムの端末が「彼女を殺せ」と命じる描写、5歳にして犯罪予備軍認定された主人公の同僚のエピソードなど、序盤で明らかになっています。
だからこそ、主人公たちの矛先は次第にシステムそのものに向かっていくわけですが、先のレビューを思い出すにつけ、われわれが生きる現実の世界は主人公たちの方向性とは真逆になりつつあるような気がして薄ら寒くなりました。
私は本作のような世界で社会のコマになるのは本当にイヤなので、こんな世界が実現するなら私の死後にしてほしいものです。
おっと、こんなことを考えていると「濁って」しまいますかね。ヤバイ、サツが来る!

さて、話は変わりますが、本作には様々なオマージュ、引用が見て取れます。

まず「工殻機動隊SAC」が企画の出発点になったそうですが、結構別物にしたなあ、と感心しました。類似点を挙げるとすれば、「文学の引用、提示(P.K.ディック、J.コンラッド、M.プルースト/SACはサリンジャー)」とか「サイボーグ」とかなのですが、後者については「サイボーグ化の始まり」という時代設定にしてますね。言い換えれば、「SAC前夜」に設定することで差別化を図ったのでしょう。

これはうまくハマっていたと思います。

ビジュアル的に近未来なのはシステム端末の銃とバーチャルリアリティ空間くらいで、そのほかは現代ドラマと変わらない世界観が観客との親和性を高め……って、あれ? このテイストは「パトレイバー」か!?
ちなみに本広総監督の代表作「踊る大走査線」の元ネタが「パトレイバー」なのは有名な話です。

P.K.ディックに関しては作中「電気羊はアンドロイドの夢を見るか?」が引用されていますが、より大きな影響を与えているのは「マイノリティ・リポート」かと。S.スピルバーグ監督によって映画化されていますのでご関心があればぜひ本作と併せてご鑑賞……と言いたい所ですが、本作(サイコパス)を未鑑賞の方は、控えたほうがよいかも。
なぜかは言わぬが花ということで……

あと、細かい部分ですが、サイボーグ化したオジサンが語る「携帯タブレット=サイボーグ化の端緒」説は、たぶん、布施英利(ふせひでと)という批評家の著作からの引用だと思います。彼は携帯電話が一般に普及し始めた90年代半ばくらいに流行った批評家で、その時点で、サイボーグオジサンとまったく同じことを書いていました。慧眼。

で、もう一点、これは特に声を大にして言いたい。

本作の作り手たちよ、お前ら、D.フィンチャー大好きだろ!
オレも大好きだ!

いや、私、本作のOPを観た時点で、本作を好きになることを確信したのですよ。だって、明らかにD.フィンチャー監督作「ファイトクラブ」のオマージュなんだもの!
ちなみに「ファイトクラブ」はOPだけではなく、物語にも影響を与えていると思います。後半の展開(ヘルメット登場以降の件)はかなり似ているし、コウカミとマキシマの関係は、「ファイトクラブ」のナレーターとタイラー・ダーデンの関係のようにも見えます。

あと、鑑賞した方はわかると思いますが、本作(サイコパス)には中盤、かなりエグイ展開があります。で、その「エグイ事が終わった」後のカットが、同監督の「セブン」の、あるカットと全く同じ構図なんですよ。カットの位置づけ含めて、心憎い引用。
実はシリーズを通じて個人的に一番盛り上がったのは不謹慎にも、このシーンでした。

うーむ、やはり、私が「濁っている」のは疑いようもないか。

ま、世に理不尽なことは多々あれど、「濁り」ながらもエグイ展開のアニメを観ながら、そこそこ生きていける現在の社会は、少なくとも私にとっては、胸糞悪いものではないですね。

投稿 : 2015/03/25
閲覧 : 442
サンキュー:

13

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