退会済のユーザー さんの感想・評価
4.2
物語 : 3.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「ほんの少し」
新海監督作。
一人の女性の人生を走馬灯のように、子供から大人になるまでをザーっと流した映像。ただそれだけ、ただそれだけが、こんなにも心に灯をくれる。
ナレーションの語りが子守唄のようにあったかく、父親との距離が幸せな羽衣に包まれたような、微笑ましい光景だった。それは大切な時間を共に過ごした家族からでた、まなざしの言葉だからだろう。人が社会人になるまでの、親子のふとした瞬間の映像を切り取って教えてくれる。
移り変わる四季の映像に合わせて時が移ろってゆく。
新芽のように祝福された綺麗な桜は、目に移るモノが全て新鮮で、無邪気に笑うのを許されていた。
かっとした初夏のひざしは外へと届き、その笑いが家族以外の人達に変わってくる。
絵の具で塗ったような落ち葉は、様々な色で変化をもたらし、やがて悲しいことや辛いことの方が増えてくる。
季節は冬。檻のような寒さが、社会人になってひしひしと感じる頃。幸せなことなんて、「ほんの少し」になってくる。
めぐりめぐって季節は春。その頃ようやく、親子は「ほんの少し」を分かち合える関係になれるのだろう。
結婚式で新婦がお父さんに感謝の言葉を綴るように、やっと角が取れた親子の光景ほど安堵をくれるものはない。お互い不器用にも過ごしてきた日々が、不器用な間柄をまだ匂わせながらも「ほんの少し」の幸せを「ほんの少し」の七分間で、押し付けがましくない「ほんの少し」だけを伝えてくれる。少しである分、受け取り方しだいで多くの、自分の中にもある少しの幸せを想いおこさせてくれる、そんな作品。