STONE さんの感想・評価
3.3
物語 : 3.5
作画 : 2.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
憎しみを捨てて
原作は未読。
「とある飛空士への追憶」(以後、「追憶」と表記)と同じ世界観の作品で、若い男女を
中心としているところも同じ。
「追憶」のレビューで、「詳細な設定は判らなくても問題ない」みたいなことを書いたが、
こちらは主人公であるカルエル・アルバスとクレア・クルスの行く末を描きつつも、イスラの
「空の果て」への旅という大局的なものも描いているため、詳細な説明がないのが痛かった
ように思える。
特に中盤以降は多くのキャラが死ぬような展開になるが、イスラの目的の詳細が判らない
ために、「命を賭してやるようなことか?」と思ったりもしてしまった。
中盤の山場である「空の一族」との戦闘もそんな感じで、主人公サイド視点の作品で
あることから正義は主人公サイドにあるのだろうが、詳細な背景が判らないためにイスラが
「空の一族」の領域に勝手に侵入しているように映り、非はイスラ側にあるように思えて
しまう。
最終話もそんな感じで、クレア奪還のためとはいえ、バレステロスが停戦協定を一方的に
破棄して戦争を始めたように見えてしまった。
序盤はカルエルとクレアの出会いから始まるが、こういうボーイ・ミーツ・ガールものは結構
好き。自転車二人乗りなんてボーイ・ミーツ・ガールものの王道といった感じで、見ていて
微笑ましい限り。
この二人が次第に仲良くなっていく過程も割といい感じに描かれていたように思える。
二人がそれぞれ正体を隠して接しているところがこの作品の特徴だが、視聴者に対しては
主人公であるカルエルはモノローグであっさり説明しているし、クレアの方も割と早くから
正体を明かしており、この設定自体は視聴者に驚きを与えるものではなく、むしろ正体を隠して
いることに対する葛藤を見せたかったみたい。
クレアの正体を知ったカルエルは愛憎入り交じった状況に悩むが、クレアとて望んで
カルエルの両親を死に至らしめたわけではなく、風を操れる存在として生まれてしまったためと
しか言いようがない感じ。
これはカルエルの両親も同じようなもので、二人とも人間としては悪い人ではなさそうだが、
王政としてのバレステロスが大衆の支持を得ていなかったのも事実。
現実でも本人に問題が無くても、たまたまその位置にいたために責を問われるような例は
幾らでもあり、いずれも運命が生んだ悲劇と言えそう。
結局は憎しみより愛を取ったカルエル。母の言葉も大きかったようで、憎しみを捨てて
見れば、目の前の少女は両親の敵であるニナ・ヴィエントではなく、恋した相手のクレア・
クルスだったということなのかな。
出会いから、経歴や地位を取り払った等身大の一人の人としてクレアと接していたのも
大きかったかもしれない。
中盤からは「空の一族」との戦闘になるが、多くのキャラが死亡、及び後に影響を与える
ような負傷に。
こうした結果以前にイスラ側の兵器の質が劣る展開に早くから悲壮感が漂い、カルエルと
クレアの葛藤もあって、結構暗い展開。
悲劇の戦陣を切ったのはミツオ・フクハラとチハル・デ・ルシアのペア。この作品、
カルエルとクレア以外にも幾つかのカップリングが見られたが、個人的にはミツオとチハルの
ペアが初々しさもあって、かなり好感度が高かっただけにちょっと悲しかった。
その後も数々の悲劇が描かれるが、主要キャラ以外の心情描写が少なかったせいか、大半は
カルエルやアリエル・アルバスの仲の良い友人止まりといった感じで、描かれている内容ほど
感情的盛り上がりは弱かったかなあ。
それぞれのお当番回のようなものがあれば、もっと感情移入できたのかもしれないけど、尺の
問題もあるしね。
アクション部分の要である空中戦は空と言いながら、単なる飛空機戦闘に留まらないもので
あるためにそれなりに興味深いものがあった。
軍事考証的にうん?と思うようなこともしばしばあったが、軍艦や島が空飛ぶような世界の
話なので、あまり現実世界の考証を持ち込んでもしょうがないのだろうな。
それよりメカの作画をもう少し頑張ってもらいたかった。
後半にイスラを助ける存在である神聖レヴァーム皇国の海猫のノーズアート付けた飛空機が
登場するが、このパイロットはどうも「追憶」の狩乃 シャルルのよう。
更に本人は登場しないが会話の中にやはり「追憶」のファナの名前が出てくるなど、二人とも
その後も元気なようでなにより。
総じた印象では、世界観や展開自体は悪くなかったが、前述のように設定の詳細な説明や主要
キャラ以外の心情描写が弱かったせいか、やや薄めのドラマになってしまった感じ。