よぞら さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
生徒会、それは損なわれた人間性を回復する物語
主人公、杉崎鍵は傷を負った心を癒してくれた人たちの集う生徒会へ、恐るべき倍率をものともせず、メンバー入りを果たした。そして生徒会室に踏み込んだ、彼は誓うのだ。ここにいる全員を幸せにしてみせる、と。ゆえに彼は、誰も傷つくことのない、ハッピーエンドの最高峰、ハーレムエンドを目指すことになる。
生徒会、そこにはBL好きだが弱い者をいたわることができる椎名真冬、学校の人気者で情熱溢れる椎名深夏、冷徹だが心の痛みを分かっている赤羽千鶴、そして幼子のように純真無垢な会長、桜野くりむの四人がいる。
彼女たちは暗い話題は扱わない。それは誰もが痛みや苦しみを理解した上で、敢えて平凡で和気藹藹とした日常を選んでいるためである。彼女たちはそれこそが最良の選択であることを分かっているのだ。
ところで杉崎には、生徒会に触れる前に、ハーレムエンドを目指す要因となった大きな出来事があった。二人の女性と彼の間に起きたある事件である。それによって杉崎は誰も傷つけないハーレムエンドを目標に掲げることになるわけである。一期の放送ではそれほどショーアップされなかった、その事件の当人であるリンゴとアスカも二期では登場する。二人が生徒会のメンバーと出会い、触発し合うさまは大きな見どころのひとつであるだろう。
そして彼は生徒会の面々との触れあいを経て、自らの「誰も傷つけない」という確固たる信念が「誰かを傷つけるかもしれない」という矛盾した事態に決着をつけるべく、大いなる意志をもって選択することになる。彼は生徒会のメンバーを、交換不可能な主体として位置付けるにいたるのである。それはおそらく、以前の彼であればできない決断であった。不安が彼を苛み、受け入れがたいリアルな他人の痛みが彼を襲うことを、彼は許容できなかったことだろう。しかしいまや、生徒会によって人間性の損傷を回復した杉崎は、それを笑って決断するのである。それほどまでに彼は成長することができたのだ。
彼は自らの信念にしたがって、多くのものを生徒会へ捧げてきたことだろう。彼はそのために、自分が予想だにしなかった掛け替えのない未来図を手に入れたのである。彼は変わったのではない。彼は自分のままで未来に進んだのである。
だから生徒会のメンバーは彼に言う。
そして、彼もまたその言葉を返す。
「今の君でいてください」と。