ossan_2014 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
夏のノスタルジア
偏見を持つのは好ましいことではないが、それでもジュブナイルといえば「ひと夏の冒険」のイメージから離れられない。
ひと夏の限られた時間に凝縮された、日常を塗り替えてしまう冒険や恋の鮮やかな色彩に満ちた「特別な夏」の物語たちに、本作もまた連なるものだ。
冒険と夏の終わりとともに、「ああ、これは特別な夏であったのだ」と振り返るジュブナイルはまた、ノスタルジアの物語でもある。
いま「夏」を迎えている/迎えようとしている人たちよりも、すでに特別な「夏」を経験した者たちにこそ、本作は、甘酸っぱく胸に迫ってくるのではないだろうか。
本作の、信州の田舎町の風景や、8ミリカメラといった、ある意味時代的な変化のない道具立ては、更に、長野新幹線や21世紀の流行語が会話中に登場するにも拘らず作品空間からケータイやパソコン、コンビニが排除されている事によって、作中の時代性を大胆に曖昧化しているようだ。
あるいは、どこでもない時空間を作り出そうとしているようにも。
ケータイやパソコンの存在を排除するのであれば、新幹線や会話中の言葉、服飾デザインに少し気を配れば、時代的な齟齬を生じさせないようにはできる。が、それでは70年代後半から80年代初頭の出来事のように、時代を特定して視聴者に受け取られるだろう。
やはり、製作者は、いつでもない、どこでもない時空間を意図していたと感じられてならない。
ラストの数分で、一気に数年の時間差と振り返りの視点を持ち込む時間的な幻惑感は、そのまま時代性の混濁感を一層強化しているように見える。
「夏」の日の一瞬が永遠に変わる奇跡の為には、時間自体の操作がどうしても必要であるのかもしれない。
奇跡の実現のため極度に人工的な時空間を設定しながら、不自然さを露呈させずに最後まで物語を走らせ切ったのは、もう一つの「奇跡」いや、製作者の実力の表れだろう。
没時代的な時空間での一瞬=永遠の奇跡が、ジュブナイルの「ひと夏のノスタルジア」と絶妙に共鳴する。